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魔剣争奪戦編

第103話 最悪のタイミング

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「ハァ……ハァ……」

 アンブレラが転移の光に消えると、タマコは落下するかのように着地した。
 翼をとじると疲労感がドッと襲い仰向けになって倒れた。
 ただでさえ体力を使うフェニックスの力を数分間全力で使い続け、特大火力の魔法まで撃ったことで疲労困憊の状態であった。
 魔力もほとんど尽きている。
 きっと明日は筋肉痛やら何やらで動けないだろうと憂鬱になるのであった。
 そんなタマコの顔には、やり切ったという感情が溢れていた。

「エリス、約束は守ったぞ……」

 古き魔王の一角に勝つという偉業は、タマコ一人で達成したことではない。
 シャルルがタマコを回復させなければ、不死鳥の力でも届かなかった。
 エリスがタマコを庇わなければ、とっくにリタイアしていた。
 この勝利は、エリスとシャルルを含め三人で掴み取った栄光なのである。

「ふぅ……主殿は大丈夫だろうか?」

 本音を言えば休んでいたいところだが、そうも言っていられない。
 戦闘途中で距離が離れてしまったため現状は不明だ。
 おおよその方向は見当がついていたので体に鞭を打って無理矢理起き上がろうとする。
 だが、そういう時に限って災難というのは立て続けに起こるのだ。

「――よくアンブレラを倒したなぁ」

 突然の声に、タマコは背中に冷たい汗が流れた。
 聞き覚えがあったからだ。
 恐る恐る振り向くと、筋肉質の浅黒い肌をした男が一人。
 そいつはアンブレラと同じ、古き魔王の一角――

「魔王、ハザード=ダイヤモンド……ッ!?」

 タマコの顔に困惑の表情が浮かぶ。
 シャルルの情報からも魔王ハザードの情報は聞かなかった。
 いつか出会うかもしれないと警戒はしていたのだが……。
 残念なことにタイミングは最悪だった。

(こんなときに……最悪じゃ!)

 今すぐにでも主人のもとへ直行したいところを邪魔され苛立つ。
 しかしハザードはそんなタマコの心中を察したのか、首を横に振り否定を口にする。

「あー、俺の目的はお前じゃねぇ。あるじの方だ」

 と、ハザードが言うには、ムサシがタローを見たとき「ハザードより強い」と言ったことに少なからず思うところがあったらしい。
 ムサシの役に立てればいいというのは本心だ。
 ハザードはムサシが勝つことを信じている。ならばタローがやられる前に一度手合わせしてみたいと思ったそう。

「ムサシの言葉は疑っちゃいねぇさ。けど魔王としては一度勝負してみたいというのもまた事実」

 ハザードはタマコに近づくと手を差し伸べた。

「さ、タローの所に案内してもらうぞ」

 その言葉は、ハザードにとっての慈悲であった。
 強者というのは対峙しただけで相手の実力を見抜くことが出来る。
 手合わせすれば尚更だ。
 タマコはもちろん強者の部類に入る。
 だからこそ理解した。自分ではハザードに勝てないということを。

(全快しても勝てぬ……か)

 全てのコンディションが整っていたとして、不死鳥の力を使っても勝てる気がしなかった。
 地形やこちらに有利な条件であったとしても勝てない。
 どう足掻いても5倍以上の戦力差があった。
 それは、タマコだけでなくハザードも理解している。
 だからこその慈悲。無駄な争いはせず、黙って案内すれば傷つけはしないという心遣いであった。

(主殿の居場所は特定できた……そこまで連れていけば、あとは何とかしてくれるだろう――)

 悪い条件ではない。
 もはや動くのもやっとの自分が戦っても意味はない。
 そうだ、あとは頼れる主に任せればいい。
 タマコはそう考えてハザードの手を取ろうとする。
 が、タマコは無意識にその手を弾いていた。

「……危険な奴を主の下へ案内する使い魔がおるか」
(あれ? 私は何を言っているんじゃ?)

 頭ではわかっている。
 早くタローの所へ連れていけば、きっと何とかしてくれると。
 なのにその身体は、口は思ってもいない言動をとっていく。

「お前は今ここで、私が止める!」
(あぁ……私はこんなにバカだったのか……)

 タローへの忠誠心の表れか、はたまた意中の男への愛なのか。
 何はともあれ、タマコはハザードに敵対することを選んだのだった。

「それが答えか――」

 ハザードは慈悲を二回も与えるほどお人好しではない。
 タマコはハザードにとっての案内人ガイドではなく、肩慣らしの相手へと切り替わった。

「バカだぜ、お前」


 魔王:ハザード=ダイヤモンド
 種族:ドラゴン(原種)
 魔法:???

 ステータス
 攻撃力:10000
 防御力:10000
 速度:9000
 魔力:10000
 知力:9000



 ***



 若き剣豪は力の復活を確認した。

「ようやく最大解放の副作用も終わりか」

 大きな力には必ず存在するデメリットに少々うんざりする。
 二刀の魔剣を腰に差すと、剣豪は立ち上がった。

「さて、ハザードはどこかな?」

 自由な使い魔をムサシは気ままに探すことにした。



 ***



 怠惰の化身は体調が戻るのを感じた。

「ステータスはこれで全回復、と」

 枕になっていた魔剣はクマの姿になると、男の肩へ飛び移る。

「だいぶ離れたけど、タマコ大丈夫かな?」

 大事な相棒を探すためにタローは歩を進めるのだった。

 このとき、二人の最強が同じ目的で歩きだしていた。
 それが偶然か必然かは、神のみぞ知るところである……――
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