101 / 198
魔剣争奪戦編
第96話 レオンの選択
しおりを挟む
アルバートは、その瞬間をはっきりと目にしていた。
完璧なまでのレオンの奇襲。
あと一歩でも足を進めれば刃を届かせることが出来るという瀬戸際、ムサシは漸く迫りくる危機に気付いた。
(遅い! この間合いなら防御も回避もできない!)
ムサシの危機察知能力は優秀だった。
これまでの戦闘でも、その力を遺憾なく発揮し、何度も危機を脱してきた。
だが、さすがのムサシもここまで。
ムサシの速さをもってしても、この距離では防御も回避も不可能な位置にいる。
(レオンちゃんの……勝ちだ!)
最強の剣豪に、最高の天才が勝つ。
アルバートはそう確信した。
――だが直後、信じられない光景が目に飛び込んでくる。
至近距離に迫った傲慢の魔剣を視認したムサシ。
その攻撃を避けられないと理解したのか、一瞬焦ったような表情をする。
しかし、ムサシの顔はすぐに笑みを取り戻すと、突如として身体を覆っていた『黒い』魔力が『金色』へと光輝いたのだ。
刹那のことではあったが、強い光に思わず目を閉じるアルバート。
一瞬の静寂と共に光が止み、目を開ける。
そして目に映るのは、大量の血を流し、隻腕となったレオンの姿。
「――レオンちゃんッッ!」
思わぬ結果に、アルバートはすぐさまレオンのもとへ駆け寄った。
***
「――っう……」
斬り落とされた左腕を抑えながら、膝をついた。
本当なら痛みに藻掻き苦しみ叫び散らしたいところだが、そんな無様な真似をこの男がするはずもない。
そんな紳士を心配したのか、普段はやかましい妖精が心配してこちらへと飛んでくるのが見えた。
「レオンちゃんッッ!」
妖精は駆け寄ると、簡易的な回復魔法を発動し、レオンの出血を抑える。
その間、ムサシとレオンは会話を始めていた。
「……フゥ……結果がわかっていながら、腕を落とされるのはキツいなぁ……」
「なんだ……やっぱり知ってたのか」
「『未来を視る』というのは……やはり面白くないですね」
「……いいんですか? 本当の情報を言っても?」
「信頼している友人にまで、隠し事はしません」
「――っ……驚いたなぁ。僕のことを友達だと思ってたなんて」
「いけませんか?」
「……いや、光栄です」
慣れていないのか、頬をポリポリと掻く。
そんな姿を見て、レオンはフッと笑みをこぼした。
「さて、そろそろ私もお暇しましょうか」
「……まだ続けてもいいんですよ?
知ってるでしょ? 僕の"最大解放"は、一瞬でも発動すれば副作用で弱体化すること」
「それを言ったら、君だって本当なら腕ではなく、首を斬っていたはずだ」
レオンの言葉にハッとするムサシ。
だがすぐに気を取り直して話を続ける。
「でも、それは――」
「ええ。ルール上、殺人は禁止ですからね。
君は私が躱せると思った時にしか、そういう攻撃はしていませんでしたから」
「うっ……気付いていたんだ……」
「言ったでしょ……私の実力では、精々二本目を抜刀させる程度だと」
(そう……私では、ムサシくんの"壁"になることは不可能なんだ――)
再び笑みを浮かべると、最後にレオンは言い残した。
「ムサシくん……次の戦いは、今回のように手を抜かないほうがいいですよ?」
「……うん、わかってる。ちゃんと技も使うよ」
「よろしい」
「じゃあね……レオンさん」
「では、また――」
強制転移が発動すると、レオンは静かに姿を消した。
この場にムサシとアルバートだけが残る。
「君はどうするんだい?」
「……ぼく1人じゃ勝てないし、一緒に帰るよ」
「そうか」
「それに、レオンちゃんは目的を果たした――君を消耗させる――っていうね」
「……ああ、そのようだね」
レオンは『より良い未来』を思い描いていた。
アルバートはレオンが無駄な行動はしないことを知っている。
きっとこの行動が、何かしらの未来に影響するのだろう。
それは、アルバートにも計り知れぬことだ。
だから信じるしかない。
レオン・フェルマーが選択した、この行動を――
「ムサシっち」
「ん?」
「あの子、そうとう強いから。気を付けてね」
そう言うと、アルバートは転移魔法を自分から発動。
サレンダーにより、自身の主のもとへと転移していった。
「ああ……せいぜい楽しませてもらうよ」
一人残ったムサシの声が、静かに響いた。
すぐに動きたいところだが、一瞬のみ発動した最大解放が影響。
副作用により弱体化したムサシは、仕方なく力が戻るまで休むことにしたのだった。
冒険者レオン・フェルマー 脱落
魔王アルバート=ルビー 脱落
完璧なまでのレオンの奇襲。
あと一歩でも足を進めれば刃を届かせることが出来るという瀬戸際、ムサシは漸く迫りくる危機に気付いた。
(遅い! この間合いなら防御も回避もできない!)
ムサシの危機察知能力は優秀だった。
これまでの戦闘でも、その力を遺憾なく発揮し、何度も危機を脱してきた。
だが、さすがのムサシもここまで。
ムサシの速さをもってしても、この距離では防御も回避も不可能な位置にいる。
(レオンちゃんの……勝ちだ!)
最強の剣豪に、最高の天才が勝つ。
アルバートはそう確信した。
――だが直後、信じられない光景が目に飛び込んでくる。
至近距離に迫った傲慢の魔剣を視認したムサシ。
その攻撃を避けられないと理解したのか、一瞬焦ったような表情をする。
しかし、ムサシの顔はすぐに笑みを取り戻すと、突如として身体を覆っていた『黒い』魔力が『金色』へと光輝いたのだ。
刹那のことではあったが、強い光に思わず目を閉じるアルバート。
一瞬の静寂と共に光が止み、目を開ける。
そして目に映るのは、大量の血を流し、隻腕となったレオンの姿。
「――レオンちゃんッッ!」
思わぬ結果に、アルバートはすぐさまレオンのもとへ駆け寄った。
***
「――っう……」
斬り落とされた左腕を抑えながら、膝をついた。
本当なら痛みに藻掻き苦しみ叫び散らしたいところだが、そんな無様な真似をこの男がするはずもない。
そんな紳士を心配したのか、普段はやかましい妖精が心配してこちらへと飛んでくるのが見えた。
「レオンちゃんッッ!」
妖精は駆け寄ると、簡易的な回復魔法を発動し、レオンの出血を抑える。
その間、ムサシとレオンは会話を始めていた。
「……フゥ……結果がわかっていながら、腕を落とされるのはキツいなぁ……」
「なんだ……やっぱり知ってたのか」
「『未来を視る』というのは……やはり面白くないですね」
「……いいんですか? 本当の情報を言っても?」
「信頼している友人にまで、隠し事はしません」
「――っ……驚いたなぁ。僕のことを友達だと思ってたなんて」
「いけませんか?」
「……いや、光栄です」
慣れていないのか、頬をポリポリと掻く。
そんな姿を見て、レオンはフッと笑みをこぼした。
「さて、そろそろ私もお暇しましょうか」
「……まだ続けてもいいんですよ?
知ってるでしょ? 僕の"最大解放"は、一瞬でも発動すれば副作用で弱体化すること」
「それを言ったら、君だって本当なら腕ではなく、首を斬っていたはずだ」
レオンの言葉にハッとするムサシ。
だがすぐに気を取り直して話を続ける。
「でも、それは――」
「ええ。ルール上、殺人は禁止ですからね。
君は私が躱せると思った時にしか、そういう攻撃はしていませんでしたから」
「うっ……気付いていたんだ……」
「言ったでしょ……私の実力では、精々二本目を抜刀させる程度だと」
(そう……私では、ムサシくんの"壁"になることは不可能なんだ――)
再び笑みを浮かべると、最後にレオンは言い残した。
「ムサシくん……次の戦いは、今回のように手を抜かないほうがいいですよ?」
「……うん、わかってる。ちゃんと技も使うよ」
「よろしい」
「じゃあね……レオンさん」
「では、また――」
強制転移が発動すると、レオンは静かに姿を消した。
この場にムサシとアルバートだけが残る。
「君はどうするんだい?」
「……ぼく1人じゃ勝てないし、一緒に帰るよ」
「そうか」
「それに、レオンちゃんは目的を果たした――君を消耗させる――っていうね」
「……ああ、そのようだね」
レオンは『より良い未来』を思い描いていた。
アルバートはレオンが無駄な行動はしないことを知っている。
きっとこの行動が、何かしらの未来に影響するのだろう。
それは、アルバートにも計り知れぬことだ。
だから信じるしかない。
レオン・フェルマーが選択した、この行動を――
「ムサシっち」
「ん?」
「あの子、そうとう強いから。気を付けてね」
そう言うと、アルバートは転移魔法を自分から発動。
サレンダーにより、自身の主のもとへと転移していった。
「ああ……せいぜい楽しませてもらうよ」
一人残ったムサシの声が、静かに響いた。
すぐに動きたいところだが、一瞬のみ発動した最大解放が影響。
副作用により弱体化したムサシは、仕方なく力が戻るまで休むことにしたのだった。
冒険者レオン・フェルマー 脱落
魔王アルバート=ルビー 脱落
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる