上 下
71 / 198
魔剣争奪戦編

第69話 レオン&アルバートvsクロス(1)

しおりを挟む
 ――魔王タイラント=マリア=コバルト――

 あぁ……君に出会ってからというもの、吾輩の頭はキミのことでいっぱいだ――

 だが、こんなに想っているというのに……我が愛は一方通行のまま――

 マリアよ……どうしたらキミは吾輩に振り向いてくれるのだ――

 マリアに愛を伝え、マリアにフラれた。
 それ以降も何かとアタックしているのだが、彼女は全く相手にしてくれない。
 思いを拗らせ数百年経っても、それは変わらなかった。

 だが、そんな魔王ストーカーにも転機が訪れる。

『――傲慢の魔剣ルシファー?』

 マリアのことについて調べている途中で偶然手に入れた情報。
 それは魔剣の情報だ。
 魔剣は魔王が持つ魔王の証。
 全部で7つある魔剣にはそれぞれに固有の能力が宿っている。

 しかし、その全貌は明らかになってはいない。
 そもそも魔王が自分から能力を明らかにするわけもない。加えてその目で能力を見たとしても生きて帰れないのだ。
 明らかになったときといえば、勇者が現れたとき。
 魔王を倒した勇者ならばその能力を後世に伝えることは可能である。
 だが魔王には未だ無敗の者が存在する。

 憤怒の魔剣サタンの所持者、魔王ハザード・ダイヤモンド

 暴食の魔剣ベルゼブブの所持者、魔王アンブレラ・サファイア

 そして、傲慢の魔剣ルシファーの所持者、魔王アルバート・ルビー

 この3柱に関しては、魔剣の名前しか判明しておらず、能力を見たものは全員殺されている。
 そんな誰も知らない開かずの扉であったが、ついにその能力を見た者が現れたのだ。

 ソイツはなんて事のない低級のモンスター。
 どうやら遠目から見たらしい。

 そしてその能力とは――

 曰く、『思考改変』の能力らしい――


 クロスは思った――
『そうだ、それを使ってマリアを改心させればいいのだ!』と。

 クロスは早速アルバート=ルビーを目撃したという場所まで直行した。

 だが、魔王アルバートは住処を転々としているようで、会うことは叶わなかった。

『ヒッヒッヒ……いずれ必ず吾輩が手に入れるぞ……』

 これは、魔剣争奪戦が開始される100年前のことだった。


 ・・・・・・・
 ・・・・・
 ・・・


 どんな因果か、はたまた神の思し召しに叶ったのかはわからない。
 大事なことは、確かにクロスの前に傲慢の魔剣ルシファーが現れたことだ。
 当然、魔王はこの機を逃しはしない。

「ヒッヒッヒ……貴様の魔剣、吾輩が貰うぞ!」

 クロスは強欲の魔剣マモンを持ったままレオンへと強襲――
 ではなく、距離を取った。
 後ろへ跳んでいくと、川の真ん中にある岩へと着地した。

「おや、来ないのですか?」

 レオンはクロスへと挑発の口調で問う。
 だがクロスはレオンの狙いに気付いているのか、至って冷静であった。

「ヒッヒッヒ……傲慢の魔剣ルシファーの能力は思考改変能力。して、その発動条件は――こと、なのだろう?」

 クロスの推理にレオンもは「ほぅ……」と感嘆の声を漏らす。

「確かに傲慢の魔剣ルシファーを発動するには相手の血が必要です……どうやら最低限の情報は用意しているようですね。褒めてあげますよ」

「ヒッヒッヒ……いつまで上からものを言ってられるかな」

 レオンは自分の手の内を一つ知られたにもかかわらず、まだ上からの態度を崩さない。
 それに少しイラついたクロスはおもむろに川の中へ手を入れた。

 すると、突如としてクロスの周りの水が畝り出す。

「これは……」見上げるレオン。

 あっという間に大きくなった水は8本の大きな柱になる。
 しかしこれだけでは終わらない。

「ヒッヒッヒ……この場所に飛ばされた不運を恨むんだなッッ!」

 クロスが手を前に翳すと、柱は鞭のようなしなやかさを帯び、レオンに狙いを定めた。

「弾け飛べーー海物の畝りクラーケン・ウィップ!」

 8本の大波が一直線にレオンへと襲い掛かる。
 未だ動かないレオンに対し、クロスは勝利を確信した。

「心理を読み解く強欲の魔剣マモンと心理を変える傲慢の魔剣ルシファーで、吾輩は必ずマリアを手に入れる!」

 魔王ハンター=クロス=トパーズの魔法は『水』。
 少しの水溜まりさえあれば、その水を増幅させることが可能であり、海のような大波すらも発生させることができる。

 現在の場所は川。
 まさにクロスにとって、ここは絶好の戦場であった。

(マリア……これでキミを――)

 クロスは唇を吊り上げる。

 だが、ここでレオンが動いた。

「アルバート、頼みます」
「オッケー任せて!」

 指示を受けた妖精が手をかざす。
 すると、レオンは俊敏な動き8本全ての水柱を躱した。

「……なんだと?」

 海物の畝りクラーケン・ウィップはそのまま地面へと激突。
 大きな飛沫となって空中に散布する。

 クロスが驚くのも束の間、レオンはその足で一気位距離を詰める。
 クロスもそれに反応していたが、大量の飛沫が邪魔してレオンの姿をうまく捉えられない。
 レオンもそれを利用して動いているためか、すぐに視界から消えてしまった。

「ぬぅ……どこだ?」

 雨のように降り注ぐ飛沫の中で辺りを見回すクロス。


「――やれやれ、女性の心を射止めるのに力技とは芸がありませんね」

「後ろかッ!?」

 クロスが振り返ると、そこには右腕を曲げたレオンが。

「――フッ」

 静かな吐息と共に腕を突き出すと、手首の腕時計の仕掛けが作動。勢いよく何かが飛び出す。
 クロスの顔面目掛けて放たれたのは真っ黒なナイフ型の魔剣――傲慢の魔剣ルシファーだ。

「――チッ」

 体をのけ反り一撃を躱すと、すぐさま別の岩へと移動する。
 クロスは前髪が斬られた程度で、怪我はないようだ。

 クロスが退いた間に、レオンは傲慢の魔剣ルシファーを右手に持ち直した。

「魔剣の最低限の情報を得ているのは良いですが、もう少し他の魔王のことも調べておくべきでしたね」

 レオンの横では魔王アルバートが笑顔でピースをしていた。

(どうやらあの魔王の魔法のようだな……)

 レオンが動く直前、アルバートが何かを施していたのをクロスは見逃していなかった。
 そしてそこから判明したこともある。

(確かに何かの魔法によって強化されたようだが……想像以上に速くなったわけではない――)

 海物の畝りクラーケン・ウィップを避けたのは見事であったが、多少の速さと動体視力があれば出来ない芸当ではない。
 この魔法の真の目的は、相手の実力を観察することだ。

 力で対抗のか。
 防御するのか。
 避けるのか。

 相手の咄嗟に出した行動が、その者が一番得意とするもの――

 レオンの行動は避けるであった。

(コイツの攻撃力と防御力は大したことはなく、おそらく速さがマシだが……強化されてあの程度の速さならば、スピードもそれほど高くは無いのだろうな――)

 クロスはこの戦闘に勝機を見出した。
 分析通りならクロスが負けることはないだろう。

「ヒッヒッヒ……待っていろマリア。すぐにキミの心を掴んでみせるぞ……」

 どこかで一柱の魔王が身震いする。
 自分のことで無いにしても気持ちが悪いのは確かであった。
 もはやクロスの頭の中はお花畑同然である。

 だが、こと戦闘に置いて――


「やれやれーー」

 レオンはこの日何度目かもわからない溜め息をつく。

「全く、私は戦闘向きではないんですがね……」

「あははは! わたしもー!」


 ――自分の勝利を確信した瞬間ときは大抵、敗北のフラグであることをクロスは知らない。


 ***


 レオン・フェルマー
 Sランク冒険者。転移者。
 スキル:???

 ステータス
 攻撃力:3400
 防御力:2700
 速度:3750
 魔力:0
 知力:測定不能


 アルバート=ルビー
 魔法:???

 ステータス
 攻撃力:94
 防御力:58
 速度:9000
 魔力:9700
 知力:9999
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

処理中です...