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魔剣争奪戦編

第42話 誓った約束

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 プライドを完全に砕かれたアキラは一しきり笑ったのち、すぐに意識を手放した。
 スキルの最大解放も時間制限により普通の状態だ。 
 これで生きているのだから、スキルの恩恵というのは恐ろしいというのがタローの感想だった。

「もしかしたらタマコより強いかもね」

 素直な感想を述べると、アキラを担いで森へ歩き出す。
 このまま放っておくわけにもいかない。
 とりあえずタマコと合流して街へ戻ることにした。



 ***




 夢を見た。
 俺が、この世界に来る以前まえの夢だ。
 タローに負けたからなのか、死にかけが見る走馬灯なのかは知らんがな。


 あぁ……

 懐かしい……

 せっかくだ。少しばかり、この時間を楽しもうじゃないか――





 ・・・・・・・


 ・・・・・


 ・・・





 雨宮アマミヤアキラ 19歳。

 きっかけは些細なことだ。
 小学生の頃、仲の良かった友達が同級生に虐められていた。
 最初は知らなかったが、たまたまその現場に居合わせ知ったこと。
 友達は泣いていた。

 目が腫れている。
 牛乳をかけられたのか、服からは酷い匂いがする。

 いじめっ子は笑っていた。
 俺は何が面白いのかわからない。
 だが、どうしようもなく不愉快な気持ちになった。

『何してんだよ』

 俺は無意識に声をかけていた。
 いじめっ子は3人。
 そいつらはニヤニヤしながら、今度は俺に牛乳をかけた。

『ギャハハハハハ!』

 いじめっ子は笑った。

 不愉快だった。
 牛乳をかけられたことがじゃない。
 この苦痛を友達が何度も受けていたことにだ。
 そして、それを知らなかった自分にもだ。

 その後、先生が止めに来るまで、俺はいじめっ子を殴り続けた。

 当然親は呼び出された。
 だが幸いにも他のクラスメイトの目撃者がいたため、3人のいじめが発覚。
 3人の親は虐められていた友達に何度も謝っていた。
 けど俺には、そんな姿どうでもよかった。

 俺は浸っていた。
 いじめっ子を殴り倒した快感。
 まるで怪人をやっつけるヒーローになったようだ。

 俺はその後、中学、高校といじめっ子に喧嘩を売った。
 そして、全員を半殺し状態にした。

 何度も愉悦に浸った。
 敵を倒す達成感は心地よかった。

 けど、もう一つ良いことがある。


 ――あれから虐めが無くなりました!

 ――初めて助けてくれる人に会いました!

 ――本当に、ありがとうございます!


 虐められていた生徒は、みんな俺に感謝をした。

 その時の笑顔が、俺はたまらなく好きだった。


 そんなことを続けていたら、いつの間にか俺を慕ってついてくる子分ができた。
 俺が助けたいじめられっ子に、俺にブッ飛ばされたいじめっ子。

 なぜか俺に着いていくと言い、気付けばチームが出来上がっていた。

 最初は鬱陶しかったが、一緒に喧嘩して相手の不良チームを蹴散らした時は皆で喜んだ。
 俺は、そいつらと仲間になった。

 だが、そんな時だった――

 倒したチームの中に暴力団と繋がりがあるヤンキーがいたのだ。
 そのせいで、仲間の一人が暴力団に目を付けられ拉致された。

 俺たちは必死に情報を集めようとしたが、ダメだった。

 裏の人間の情報を探るのは、こちらも危険を冒さなければならない。
 俺はいい。
 だが、仲間たちが心配だった。


 ある日、俺たちの前に封筒が送られてくる。

 そこに入っていたのは、

 『仲間を預かっている。指定した場所に来い。』という内容の手紙。

 そして、拉致された仲間の指だった。



 指定された場所に俺たちは向かった。

 そこには黒いスーツの男たち。
 そいつらは笑いながら、攫われた仲間を見せた。

 遠目からでも、仲間は死んでいるのが分かった。
 乱暴に投げつけると、俺たちは全員で駆け寄った。

 服は着ていない。
 体中が痣と、鞭で叩かれたような傷、そして弾痕。
 目は開いている。左目が無かった。
 歯は全て抜かれている。
 指は右手が5本とも逆方向に折られており、左手は全て切り落とされていた。
 仲間の無残な姿に、全員言葉を失った。

 だが俺は、頭に血が上っていた。

 (アイツらを殺す!)

 殺意を込めて黒スーツの集団に特攻した。
 それを見て仲間たちも俺に続く。
 絶対にアイツらを殺す。
 全員の気持ちが一つになった。

 けれど、当たり前のようにそれは叶わない。

 アイツらは笑いながら銃を取り出した。
 それを確認した俺は、咄嗟に近くの物陰に隠れる。
 仲間に指示を出そうと声を出すも、それは鳴り響く銃声にかき消された。

 俺の目の前で、仲間は次々に殺された。

 柄にもなく涙で顔を濡らした。
 恐怖で失禁もした。

 それでも、ここで逃げては仲間に顔向けができない。

 必ず敵を討つ!

 俺は死ぬ覚悟で、その場を飛び出そうとした。





 その瞬間、俺の体は急な浮遊感に襲われた。





 その後のことは覚えていない。
 気が付いて最初に見たのは、見知らぬ天井。
 目を覚ました俺の前には一人の男がいた。

「気が付いたか? 俺はドラムスってもんだ」

 ドラムスの話によれば、ここは俺の世界とは別の世界だそうだ。
 アニメや漫画が好きだった仲間がよく話していたのを思い出した。
 その中で、俺は転移者ということになるらしい。

 ドラムスは言った。転移者にはスキルというものがあると。
 スキルは魔法と違うが、それと同等以上の力があるらしい。
 能力は人によるらしいが、転移前の記憶に左右されることが多いそうだ。



 それから数日後、俺は冒険者になった。
 この世界でも金が必要だったからだ。
 学が無い俺にできるのは、身体を張ることだけだ

 モンスターとの初戦、俺にスキルが発動した。

 それは素手で戦えば能力が上がり、武器を持つと能力が下がるというシンプルなもの。

 転移前、武器を持たなかった俺たちに、相手は容赦なく銃を使った。
 きっとそのとき、(銃を使って卑怯だ!)と思ったのが原因だろう。

 だが丁度いい。
 武器より拳で戦う喧嘩のほうが好きだからな。

 俺の仲間は死んだ。敵も討てなかった。

 だから、せめてもの供養に仲間たちとの約束を果たそうと思ったんだ。
 誰が言い出したかわからない、子供じみた夢。
 それを俺たちは笑いながら、心に刻んだ。


『世界を平和にする、世界最強のヒーローになろう!』


 ――必ず叶えて見せるから

 ――お前たちの思いも全部、俺が受け継ぐから

 ――誰よりも強くなって、世界を守るから

 ――だから、待っててくれ


 かつての仲間たちに、俺は拳を掲げた。


「必ず世界最強を証明して、この世界を守るヒーローになってやる!」


 仲間たちの夢を背負ったアキラは7年後の今日、魔王ハンター=クロス=トパーズと戦い、使い魔にすることとなる。
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