273 / 336
廉頗
四
しおりを挟む
白起は王齕だけを伴って陣営を出た。ゆっくりと馬を歩ませる。
「此処でいい」
馬が脚を止める。
「王齕。強弓を」
「御意」
白起に五人張りの強弓が手渡される。次いで槍の穂先の如く、鏃を持つ大矢。
「しかし、殿。廉頗の姿などー」
王齕は慌てて口を噤んだ。既に白起は、瞼を閉じ、極限の集中状態にあった。
可視化できるほどに、横溢する神気。王齕は知っている。無我の境地に達した、白起の感覚は自然と一体となっている。吹き付ける蒼風が廉頗の臭いを運び、足元に廻る地脈が、廉頗が放つ微量な熱を伝える。例え廉頗が櫓に居ようとも、白起に味方する地脈は、廉頗の熱を脈へと引き摺りこむ。
「居た」
白眼が開いた。今の白起は全能であった。鞍上に身を置いたまま、流麗な所作で矢を番える。鋼が縒り合された弦が、苦しそうに喘ぐ。
「行け」
限界まで光輝を宿す弦が引き絞られた。
烈風。逆巻く颶風を纏った矢が、彗星の如く空へと飛んだ。
「此処でいい」
馬が脚を止める。
「王齕。強弓を」
「御意」
白起に五人張りの強弓が手渡される。次いで槍の穂先の如く、鏃を持つ大矢。
「しかし、殿。廉頗の姿などー」
王齕は慌てて口を噤んだ。既に白起は、瞼を閉じ、極限の集中状態にあった。
可視化できるほどに、横溢する神気。王齕は知っている。無我の境地に達した、白起の感覚は自然と一体となっている。吹き付ける蒼風が廉頗の臭いを運び、足元に廻る地脈が、廉頗が放つ微量な熱を伝える。例え廉頗が櫓に居ようとも、白起に味方する地脈は、廉頗の熱を脈へと引き摺りこむ。
「居た」
白眼が開いた。今の白起は全能であった。鞍上に身を置いたまま、流麗な所作で矢を番える。鋼が縒り合された弦が、苦しそうに喘ぐ。
「行け」
限界まで光輝を宿す弦が引き絞られた。
烈風。逆巻く颶風を纏った矢が、彗星の如く空へと飛んだ。
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる