白狼 白起伝

松井暁彦

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王星

 十

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「何だ!?この餓鬼。化け物か?」
 匪賊共の声が遠い。何人葬り去っただろうか。腕は鉛のように重い。

「このぉおおお!」
 甲高い雄叫びを上げながら、匪賊が斬りかかってくる。
 奥歯をかみしめる。一閃。 匪賊の胴体を真っ二つに両断した。

「嘘だろ」
 脅える声。

「もう奴は瀕死だ。数で押しきってしまえ!」
 総身が疲労で蠕動ぜんどうを繰り返している。視界は朱に染まっているせいで、いちいち敵の姿など確認していられない。魏翦を動かし、反応させているものは本能的直観である。
 
雪崩のような足音。さきほどより人が増えている。十人ばかりが一斉に押し寄せてくる。

「ぶった斬ってやる」
 一歩踏み出す。だが躰が意志と相反して動かない。

「動け。この」

「やっちまえ」
 白刃が朱の世界で浮かび上がる。

(こんな所でー。俺は)
 瞬間。視界が一面の白に染まった。醇子じゅんこたる白。
 
 馬の嘶き。悲鳴。視界が元に戻った時、魏翦は匪賊達を食らう白き狼を視た。

(美しい)と思った。そして感化されるように胸がざわめいた。潮騒のような音が脳内に鳴り響き、理性の鎖が解けていく。
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