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燻り
八
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暫くして朝議の場で魏冄を魏討伐の総大将に任じた。王の御前に登壇した叔父は、杖なくしてはまともに歩けない状態までに衰弱していた。かつての威風堂々とした容貌は見る影もなく、道端に転がる葉もない枯れ木を想起させた。
白起は敢然と自身が総大将としての出兵を願い出たが、之を断固として許さなかった。魏冄との共闘を避ける為に、白起を魏との国境線近くの上郡での駐屯を命じた。
名目としては魏冄率いる本軍が魏の都である大梁まで進攻。後に制圧し、後将軍である白起が上党に留まり、西へ逃散した魏軍を殲滅するというものである。だが、この作戦には戦事に疎い小役人ですら疑問を抱かずにはおれない奇怪な点がある。
武安君白起は不敗の常勝将軍である。本来ならば病み衰えた魏冄を後将軍に構える。詰まる所、嬴稷にとって戦の勝敗などどうでも良かった。叔父魏冄が過酷な遠征中に運悪く死んでくれれば大枚を叩いた遠征の意味は成されるのである。
叔父は無表情で恭しく勅命を承った。白起は凄味のある視線で此方を睨み付けてきたが、王の勅命の前には何も成す術もない。階の下に控える向寿は笑貌を見せた。
(してやったり)白起の悔しそう顔は、豪勢な酒肴に負けないほどの美味である。
(今夜はよく眠れそうだ)
嬴稷は玉座の上で泰然と構え嫣然と笑んだ。だがその日の夜から向寿の行方が知れなくなった。
白起は敢然と自身が総大将としての出兵を願い出たが、之を断固として許さなかった。魏冄との共闘を避ける為に、白起を魏との国境線近くの上郡での駐屯を命じた。
名目としては魏冄率いる本軍が魏の都である大梁まで進攻。後に制圧し、後将軍である白起が上党に留まり、西へ逃散した魏軍を殲滅するというものである。だが、この作戦には戦事に疎い小役人ですら疑問を抱かずにはおれない奇怪な点がある。
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