白狼 白起伝

松井暁彦

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合従軍戦

 十九

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「うぉぉぉぉぉぉ」
 友の死を目前に、痛みが引く。総身が炎を宿したように熱く燃える。
 
 白起の凶刃が、楽毅に迫る。矛を投擲とうてき。白起は後方に跳躍。
 
 廉頗は駆けながら、剣を抜き放つ。疾風の如く、白起が駆けてくる。衝突した刃。廉頗は今、死の淵に立っていた。限界を越えて引き出される力。それは、はからずも白起が引き出した力の性質と酷似していた。
 
 白起の左手の剣を叩き折る。初めて白起の表情が動いた。二合、三合、四合。撃ち合う。新たな闘志を感じた。血に塗れた楽毅が起き上がる。
 
 清明なる蒼の闘志。楽毅も己と同じ死の淵に立った。銀、紅、蒼が眼に見えぬ速度で絡み合う。

(勝てる)
 直感した。限界を越えた、二人の力なら。感謝する。白起という強敵の存在が、己と楽毅を武人として。更に成長させた。廉頗と楽毅。二人は同時に、己の中に残った力を全て振り絞った。
 
 一際、大きくなる二人の光。
 心地よい火照りの中で廉頗は笑った。白起が二人の斬撃を受け、大きく揺らめく。

「もらった!!!!」
 廉頗と楽毅の刃が交錯。
 刹那、総身に怖気おぞけが走った。揺らめいた白起は、不敵に笑っていた。
 銀の気が爆ぜた。此方の刃を意に返さず、踏み込んでくる。

「なっ」
 せり上がる斜めの斬撃。廉頗の刃、砕ける。楽毅の剣を宙へ。
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