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合従軍戦
七
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「廉頗だ」
胴間声が響く。紅蓮の精気に纏う豪傑。廉頗の名は、既に中国全土に轟いている。
中山攻略戦に於いても、若くして将軍として出師し、前線で自ら陣頭指揮を執り、中山の都邑を幾つも陥落させている。まだ二十代半ばと若い将校であるが、経歴を遡ってみても、あげれば切りがないほどの赫赫たる功績が彼にはある。武断の王―。趙の武霊王の薫陶を一番に受けているのは、この廉頗であろう。
「楽毅と申します」
ぶっきらぼうに告げた廉頗に対して、楽毅という若者は慇懃に名乗る。声は青々しい。まだ十代ほどの潤いがある。精気は打って変わって蒼。まるで深海のような濃い蒼だ。
気配から分かる。恐ろしく達観している。泰然自若としていて、情熱的な廉頗とは対照的。
記憶を探る。中山に楽氏という名家があったはずだ。
(なるほど。経緯は不明だが、楽氏は趙に取り込まれたか)
顔こそ視認できないが、二人の精気には此方の心を滾らせるほどの才が秘められている。
「二人は父のお気に入りなのですよ。楽毅は羇旅の臣でありますが、廉頗と共に胡服騎射をものにし、将来を嘱望されています。この二人は控えめに言っても、化け物です」
得意げに趙勝は言った。
「廉頗、楽毅」
二人の名を呼び、函谷関を田文は指差した。
「函谷関から何か感じないか?」
「孟嘗君も感じておられるのですか」
楽毅の声。やはり、彼もただ者ではない。眼には見えなくとも、函谷関の方角から漂う白起の超然とした気配を肌で感じ取っている。
「気に入らねぇ。俺達二人の存在に気付いている奴がいる。半端じゃねぇ、殺気を放ってやがる」
廉頗は天賦の才を有した豪傑であることは、纏う紅蓮の精気で分かる。天稟ある故に、彼等は感じるのだろう。函谷関に立つ、あの少年の異常な気配を。
「白き狼だ」
「白き狼?」
楽毅が拾った。
「ああ。秦には君達と同格。いや、それ以上の才覚を持つ若者がいる」
「名は?」
「白起」
「訊かない名だ」
「今に分かる」
二人は茶化すことはしなかった。生来からの戦士だからこそ分かるものがある。
蚊帳の外である平原君を尻目に、二人は鋭い眼で函谷関を睨みつけていた。
胴間声が響く。紅蓮の精気に纏う豪傑。廉頗の名は、既に中国全土に轟いている。
中山攻略戦に於いても、若くして将軍として出師し、前線で自ら陣頭指揮を執り、中山の都邑を幾つも陥落させている。まだ二十代半ばと若い将校であるが、経歴を遡ってみても、あげれば切りがないほどの赫赫たる功績が彼にはある。武断の王―。趙の武霊王の薫陶を一番に受けているのは、この廉頗であろう。
「楽毅と申します」
ぶっきらぼうに告げた廉頗に対して、楽毅という若者は慇懃に名乗る。声は青々しい。まだ十代ほどの潤いがある。精気は打って変わって蒼。まるで深海のような濃い蒼だ。
気配から分かる。恐ろしく達観している。泰然自若としていて、情熱的な廉頗とは対照的。
記憶を探る。中山に楽氏という名家があったはずだ。
(なるほど。経緯は不明だが、楽氏は趙に取り込まれたか)
顔こそ視認できないが、二人の精気には此方の心を滾らせるほどの才が秘められている。
「二人は父のお気に入りなのですよ。楽毅は羇旅の臣でありますが、廉頗と共に胡服騎射をものにし、将来を嘱望されています。この二人は控えめに言っても、化け物です」
得意げに趙勝は言った。
「廉頗、楽毅」
二人の名を呼び、函谷関を田文は指差した。
「函谷関から何か感じないか?」
「孟嘗君も感じておられるのですか」
楽毅の声。やはり、彼もただ者ではない。眼には見えなくとも、函谷関の方角から漂う白起の超然とした気配を肌で感じ取っている。
「気に入らねぇ。俺達二人の存在に気付いている奴がいる。半端じゃねぇ、殺気を放ってやがる」
廉頗は天賦の才を有した豪傑であることは、纏う紅蓮の精気で分かる。天稟ある故に、彼等は感じるのだろう。函谷関に立つ、あの少年の異常な気配を。
「白き狼だ」
「白き狼?」
楽毅が拾った。
「ああ。秦には君達と同格。いや、それ以上の才覚を持つ若者がいる」
「名は?」
「白起」
「訊かない名だ」
「今に分かる」
二人は茶化すことはしなかった。生来からの戦士だからこそ分かるものがある。
蚊帳の外である平原君を尻目に、二人は鋭い眼で函谷関を睨みつけていた。
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