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合従軍戦
六
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「趙は中山攻略の後始末に手が回らないのではなかったのかな」
孟嘗君田文は、禿げた岩山の頂きで胡床に腰を落とし、憮然と隣に並ぶ少年に訊いた。歳は十代前半。しかし、少年から成熟した男の気配が漂っている。
「父が将来有望株の二人の若者に、大戦を経験させよと仰せになったので」
にべもなく返した少年の名はー。平原君趙勝。趙の武霊王の子である。十代前半と年若いが、彼は田文と同様に、千を超える食客を抱えていた。
二人の間に剣呑な沈黙が漂う。二人の関係性が良好ではないのには、明確な理由がある。田文は、白起の手引きで秦を脱出すると、趙を通って斉へと帰国した。だが道中、趙勝に賓客として迎えられ、数日逗留することになるのだが、彼が囲った食客達が散々に田文を悪罵した。憤った田文の食客が悪罵した平原君の食客達を斬り殺し、逃げるように斉へ帰った。
「孟嘗君は貴賤を問わず、食客を丁重に招き入れると耳にしておりましたが、真だったのですね」
服が擦れる音がし、平原君が腕を突き出したのが分かる。方角的に、秦の要所函谷関を指差したのだろう。
「函谷関の門は、夜半固く閉ざされていると聞きます。そして、明朝鶏の鳴き声と共に門が開かれるのだとか。ですが、孟嘗君が函谷関に命からがら辿り着いたのは深更。そして、背後から、孟嘗君の脱獄を知った追っ手が駆け付けてくる」
「俺の囲う食客の一人に趙遷という者がいた。彼は剣も扱えず、生来から吃音で、とても弁がたつとは言えない。それでも、彼には一つだけ特技があった」
「鶏の真似ですか」
何処か小馬鹿にするような響きがある。
「往々にして、人には己を活かせる機会というものを等しく持ち合わせているものだ」
「盲目の貴方にもですか?」
田文は短く息を吐き、白濁した眼を彼の背後に控える二人の若者に向ける。
「二人とも良い精気を放っている。強く濃い精気。正に戦人の其だ」
「色を失った眼に、人の気配が映ると?」
田文は、趙勝の軽侮が窺える言を無視し、彼の傍らに控える、若き戦士二人に名乗るように促した。
孟嘗君田文は、禿げた岩山の頂きで胡床に腰を落とし、憮然と隣に並ぶ少年に訊いた。歳は十代前半。しかし、少年から成熟した男の気配が漂っている。
「父が将来有望株の二人の若者に、大戦を経験させよと仰せになったので」
にべもなく返した少年の名はー。平原君趙勝。趙の武霊王の子である。十代前半と年若いが、彼は田文と同様に、千を超える食客を抱えていた。
二人の間に剣呑な沈黙が漂う。二人の関係性が良好ではないのには、明確な理由がある。田文は、白起の手引きで秦を脱出すると、趙を通って斉へと帰国した。だが道中、趙勝に賓客として迎えられ、数日逗留することになるのだが、彼が囲った食客達が散々に田文を悪罵した。憤った田文の食客が悪罵した平原君の食客達を斬り殺し、逃げるように斉へ帰った。
「孟嘗君は貴賤を問わず、食客を丁重に招き入れると耳にしておりましたが、真だったのですね」
服が擦れる音がし、平原君が腕を突き出したのが分かる。方角的に、秦の要所函谷関を指差したのだろう。
「函谷関の門は、夜半固く閉ざされていると聞きます。そして、明朝鶏の鳴き声と共に門が開かれるのだとか。ですが、孟嘗君が函谷関に命からがら辿り着いたのは深更。そして、背後から、孟嘗君の脱獄を知った追っ手が駆け付けてくる」
「俺の囲う食客の一人に趙遷という者がいた。彼は剣も扱えず、生来から吃音で、とても弁がたつとは言えない。それでも、彼には一つだけ特技があった」
「鶏の真似ですか」
何処か小馬鹿にするような響きがある。
「往々にして、人には己を活かせる機会というものを等しく持ち合わせているものだ」
「盲目の貴方にもですか?」
田文は短く息を吐き、白濁した眼を彼の背後に控える二人の若者に向ける。
「二人とも良い精気を放っている。強く濃い精気。正に戦人の其だ」
「色を失った眼に、人の気配が映ると?」
田文は、趙勝の軽侮が窺える言を無視し、彼の傍らに控える、若き戦士二人に名乗るように促した。
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