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白という少年
二
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妾を寝所へ呼び、鬱憤を交合で晴らした。二十五歳の魏冄は正妻を娶らず、数人の妾だけを側に置いていた。子はおらず、数人の妾と使用人を養うだけの甲斐性はある。
元は楚の生まれだが、姉が秦王に見初められ、共に秦へ入った。元々、器量も良く地頭も悪くなかった。寵姫の弟ということもあるが、魏冄は秦王に才気そのものを買われた。
近侍として侍り、秦王の薫陶を受けた。病臥の主を想うと、哀しみが込み上げてくる。魏冄にとって、秦王は父同然の存在である。気が付くと、男根は萎えていた。
隣で寝る妾の寝息を耳にしながら、自身も微睡んでいく。墜落する意識。夢と現実の狭間で白い狼が姿を見せた。
いやに鮮明に戦場の酸鼻を極めた臭気が鼻腔を付いた。白い狼は空疎な眼を此方に向け踵を返し、豊かな尾を揺らし去っていく。狼が歩く道には、夥しいほど屍が転がっていく。腸を撒き散らすもの。膾に刻まれたもの。蝟集する屍で河が出来上がっていた。狼が踏みしめる度に、屍から不快な音がして、腐った血が噴き出す。だが、狼は穢れない。まるで、天の加護を受けているように、一切の穢れを受け付けないのだ。
見送ることしかできない、魏冄の踝を何かが掴んだ。終わりのない闇が覗く眼窩。血に塗れた子供達が呪詛を口にし、魏冄を血の海に引き摺りこもうとしていた。夢という認識はある。それでも、眼球を刳り貫かれた子供等の窶れた姿は、夢が造り出した偶像ではなかった。跳ね起きると、寝着は脂汗に塗れていた。あの白き狼は何なのだ。神気を漲らせる狼は、死を運ぶ厄災そのものなのか。
あの白き狼の姿を認めた直後に、あの白髪の餓鬼が現れた。之は偶然か。はたまた何かしらの天啓なのか。だが、眼に見えない不確かな事象を盲信するほど、おめでたい男ではない。
(いや、偶然だ)と頭頭を振り、未だ意識の深くに根付く悪夢の残像を振り払う。
元は楚の生まれだが、姉が秦王に見初められ、共に秦へ入った。元々、器量も良く地頭も悪くなかった。寵姫の弟ということもあるが、魏冄は秦王に才気そのものを買われた。
近侍として侍り、秦王の薫陶を受けた。病臥の主を想うと、哀しみが込み上げてくる。魏冄にとって、秦王は父同然の存在である。気が付くと、男根は萎えていた。
隣で寝る妾の寝息を耳にしながら、自身も微睡んでいく。墜落する意識。夢と現実の狭間で白い狼が姿を見せた。
いやに鮮明に戦場の酸鼻を極めた臭気が鼻腔を付いた。白い狼は空疎な眼を此方に向け踵を返し、豊かな尾を揺らし去っていく。狼が歩く道には、夥しいほど屍が転がっていく。腸を撒き散らすもの。膾に刻まれたもの。蝟集する屍で河が出来上がっていた。狼が踏みしめる度に、屍から不快な音がして、腐った血が噴き出す。だが、狼は穢れない。まるで、天の加護を受けているように、一切の穢れを受け付けないのだ。
見送ることしかできない、魏冄の踝を何かが掴んだ。終わりのない闇が覗く眼窩。血に塗れた子供達が呪詛を口にし、魏冄を血の海に引き摺りこもうとしていた。夢という認識はある。それでも、眼球を刳り貫かれた子供等の窶れた姿は、夢が造り出した偶像ではなかった。跳ね起きると、寝着は脂汗に塗れていた。あの白き狼は何なのだ。神気を漲らせる狼は、死を運ぶ厄災そのものなのか。
あの白き狼の姿を認めた直後に、あの白髪の餓鬼が現れた。之は偶然か。はたまた何かしらの天啓なのか。だが、眼に見えない不確かな事象を盲信するほど、おめでたい男ではない。
(いや、偶然だ)と頭頭を振り、未だ意識の深くに根付く悪夢の残像を振り払う。
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