21 / 26
筋書き通りにチョロくあれ
悪意
しおりを挟む「…………そーかよ」
「那希!いつまでそんな奴の手掴んでんだよっ」
グイグイ──
「おい、テメェ……何勝手に俺に触ってんだ。あ゙?」
空は鷹取の腕を掴んだままだった俺の手を剥がそうと、グイグイ反対方向に無理やり引っ張る。掴んでいたのは俺の方なので手の力を抜けば簡単に離れた。離れたもののまだ不機嫌らしい空と、勝手に触られて苛立っている鷹取が言い合いをしているのをぼんやりと見ながらそっと呼吸を整える。
親衛隊好きな俺が空と友達になるのはなんの問題もない。俺の親衛隊は上から下までしっかりしているし、友達が出来たからと言ってお茶会も疎かにするつもりもないから隊員の子達の不満の心配も要らない。
問題は他の役員……。
当の彼らは基本的に親衛隊や一般生徒を邪険にしがちだ。そんな彼らに気に入られる、あるいは嫌われたりした時は……
────虐めや、下手したら制裁が待っている。
でも、良かった。周囲の様子を見るにこれならまだ許容範囲内だ。俺はほっとして席に戻り空にも食事を続けるよう促そうと思って、席へ踵を返した。
なのに……
「──俺、お前気に入らねェ」
──えっ
「ッ……!」
俺は思わず目を見開いた。不味い──そう思った時にはもう遅く、食堂内の生徒に目を向け俺は息を呑んだ。
──ッ……見てる。
……無数の目が、空を──
それも特に纒わり付くような悪意を向けている人間が複数人居るようで心臓が嫌な音を立てる。とにかく、このままではだめだ。
「と…取り消してくださいッ」
「?……ッんでテメェにんな事言われなきゃなんねェんだよ」
お願いだから今だけは俺の言葉に耳を傾けてほしい、他の時はいくら無視してもいいから、と心の中で祈りながら鷹取を見つめる。せめて生徒会室で……生徒の目の届かない所で言ってほしい。
今なら……ッ今ならまだ間に合────
「私も気に入りませんね」
聞こえてきた咲夜の声に絶望した。
喉が、体が、顔が、強ばるのを感じた。
「おれもぉ~」
「僕もきらーい!」
「……僕も」
あぁ駄目だ、取り返しがつかない。
一瞬で増えた空への嫌悪の視線。
空をちらりと見るが、それに気が付いた様子はない。……せっかく出来た友達なのに、その子が楽しい学園生活も送れないなんて。
指先がスっと熱を失って冷たい。
俺が一緒に居たからだろうか?……いや、どうたろう。どちらにせよ中途半端な時期に特待生でSクラスに転入生、という時点で彼らの興味の対象にはなっていた。
食堂に入って早々転入生の位置を聞いていた当たり初めから見に来るつもりだったのだろう。それよりも……とにかく目をつけられた。
彼ら役員にも────その親衛隊にも。何がやばいって隊長や幹部クラスはいいとして、手の周り切っていない下の方の隊員達が間違いなく動く。
…………嘆いてばかりもいられない。とにかく俺は空が笑っていられるように、出来るだけ先回って守れるだけ守る事しか出来ない。可能な限り近くに居るようにして、それでも足りなかったら……悪いけど悠里や志摩にも助けてもらおう。
─────────────────────────────
no-side──
「ちょっと…まじで何なの、あの平凡」
「てか陰キャが皆様と並んでるとか目に毒」
「ねぇ、あの勘違い男早く消しちゃおうよ」
人集りから離れた位置に3人、小柄な生徒が小声でそっと内緒話をしていた。
「…でも書記様の御友人らしいですし…悲しむんじゃ」
「そんなのもう関係ないよ」
「そうだよ、何言ってるの?」
「他の生徒会の方々が嫌いって言ってたでしょ?だってあの見た目であの性格だよ?それが初めての友達とか……」
有り得ないでしょ、と眉を顰める1人の青年。もう1人の青年が「桜井様、あいつになにかされて騙されてるんだよ」と呟くと眉をしかめていた青年がそれらを霧散させて同調する。
「あの桜井様を誑かした淫乱黒マリモ、いじめたら本性表すでしょ?それを見て騙されてたんだって傷ついた桜井様を、生徒会の方々が慰めてくだされば……」
「そっか……!そうですよ、そうしたらやっと皆様の願望が叶いますね!」
「そうでしょ?……そもそも、ずっとヤキモキされてた役員の方々よりも先に桜井様と御友人になるなんて、身の程知らずも甚だしいんだから」
そう呟いて食堂を出ていく1人の青年の後を、会話をしていた残り2人も着いて出て行った。
同時刻────⋯
人集りの中1人の青年が……
「────やっぱり。もう物語が変わってる」
感情の無い暗い瞳をして小さく、とても小さく囁く。
「優しい王子様が友情、ジャジャ馬お姫様は恋情……筋書きと逆だなぁ」
パキ──パキッ……
王子が友情を、姫が恋情を。
──彼曰くこれらは本来逆らしい。
親指の爪をカリカリと弾きながらそう呟いた人間の虚ろな双眸は、紛れもなく那希斗と空汰を見つめていた。
「……どうしようかなぁ」
周りに聞こえないほど小さな声でボソボソと呟いた彼の言葉は当然誰が気付くことも出来なかった
0
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
平穏な日常の崩壊。
猫宮乾
BL
中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。
ちょろぽよくんはお友達が欲しい
日月ゆの
BL
ふわふわ栗毛色の髪にどんぐりお目々に小さいお鼻と小さいお口。
おまけに性格は皆が心配になるほどぽよぽよしている。
詩音くん。
「えっ?僕とお友達になってくれるのぉ?」
「えへっ!うれしいっ!」
『黒もじゃアフロに瓶底メガネ』と明らかなアンチ系転入生と隣の席になったちょろぽよくんのお友達いっぱいつくりたい高校生活はどうなる?!
「いや……、俺はちょろくねぇよ?ケツの穴なんか掘らせる訳ないだろ。こんなくそガキ共によ!」
表紙はPicrewの「こあくまめーかー😈2nd」で作成しました。
ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる