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筋書き通りにチョロくあれ

悪意

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「…………そーかよ」
「那希!いつまでそんな奴の手掴んでんだよっ」
グイグイ──
「おい、テメェ……何勝手に俺に触ってんだ。あ゙?」

空は鷹取の腕を掴んだままだった俺の手を剥がそうと、グイグイ反対方向に無理やり引っ張る。掴んでいたのは俺の方なので手の力を抜けば簡単に離れた。離れたもののまだ不機嫌らしい空と、勝手に触られて苛立っている鷹取が言い合いをしているのをぼんやりと見ながらそっと呼吸を整える。

親衛隊好きな俺が空と友達になるのはなんの問題もない。俺の親衛隊は上から下までしっかりしているし、友達が出来たからと言ってお茶会も疎かにするつもりもないから隊員の子達の不満の心配も要らない。

問題は他の役員……。
当の彼らは基本的に親衛隊や一般生徒を邪険にしがちだ。そんな彼らに気に入られる、あるいは嫌われたりした時は……

────虐めや、下手したら制裁が待っている。

でも、良かった。周囲の様子を見るにこれならまだ許容範囲内だ。俺はほっとして席に戻り空にも食事を続けるよう促そうと思って、席へ踵を返した。

なのに……

「──俺、お前気に入らねェ」

──えっ

「ッ……!」

俺は思わず目を見開いた。不味い──そう思った時にはもう遅く、食堂内の生徒に目を向け俺は息を呑んだ。

──ッ……見てる。

……無数の目が、空を──

それも特に纒わり付くような悪意を向けている人間が複数人居るようで心臓が嫌な音を立てる。とにかく、このままではだめだ。

「と…取り消してくださいッ」
「?……ッんでテメェにんな事言われなきゃなんねェんだよ」

お願いだから今だけは俺の言葉に耳を傾けてほしい、他の時はいくら無視してもいいから、と心の中で祈りながら鷹取を見つめる。せめて生徒会室で……生徒の目の届かない所で言ってほしい。

今なら……ッ今ならまだ間に合────

「私も気に入りませんね」

聞こえてきた咲夜の声に絶望した。
喉が、体が、顔が、強ばるのを感じた。 

「おれもぉ~」
「僕もきらーい!」
「……僕も」

あぁ駄目だ、取り返しがつかない。
一瞬で増えた空への嫌悪の視線。

空をちらりと見るが、それに気が付いた様子はない。……せっかく出来た友達なのに、その子が楽しい学園生活も送れないなんて。

指先がスっと熱を失って冷たい。

俺が一緒に居たからだろうか?……いや、どうたろう。どちらにせよ中途半端な時期に特待生でSクラスに転入生、という時点で彼らの興味の対象にはなっていた。
食堂に入って早々転入生の位置を聞いていた当たり初めから見に来るつもりだったのだろう。それよりも……とにかく目をつけられた。 
彼ら役員にも────その親衛隊にも。何がやばいって隊長や幹部クラスはいいとして、手の周り切っていない下の方の隊員達が間違いなく動く。

…………嘆いてばかりもいられない。とにかく俺は空が笑っていられるように、出来るだけ先回って守れるだけ守る事しか出来ない。可能な限り近くに居るようにして、それでも足りなかったら……悪いけど悠里や志摩にも助けてもらおう。



─────────────────────────────

no-side──


「ちょっと…まじで何なの、あの平凡」
「てか陰キャが皆様と並んでるとか目に毒」
「ねぇ、あの勘違い男早く消しちゃおうよ」

人集りから離れた位置に3人、小柄な生徒が小声でそっと内緒話をしていた。

「…でも書記様の御友人らしいですし…悲しむんじゃ」
「そんなのもう関係ないよ」
「そうだよ、何言ってるの?」
「他の生徒会の方々が嫌いって言ってたでしょ?だってあの見た目であの性格だよ?それが初めての友達とか……」

有り得ないでしょ、と眉を顰める1人の青年。もう1人の青年が「桜井様、あいつになにかされて騙されてるんだよ」と呟くと眉をしかめていた青年がそれらを霧散させて同調する。

「あの桜井様を誑かした淫乱黒マリモ、いじめたら本性表すでしょ?それを見て騙されてたんだって傷ついた桜井様を、生徒会の方々が慰めてくだされば……」
「そっか……!そうですよ、そうしたらやっと皆様の願望が叶いますね!」
「そうでしょ?……そもそも、ずっとヤキモキされてた役員の方々よりも先に桜井様と御友人になるなんて、身の程知らずも甚だしいんだから」
 
そう呟いて食堂を出ていく1人の青年の後を、会話をしていた残り2人も着いて出て行った。



同時刻────⋯

人集りの中1人の青年が……

「────やっぱり。もう物語が変わってる」

感情の無い暗い瞳をして小さく、とても小さく囁く。

「優しい王子様が友情、ジャジャ馬お姫様は恋情……筋書きと逆だなぁ」

パキ──パキッ……

王子が友情を、姫が恋情を。

──彼曰くこれらは本来逆らしい。

親指の爪をカリカリと弾きながらそう呟いた人間の虚ろな双眸は、紛れもなく那希斗と空汰を見つめていた。

「……どうしようかなぁ」

周りに聞こえないほど小さな声でボソボソと呟いた彼の言葉は当然誰が気付くことも出来なかった

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