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筋書き通りにチョロくあれ
食堂
しおりを挟む食堂──⋯
俺と空は、悠里と志摩に使い方を教えて貰いつつ注文を進めた。入口方面に背を向け隣合って座る俺と空の両隣は数席空いており、向かいの席には悠里と志摩が、そして俺達4人の更に周りは俺の親衛隊の子たちが固まっている。
「にしても那希……お前ほんと大人気なんだなー」
少し煩わしそうにスプーンを咥えながらモゴモゴと言った空に志摩が「行儀が悪い。置いてから話せ」とため息をついた。空は恐らくさっきここへ入った時に聞いた歓声のことを言っているのだろう……慣れていないからかこれでもかと耳を押さえていたから、流石の空でもあの騒ぎは堪えたのだろう。それも今回はこの学園ではかなり珍しい空の見た目のせいか、気付いた生徒からの罵声も混じっていた。
「当たり前でしょ。桜様なんだから」
「お前そればっかだよなー」
何処か誇らしげに頬を染めて鼻を鳴らすのは言わずもがな悠里だ。俺たちがもみくちゃにされなかったのは、ひとえに一緒に来てくれた悠里と志摩、更に俺たちを見つけた近くにいる親衛隊の子達が興奮した生徒達から守ってくれたお陰だろう。
そのままみんなで食べようと言ったのだが、空を見て微妙な顔をした親衛隊の子たちは『僕達は遠慮しておきます』と数席空けて近くに座った。ちなみに……一応言っておくと、生徒会の俺が一般席で食事をとることはルールに違反していない。
役職持ちエリアに許可なく一般生徒が立入る事は禁止されているが、その逆は禁止されていないのだ。食堂にも役職持ちエリアが設けられているが、そちらは役員や対象委員がゆっくりと食事を取れるようにというあくまでも配慮の為であり、なにも必ずそこで食べなければならないという強制という訳ではな────
「「「きゃあああああああッ!!!」」」
──空気を振動させるような歓声が背後から聞こえ、振り返ってみる。そこには人集りの中で頭ーつ飛び出ている鷹取の姿。ここは純日本人で無い人間が多く、比例して身長の高い生徒も多い。だと言うのに、この学園の人集りの中でも飛び抜けるほどの高身長はどこにいてもわかりやすい。……まぁ、その前にこの煩さで気がつくが。その鷹取はというと、扉付近で待機していた生徒と何か話しているようだった。
…珍しい。一般生徒はもちろん自分の親衛隊とも滅多に話さないのに。ふと、空の方を見てみるとスプーンを置いて、耳を押さえて唸っていた。
「ッ……てて……耳痛ってー…」
「空、大丈夫?」
「何でみんな普通なんだ?これいつもなのか?」
俺は空の言葉にどうだろう、としか返せないでいた。どちらにせよ基本役職持ちは一般席であるここではなく『一般生徒立入禁止』の札がかかった、階段を上がった位置にある特別席に行く。彼らは親衛隊どころか一般生徒も好きではないようだし、直ぐにあちらへ消えるだろう。もう慣れてしまった全校集会の時並みの叫び声をBGMに、多分他の役員も何人か一緒なんだろうなと呑気に考えていた。
「──お前か、時期外れの転入生ってのは」
不意に掛けられたその声は俺に向けられたものでは無い。が、しかし。それは俺にも大いに関係のある人物へと向けられた言葉だった。そちらに目をやるとやはり鷹取がおり、わざわざ隅の方を選んだのに全く意味がなかった……と、ついげんなりしてしまう。
……これはさっき入口付近で転入生の場所聞いたな。
振り向くと鷹取と目が会い「おい、何でここにテメェが居んだよ」と案の定嫌な言葉が飛んできたので適当に笑んでおいた。
……何処にいてもいいでしょう別に。
「あれー!なんでナキちゃんといるのー?」
「……なんで?」
「あぁ、転入生は桜井と同じ1学年のSクラスですからね」
鷹取の後ろからひょこっと顔を出したのは泉と雫。不思議そうにしている双子へ、特に興味も無さそうに知っている情報を吐いたのは咲夜だった。そのままその後ろに視線をやると南条もおり、生徒会メンバーがここに全員揃ってしまっていた。
「ふーん……そっかぁ、それで一緒にお昼なのぉ?」
「はい」
「えーっ僕らとは一緒に食べてくれたことないのに!」
「ずるい……」
南条が俺の近くに寄ると相変わらず緩やかな声色で声をかけてきた。泉と雫はそれに目を見開いて驚愕と言った表情で詰め寄ってくる。
「那希、なんだよコイツら」
「あ、うん。この人達は──」
「おい、何いつまで座ってんだ、とっとと立て」
「は?嫌だ。俺メシ食ってるし、見てわかんねーの?」
「あ゙?んなの俺に関係ねェだろ」
空に役員の生徒を紹介しておこうとしたら鷹取に遮られてしまった。更に鷹取は「良いからさっさと立てノロマ」と空の肩を鷲掴もうとしていて、気付いたら咄嗟に鷹取の手首を掴んで止めていた。
「……お前」
「あ……えっと。やめてください、会長」
「?……那希?どうしたんだ?」
「桜井、テメェ何のつもりだ」
空は急に肩を掴もうとしてきた鷹取と、その腕が突然横から止められたからか少し混乱気味だ。唸るように鷹取が意図を問うが、俺は無意識だったから……当たり障りのない当然の事を言って誤魔化すことにした。
「…空はまだこの学園の常識を知りません。もちろん会長が生徒会の人間だと言うこともです。見逃してあげて下さい」
「……随分仲が良いじゃねェか」
キシッと体が硬直する。まるで咎められているように聞こえるのは…きっと俺が彼らへ故意に歩み寄らないようにしているという罪悪感が多少なりともあるからだろうか。まぁ……鷹取に関してはお互い様だからやっぱり関係ないけど。
そ、それに友達なんだから、仲が良く見えるのは当たり前だ。
「空は俺の………と、友達です、から」
誰かを友達だって言うのはこんなに恥ずかしくて幸せなんだ、とこんな状況なのについ小っ恥ずかしなって視線が泳ぐ。にしても高校生になって初めて友達ができるなんて……これからだって出来ないものだと思ってたから余計に感慨深い。
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