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筋書き通りにチョロくあれ
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しおりを挟む「なーなー!ここって校庭広いよなー」
「うん、綺麗だよね」
「……あっ那希!アレ見ろよ!」
「え?……ッ!ちょ、空────」
歩いていても纏わり付いて……いや、俺の腕を引っ張って走り出した空。今度は何に興味を持って行かれたのか、キラキラとした目で時々振り返ってくる空は……散歩中に飼い主を振り返り“早く早く”と、スピードを上げるよう催促する犬のようだ。繋がれている手はリードで……って、あれ?繋がれているのは俺だから、この場合……俺が飼い主に引っ張られる犬なのか?
………………まぁ、いいか。
「ちょっと!そんな風に桜様を引っ張らないでよ!!」
「?なんだ、そういう事か!お前なー、仲間に入りたかったなら最初っからそー言えよ!ほら行くぞ!」
「え?……ちょ、なんなのアンタ!離してよこの馬鹿力ッ!!」
「……はぁ、この小学生が」
終始怒り顔だった悠里が空に引っ張られ、同じく空に手を引かれて小走りになっていた俺の反対側を、引き擦られるように走り出した。そして、その後を疲弊した顔の志摩が速歩で着いて来る。……一般棟への道すがら、中庭に興味を示した空がエネルギッシュに荒れ狂っている最中だ。
昼休憩になるなり俺は『早く食堂行くぞ!』と空にズルズル引き摺られた。慌てて一緒に着いて来てくれた2人は寮にいる時や俺が教室に居ない時は基本食堂で昼食をとっている。食堂は集会時と同じく役員が現れると必ず騒がれるようで、心配だと言って2人が着いてきてくれたのだ。うーん……流石は生徒会フィルター。
空は初めての友達だしこういうの本当は俺が教えてあげたかったけど、学校でも寮でも食堂を利用しない俺だけでは役不足。一緒になって首を捻り2人で苦戦しながら昼休憩の時間を過ごすのが想像に容易い。
「空……俺、食堂でご飯ってあまり食べないから、正しい使い方とか分からなくて。詳しい事は2人に聞いてね」
「そうなのか?」
「うん、ごめんね。俺が来ても役に立たなかった」
俺が立ち止まると手を繋いでいた空も振り返って足を止める。そして当然、空の反対側の手で掴まれていた悠里も連動して止まった。
「那希、おまえ何言ってんだ?」
「ん?」
「友達なんだから役に立つとか立たないとか関係ないだろ?」
「え?」
至極当たり前、といった風で真剣な雰囲気を滲ませながらそう言い放った空に面食らう。友達に損得は無い、のか。……でも俺は『空にとって俺の存在は得』だと嬉しいって思う。これは…変なんだろうか。
「そういうもの…?」
「?おう!おれたちは友達だからな!」
空の『例え何も得を与えられ無くても友達でいることはおかしい事じゃない』といった言葉が新鮮で、それを裏付けるこの純真な笑顔が心地良かった。出会って一日も経っていないのにこれほど惹かれてしまうなんてことは……あの時以来だ。
ふいに2人を見ると俺たちの事を何処か微笑ましそうに見ていた。俺の視線を追い、それに気が付いた空が2人を見るが、悠里は不服そうにプイッと顔を逸らし志摩は複雑そうに笑いながら空の肩へ拳を軽く当ていた。空もニカッと、笑って志摩の肩に拳を返していた。
「俺は桜さんの親衛隊副隊長、高城 志摩。一応よろしく」
「おう!じゃー志摩な!」
「なら空汰って呼ぶからな」
「おう!……で、親衛隊ってなんの事だ?」
「まぁ…男子校特有のファンクラブみたいなものだな」
「へぇ……あー、なるほどな」
空は顎に手を当てて何処か冷静に遠くを見詰めた。それに対して志摩は意外そうな顔で首を傾げる。そう、高等部からの外部生はそういった同性同士の事に疎く、特待生制度目当てで入学した一般人が、全寮制の男子校であるここの内情を理解できずに苦労する──なんて事は珍しくない。もちろん一般人だけでは無く、諸事情で途中からここへ来た名家の生徒も内情に絶句することがあるらしい。
要は、こう言った事情に直面するとまずは引かれるのが普通の反応なのだ。
「……引かないのか?」
「あーまぁ?共学にも似た様なのあったし…あれの男同士版だろ?俺、偏見とかは特にねーからさ。むしろ腑に落ちたって言うか」
空は「でもそう考えたら那希の周りに居た奴らの反応に納得だなー」と笑った。俺に取られるとか思ったんだろ、と言うとあははと噴き出した。
「そんな訳ないのになー!」
「なんでアンタの事じゃないのにそんな断言できるの?この馬鹿」
「は?お前こそバカだろ」
「なッ……」
悠里は、馬鹿に馬鹿って言い返されるなんて……と小声で呟いている。悠里はキッと空を睨んだが当の空気にした様子も無く、寧ろ呆れたように悠里を見詰めて言葉を零す。
「どう見たって那希はお前らのこと大好きだろ。そんな奴が友達できたくらいでお前らのこと蔑ろにする訳ねーじゃん」
空は「ほら、みんな馬鹿だろ」とニカッと笑った。悠里はそれに面食らって呆けている。俺もそれを聞いてクスッと笑ってしまった。全く空の言う通りだったから。
そもそも俺は生徒会の仕事以外、正直親衛隊の子達におんぶに抱っこ状態。というのも──俺が生徒会室以外でできるだけ役員たちに会わないよう情報をくれるのも、執務疲れを癒してくれるのも、渇きを紛らわせてくれるのも全部全部、親衛隊や一般生徒達だから。もとより、生徒会の仕事だって燃料は親衛隊の子たちからの愛情だったりするのだから、本当に彼らが居ないと俺は何も出来ない気がする。そんな彼らを俺が蔑ろにするわけが無いのだ。
「ッ…………っカツク、本当」
「で、おまえ名前なんて言うんだ?」
「……宮野 悠里。馴れ馴れしく呼ばないでね」
「おう!じゃあ悠里な!」
「アンタ話聞いてた?」
「なんだよ…じゃユウが良いのか?欲しがりだなー」
「なッ……んでその二択な訳!?」
悠里は思考回路が分からない、と喚いていたものの熱が冷めたのか諦めたのか暫くして「……もう、悠里でいいよばか」と呆れたように呟いた。しかし小さなそれはしっかりと空に聞こえていたらしく嬉しそうに彼が笑うものだから、悠里でさえも「うっ……」と毒気を抜かれていた。
ほら、関わってみたらいい子でしょ?なんて、初めての友達に舞い上がってそんなことを思う。
「そうだ那希!お前友達初めてなんだよな?」
「?うん、そうだけど……急にどうしたの?」
「今度遊ぼーぜ?」
食堂へ向かって自然とまた歩き出していた俺達は並んで話している。空は「友達と遊んだりした事もねーんだろ?」と屈託なく笑っていて俺はそれに目を見開いた。
──遊ぶ?初めての友達と?何それ、楽しそうっ
「っじゃあ、俺の部屋においでよ。2人部屋1人で使ってるから気も使わなくて済むし……!」
「ッ……お、おう!そーしようぜ!」
隣を歩く空に、嬉しさで頬がだらしなく緩むのにも構わず提案すると、口にした事で更に幸福感が増して顔中が蕩けてしまうかと思った。
──⋯空といると、新鮮だ。
友達っていいな。今まで、勿体なかったかな?
…でも、初めてが空だからこんな風に思えたのかもしれない。
ずっと、こんな風に楽しいのが続けばいいな。
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