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ふつう

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事件はその後、SUUと本社がなにやら動いてはいたが、詳細は末端には知らされず、日常を取り戻しつつあった。

櫂の妹には、SUUが直接会い、様々説明をしたということだった。

「朔良も今度会ってや、妹。世間知らずの妹やで、その方が安心すると思うんや」

櫂はそう言って、笑っていた。


大学の構内を歩きながら、腕の中で震える櫂を、思い出す。これまで感じた、何かに怯えるような姿のワケを、少しだけ、見た気がした。


朔良はというと、リョウに結局なにを見られたのか。
確認する術がないまま時が過ぎ、なんとなく気まずい感覚をもちつつも、普通に接してくるリョウに甘え、そこには触れないまま、時が経っていった。









『聖也……その気にさしてくれるん?』
『うん……』
『なにしてくれるん?』
『……んー、キスして』
『え? おねだり?』
『だめ?』
『じゃぁ可愛く言って』
『うん……キスして』
『まだだな、やり直し』
『えーー……櫂くんちゅうして!ちゅぅー!』
『あははっ!聖也、可愛いなお前!』

あははと笑った櫂の横顔は、目の大きな少年のような顔をした聖也と呼ばれた彼を愛おしそうに見下ろし、そして大きな手を彼の後頭部に回し、引き寄せた。

その瞬間、聖也の瞳はトロンと目尻を下げ、櫂を見上げた。

大きな身体が小柄な聖也を組み敷き、指を絡める。

『ちゅぅだけでいいの?』
『……やだ』
『なに?』
『気持ちいいこと……して』
『おし、合格』

恥ずかしがる聖也に櫂は、少しだけ口角を上げ、そして、唇を重ねた。唇を重ね、舌を絡め、絡む音を響かせる。その手は、指先から腕を這い、そして聖也の胸をなでた。



ガン!という音が、響く舌の絡む音に重なった。

「うお! ビビったー! どーした?」
「いや。別に……」
「え? なに? 見んのやだった!?」
「いや、どんな顔してみたら良いのかわかんねぇ」

目の前のテレビ画面の中に繰り広げられる、櫂と見たこともない子供のような顔をした青年の絡み。

「つーか誰すか? こいつ?」
「新人だよ、聖也だって」
「18歳ってやつ?」
「そうそう、若いよなーって朔良もまだ20歳か」
「俺もまだ若いすよ」
「つーか朔良もうすぐ1年じゃん」

ふらりと事務所に寄ると、ソファに座って出来上がったばかりというDVDを見ている凌空と、遭遇した。


「櫂朔も1年かぁ……」

呟いた凌空は、ソファにもたれかかりテレビ画面に視線を戻す。


『聖也ぁ……なんでこんなんなってんの?』
『恥ずかしいー』
『ほら、すっげぇよ』

いつの間にか剥ぎ取られた聖也の服。
覗く肌は小麦色に焼けており、すでに勃ち上がったソレをそっと握った櫂は、舌先で転がしながら聖也を見上げた。

『んんっーー……あー気持ちぃっ……』

刺激を受けよがる聖也を見上げ、嬉しそうに笑いながらソレを咥える櫂。

自分のモノを咥えるときも、「気持ちいい?」
「朔、可愛い」そう言いながら、櫂は刺激を与えた。

重なるその光景に思わず、視線を逸らしまた、酒に口をつけた。

「つーか、なんで見てるんすか?」
「え? 新人どんな子かなーと思って」
「それで絡み見るんすか……」
「自分のは見れんけどなー」
「つけましょか? 風呂で撮ったやつでしょ?」
「いいわっ! アレはエロかったなぁ」
「凌空くんずっと勃ってたよね」
「だって朔良気持ちいいしさぁ! エロいしさぁ!」

大きな口を開けてハハハと笑いながら、凌空もグビッと酒を飲んだ。

「つーか櫂エロッ! 櫂の目つきやべぇよな」

画面の中では櫂が聖也に背後から挿入し、長い指で聖也の唇を撫でている光景が映し出されている。

『あーー聖也……お前ん中、気持ちいい……』
『はぁっ……あぁーー……櫂くんっーー』

「これ今度俺もやろー」
「パクリ?」
「研究したら使わな」
「ははっ」

朔良は、乾いた笑いを吐き捨てた。

仕事。
これは、仕事。
櫂が、他の男とSEXしている事実。

櫂が、自分に向ける眼差しと、この聖也という男に向ける眼差し。そこに、違いなんて感じられなくて、仕事のうちであることを突きつけられる。

現に自分も、仕事として凌空とSEXをした。
同じDVDに収録されている。

櫂が触れた自分のカラダに、凌空が触れ、舌を這わせた。

ただ恐ろしいと感じたのは、その時、そこに嫌な気持ちがしなかったということ。ただ、目の前の凌空を好きだとひたすら想い、その想いをぶつけた。勃ち上がる凌空のソレを見て歓びを感じ、刺激を与えた。そんな自分に、恐ろしさを感じた。

果てた後に、終えた達成感と共に押し寄せた複雑な感情に、少しだけホッとした自分がいた。


朔良としてココに居続けて1年。
朔良としての自分も自分であって。

ただそれが、『普通』とは違う感覚、『普通』ではない世界であったはずなのに、『普通』になりつつある、ということに対する恐怖。

そんな思いがどこか、心の奥底に芽生えていた。

「いや、まだ平気か……」

大きな画面の中で、白いトロリとした液体を小麦色の腹の上にぶちまけた櫂から思わず視線を逸らした自分に朔良は、ボソッと呟きそして、また、酒を飲んだ。
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