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愛してる

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「リリー様、何か悩み事ですか?」

 グロディール国ことを学ぼうと、クロードに借りた歴史書を呼んでいた遥香は、アンヌに心配そうに訊ねられて顔をあげた。

 ラベンダーのハーブティーに蜂蜜を落として差し出してくれる。リラックス効果のあるハーブティーを選んでくれるあたり、それほど悩んでいるように見えたのだろうか。

 遥香は本にしおりを挟んで閉じると、ガラスでできたティーカップを受け取った。

「たいしたことじゃないのよ」

「そうですか? 最近難しい顔をしていることが多い気がしますけど……、ねえ、セリーヌ」

「ええ、なんだか思いつめたような顔をされていますよ」

 侍女二人に心配されて、遥香は微苦笑を浮かべる。

 悩みといっても、本当にたいしたことではないのだ。ただ、クロードの部屋で見つけた仮面が気になっているだけ。仮面舞踏会のときに優しかった紳士が、実はクロードだったのかもしれないと思うと心がざわめくだけだ。

(……本当に、クロード王子だったのかは、まだわからないけど)

 仮面を見つけたとき、確かめようかとも思った。しかし、もしも違った場合に、こっそり仮面舞踏会に出かけたことを知ったクロードが何と思うか―――、怒りはしないかもしれないが、婚約している身でそんなところで羽を伸ばしていたと思われるのが嫌だった。

(はあ、わたしって、本当に憶病……)

 ついつい二人の前だというのにため息をついてしまうと、アンヌたちはより心配そうな顔をする。

「リリー様、もしかして、婚約披露の舞踏会が原因ですか?」

 顔を曇らせたセリーヌに言われて、遥香はきょとんとして首を傾げた。

「婚約披露の舞踏会?」

「え? ご存じありませんか?」

 こくん、と頷くと、セリーヌが「あー」とうめいて額をおさえた。

「クロード王子ってば、何でこう大事なことを言わないの……」

 どうやら、クロードは知っていることのようだ。

「なんなの、その婚約披露の舞踏会って」

 アンヌももちろん知らない様子で、興味津々そうにセリーヌに詰め寄った。

 セリーヌは「わたしの口から言っていいのかしら?」と言いながら、教えてくれる。

「せっかくリリー様がこの国にいらしてくれるのだからと、小規模ですけど、婚約披露の場を設けようと言うことになっているんです。王族や、王族に近い臣下しか呼ばないそうですから、大げさなものではなく、ほんのお披露目会のようなものなんですけど……、だからって黙っているなんて、クロード王子ったら、絶対わざとだわ」

 セリーヌが「すぐに意地悪したがるんだから。子供かしら」とぷりぷり怒りながら毒づいた。

「絶対リリー様を驚かせて楽しもうと思っていたんですわ!」

 さすがに遠縁と言えど親戚だけあって、セリーヌはクロードの性格を熟知しているらしい。

 遥香か困った顔をしていると、瞳をキラキラと輝かせたアンヌに手をぎゅっと握られた。

「まあまあ、でも、お披露目ということは、しっかりと着飾らないとだめですよね」

 嬉しそうなその様子に、遥香はぎくりとする。いつも「控えめに」と頼むのでたまに忘れそうになるが、アンヌは主人を着飾るのが大好きなのだ。

 まずい、と思って助け舟を出してもらおうとセリーヌを見れば、セリーヌは拳を握りしめて鼻息荒く、

「ええ! こうなったら、黙ってびっくりさせて楽しもうと思ってるクロード王子を、逆にびっくりさせてやりましょう! ふふっ、どうせなら王妃様も味方につけて、いろいろアクセサリーを貸してもらっちゃいましょう! あの方も悪戯好きですから、きっと乗ってくれますわ」

「まあ、素敵だわセリーヌ!」

「………」

 よくわからないが、主人をそっちのけで盛り上がりはじめた二人に、遥香は頭が真っ白になった。

(……どうしよう)

 このままでは、どれだけ着飾らせられるかわかったものではない。

「あの、二人とも……、ほどほどに、ね?」

 遥香は控えめに声をかけたが、よくわからない闘志に燃えている二人の耳には、まるで聞こえていないようだった。
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