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花言葉と緊張の夜
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遥香はドライヤーで髪を乾かしながら、さきほどから聞こえてくるシャワーの音を、ドライヤーの音で、できるだけ頭の中から追い出そうと躍起になっていた。
遥香と入れ替わりで浴室に入った弘貴がシャワーを浴びているのだ。
遥香は薄化粧で、化粧を落としても素顔と大差ないので、素顔を見られることへの抵抗感がなかったことだけは救いだったが、化粧を落とし、ホテルに備え付けのバスローブ姿で恋人がお風呂から出てくるのを待つというのが、これほど緊張するものだとは知らなかった。
(どうしよう……、幻滅するかな。するよね……?)
遥香は胸が大きい方ではないし、あまり経験がないため、おそらくベッドの上ではカチンコチンに固まってしまう。男の人の喜ばせ方なんて知らないし、むしろ恐怖で今にも泣きだしたいくらいだ。
いきなり怯えて泣き出す女なんて、面倒くさいに決まっている。
とにかく最低限泣いてはダメだと自分自身に言い聞かせていると、ガチャリと音がして浴室の扉が開いた。
タオルで頭をふきながら、同じバスローブ姿の弘貴が出てくる。
ゆったりとしたバスローブ姿に、お風呂で上気した顔が妙に色っぽくて、遥香はドライヤーを持ったまま凍りついてしまった。
「あれ、髪まだ乾いてないの? やってあげるよ」
緊張してどうしようもない遥香とは対照的に、弘貴には余裕がある。断る暇もなく、ベッドの淵に腰かけて髪を乾かしていた遥香の手からドライヤーを受け取ると、弘貴は遥香の後ろに回った。
手櫛で髪を梳かれながらドライヤーをあてられる。
弘貴との距離がとても近くて、半乾きの髪を梳かれるのも恥ずかしく、遥香が縮こまっていると、何を思ったのか、弘貴が頭のてっぺんにちゅっとキスをした。
ビクッと肩を揺らした遥香を見て、ドライヤーを止めた弘貴がくすくすと笑いだす。
「終わったよ。なんでそんなにガチガチになってるの?」
「だ、だって……」
「だって?」
「その……、なんでも、ないです……」
うつむいてしまった遥香の顔を覗き込んで、「顔真っ赤」と楽しそうに言ったあと、弘貴が自分の髪にドライヤーを当てはじめる。
遥香はじっとしていられなくなって、立ち上がると、備え付けの冷蔵庫を開いた。
「お水もらいます! あ、ビール、いりますか?」
「んー。いや、俺も水がいいかな。持ってきてくれる?」
遥香から水のペットボトルを受け取って、ドライヤーを切った弘貴がそれをごくごくと飲み干す。
せっかく買ったのに、ビールは飲まないのかなと疑問に思っていると、遥香の考えていることを読んだのか、弘貴が口の端を持ち上げた。
「酔って理性がきかなくなったら困るでしょ?」
「え?」
きょとんと首を傾げる遥香の腕をつかんで引き寄せると、弘貴は遥香の唇に軽くキスをする。
不意打ちのキスに顔を赤くした遥香の頭を撫でながら、弘貴は優しく目を細めた。
「大丈夫。今日はキス以上のことはしないから。……怖いんだろう?」
ばれていたのか。遥香は気まずくなって視線をそらした。
「その……、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それに、今日は急だったし。今度はちゃんと心の準備をしてもらうから」
抱きしめられて低くささやかれると、呼吸も苦しくなるほど心臓がざわめく。
「こ、今度……?」
「そ。いつがいいかなぁ。今度はちゃんと計画して泊まりの旅行に行こう? その時は―――、遥香の全部をもらうから」
「―――っ」
「だから、今日は……、うん、手をつないで眠ってくれるだけでいいよ」
弘貴は遥香の手からペットボトルを奪うと、ベッドサイドにおいて、遥香を抱きしめたままベッドに横になった。
ぎゅうっと抱きしめられて、緊張と恥ずかしさで動けない遥香の頭を撫でながら弘貴が言う。
「急ぎたくないんだ。遥香が嫌なことはしたくない。でも、せっかく同じ部屋にいるんだから、手をつなぐくらいはいいだろう?」
お風呂上がりで体温の高い弘貴の腕に包まれて、少しずつ安心してきた遥香が体の力を抜く。
弘貴はどこまでも優しくて、ほんの少し泣きそうになりながら、この人を好きになってよかったと遥香は弘貴の少し早い鼓動の音を聞きながら思った。
遥香と入れ替わりで浴室に入った弘貴がシャワーを浴びているのだ。
遥香は薄化粧で、化粧を落としても素顔と大差ないので、素顔を見られることへの抵抗感がなかったことだけは救いだったが、化粧を落とし、ホテルに備え付けのバスローブ姿で恋人がお風呂から出てくるのを待つというのが、これほど緊張するものだとは知らなかった。
(どうしよう……、幻滅するかな。するよね……?)
遥香は胸が大きい方ではないし、あまり経験がないため、おそらくベッドの上ではカチンコチンに固まってしまう。男の人の喜ばせ方なんて知らないし、むしろ恐怖で今にも泣きだしたいくらいだ。
いきなり怯えて泣き出す女なんて、面倒くさいに決まっている。
とにかく最低限泣いてはダメだと自分自身に言い聞かせていると、ガチャリと音がして浴室の扉が開いた。
タオルで頭をふきながら、同じバスローブ姿の弘貴が出てくる。
ゆったりとしたバスローブ姿に、お風呂で上気した顔が妙に色っぽくて、遥香はドライヤーを持ったまま凍りついてしまった。
「あれ、髪まだ乾いてないの? やってあげるよ」
緊張してどうしようもない遥香とは対照的に、弘貴には余裕がある。断る暇もなく、ベッドの淵に腰かけて髪を乾かしていた遥香の手からドライヤーを受け取ると、弘貴は遥香の後ろに回った。
手櫛で髪を梳かれながらドライヤーをあてられる。
弘貴との距離がとても近くて、半乾きの髪を梳かれるのも恥ずかしく、遥香が縮こまっていると、何を思ったのか、弘貴が頭のてっぺんにちゅっとキスをした。
ビクッと肩を揺らした遥香を見て、ドライヤーを止めた弘貴がくすくすと笑いだす。
「終わったよ。なんでそんなにガチガチになってるの?」
「だ、だって……」
「だって?」
「その……、なんでも、ないです……」
うつむいてしまった遥香の顔を覗き込んで、「顔真っ赤」と楽しそうに言ったあと、弘貴が自分の髪にドライヤーを当てはじめる。
遥香はじっとしていられなくなって、立ち上がると、備え付けの冷蔵庫を開いた。
「お水もらいます! あ、ビール、いりますか?」
「んー。いや、俺も水がいいかな。持ってきてくれる?」
遥香から水のペットボトルを受け取って、ドライヤーを切った弘貴がそれをごくごくと飲み干す。
せっかく買ったのに、ビールは飲まないのかなと疑問に思っていると、遥香の考えていることを読んだのか、弘貴が口の端を持ち上げた。
「酔って理性がきかなくなったら困るでしょ?」
「え?」
きょとんと首を傾げる遥香の腕をつかんで引き寄せると、弘貴は遥香の唇に軽くキスをする。
不意打ちのキスに顔を赤くした遥香の頭を撫でながら、弘貴は優しく目を細めた。
「大丈夫。今日はキス以上のことはしないから。……怖いんだろう?」
ばれていたのか。遥香は気まずくなって視線をそらした。
「その……、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それに、今日は急だったし。今度はちゃんと心の準備をしてもらうから」
抱きしめられて低くささやかれると、呼吸も苦しくなるほど心臓がざわめく。
「こ、今度……?」
「そ。いつがいいかなぁ。今度はちゃんと計画して泊まりの旅行に行こう? その時は―――、遥香の全部をもらうから」
「―――っ」
「だから、今日は……、うん、手をつないで眠ってくれるだけでいいよ」
弘貴は遥香の手からペットボトルを奪うと、ベッドサイドにおいて、遥香を抱きしめたままベッドに横になった。
ぎゅうっと抱きしめられて、緊張と恥ずかしさで動けない遥香の頭を撫でながら弘貴が言う。
「急ぎたくないんだ。遥香が嫌なことはしたくない。でも、せっかく同じ部屋にいるんだから、手をつなぐくらいはいいだろう?」
お風呂上がりで体温の高い弘貴の腕に包まれて、少しずつ安心してきた遥香が体の力を抜く。
弘貴はどこまでも優しくて、ほんの少し泣きそうになりながら、この人を好きになってよかったと遥香は弘貴の少し早い鼓動の音を聞きながら思った。
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