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デート
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水曜日――
先週の金曜日の一件から、なんとなく弘貴の顔を見るのが気恥ずかしくて、遥香は極力弘貴の視線を避けてすごしていた。
朝出社してパソコンを立ち上げ、メールチェックをしていると、ピコンと社内メールの到着を告げるポップアップがディスプレイの端にあらわれる。
内容を確認すると「業務連絡」という題名で、差出人は弘貴だった。
だが、メールを開いて本文を読んだ遥香は唖然とした。
(全然、業務連絡じゃないじゃないの!)
業務連絡と言う題名で送られてきたメールの内容は「デートの誘い」だった。あきれた遥香はメールを未読に戻して、気づかなかったふりをすることにした。
弘貴は強引だ。うっかり誘いに乗っていては、いつの間にかつきあっていることにされ兼ねない。
冗談なのか本気なのかわからないが、好きだと言われた手前、かたくなな態度をとり続けるべきだ。絶対に、流されない。
遥香はそう心に強く誓い、昼休憩を告げるチャイムが鳴るまで、ひたすら無心でキーボードを叩き続けたのだった。
☆ ☆ ☆
昼休憩のチャイムが鳴って、遥香はデスクの上でお弁当を広げていた。
自社ビルなので二階にカフェテラスが作られており、特に女性社員はそこで食事をとることが多いが、遥香は節約のため弁当持参なのでデスクで食べることがほとんどだった。
遥香以外にデスクでお弁当を食べる社員がいないため、必然的にお昼は遥香一人になる。
机の上で黙々とお弁当を食べていると、誰かが社内に戻ってきた。遥香は顔を上げて、こちらに歩いてくる人物を見、思わず口に入れたおにぎりをのどに詰まらせかけた。
「お昼はいつもお弁当だね」
そう言いながら近づいてきたのは弘貴だった。
弘貴は社内に誰もいないのをいいことに、遥香の隣のデスクの椅子を引っ張ってきて遥香のすぐそばに座った。
「ねえ、なんでメールの返信くれないの?」
遥香はぎくりとした。朝送られてきた「業務連絡」という件名のデートのお誘いメールの件だ。遥香は卵焼きを口に入れながらそらっとぼけた。
「何のメールですか?」
遥香がとぼけたのがわかりやすかったのか、弘貴が少しムッとしたように口を曲げた。
「朝メールしたんだけど」
「すいません、まだ読んでいないのかもしれません」
「秋月さん。業務連絡はすぐに目を通してくれないと困るよ」
上司の顔をしてさも当然のように攻めてくる弘貴に、遥香は少しイラっとした。
「業務連絡じゃなかったじゃないですか」
遥香が反論すると弘貴はニヤリと笑ってデスクに頬杖をついた。
「あれ? 読んでないのに内容わかるんだ」
遥香はしまったと口を閉ざしたがもう遅い。
弘貴はくすくすと笑いだした。
「秋月さんは素直でわかりやすくていいね」
「……要するに、単純って言いたいんでしょうか」
「かわいいってことだよ」
さらりと言われて、遥香は頬を染めてうつむいた。
弘貴は愛おしそうに目を細め、それから立ち上がると、身をかがめて遥香の耳元でささやいた。
「土曜日、駅前、午後一時」
「え?」
「待ってるから、来てね」
「わたし、行くなんて一言も……」
「来なくても待ってるよ。じゃあ俺、営業に出てくるから」
「八城係長!」
遥香は慌てて呼び止めたが、弘貴は後ろ手に手を振りながらオフィスを出て行く。
遥香は椅子の背もたれに体重を預けて、天井を仰いだ。
「本当に、強引な人……」
あの様子だと、本当に遥香が来なくても待っていそうだ。
「……行かないわよ」
遥香は自分に言い聞かせるようにつぶやいて、天井に向かってため息を吐いた。
先週の金曜日の一件から、なんとなく弘貴の顔を見るのが気恥ずかしくて、遥香は極力弘貴の視線を避けてすごしていた。
朝出社してパソコンを立ち上げ、メールチェックをしていると、ピコンと社内メールの到着を告げるポップアップがディスプレイの端にあらわれる。
内容を確認すると「業務連絡」という題名で、差出人は弘貴だった。
だが、メールを開いて本文を読んだ遥香は唖然とした。
(全然、業務連絡じゃないじゃないの!)
業務連絡と言う題名で送られてきたメールの内容は「デートの誘い」だった。あきれた遥香はメールを未読に戻して、気づかなかったふりをすることにした。
弘貴は強引だ。うっかり誘いに乗っていては、いつの間にかつきあっていることにされ兼ねない。
冗談なのか本気なのかわからないが、好きだと言われた手前、かたくなな態度をとり続けるべきだ。絶対に、流されない。
遥香はそう心に強く誓い、昼休憩を告げるチャイムが鳴るまで、ひたすら無心でキーボードを叩き続けたのだった。
☆ ☆ ☆
昼休憩のチャイムが鳴って、遥香はデスクの上でお弁当を広げていた。
自社ビルなので二階にカフェテラスが作られており、特に女性社員はそこで食事をとることが多いが、遥香は節約のため弁当持参なのでデスクで食べることがほとんどだった。
遥香以外にデスクでお弁当を食べる社員がいないため、必然的にお昼は遥香一人になる。
机の上で黙々とお弁当を食べていると、誰かが社内に戻ってきた。遥香は顔を上げて、こちらに歩いてくる人物を見、思わず口に入れたおにぎりをのどに詰まらせかけた。
「お昼はいつもお弁当だね」
そう言いながら近づいてきたのは弘貴だった。
弘貴は社内に誰もいないのをいいことに、遥香の隣のデスクの椅子を引っ張ってきて遥香のすぐそばに座った。
「ねえ、なんでメールの返信くれないの?」
遥香はぎくりとした。朝送られてきた「業務連絡」という件名のデートのお誘いメールの件だ。遥香は卵焼きを口に入れながらそらっとぼけた。
「何のメールですか?」
遥香がとぼけたのがわかりやすかったのか、弘貴が少しムッとしたように口を曲げた。
「朝メールしたんだけど」
「すいません、まだ読んでいないのかもしれません」
「秋月さん。業務連絡はすぐに目を通してくれないと困るよ」
上司の顔をしてさも当然のように攻めてくる弘貴に、遥香は少しイラっとした。
「業務連絡じゃなかったじゃないですか」
遥香が反論すると弘貴はニヤリと笑ってデスクに頬杖をついた。
「あれ? 読んでないのに内容わかるんだ」
遥香はしまったと口を閉ざしたがもう遅い。
弘貴はくすくすと笑いだした。
「秋月さんは素直でわかりやすくていいね」
「……要するに、単純って言いたいんでしょうか」
「かわいいってことだよ」
さらりと言われて、遥香は頬を染めてうつむいた。
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「土曜日、駅前、午後一時」
「え?」
「待ってるから、来てね」
「わたし、行くなんて一言も……」
「来なくても待ってるよ。じゃあ俺、営業に出てくるから」
「八城係長!」
遥香は慌てて呼び止めたが、弘貴は後ろ手に手を振りながらオフィスを出て行く。
遥香は椅子の背もたれに体重を預けて、天井を仰いだ。
「本当に、強引な人……」
あの様子だと、本当に遥香が来なくても待っていそうだ。
「……行かないわよ」
遥香は自分に言い聞かせるようにつぶやいて、天井に向かってため息を吐いた。
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