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デート
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クロードはリリーの部屋の前で困った表情を浮かべていた。
クロードの相手をしているリリー付きの侍女も同じように眉尻を下げている。
リリーを午後の散歩につき合わせようと思って迎えに来たのであるが、リリーはリリックとともに部屋から出かけてしまい、いないという。それを聞いて、クロードは内心苛々していた。
(昨日もいなかったくせに、今日もか)
リリックといえば、昨日から城に滞在しているリリーの従兄で公爵家の跡取り息子だろう。
(あいつは、俺が城に滞在しているあいだ、俺の世話をするってことをわかっているのか!?)
クロードは舌打ちしたくなる衝動を堪え、侍女に向かってにこやかに微笑んだ。
「わかりました、急ぎの用ではないので、また来させてもらいますね」
クロードはそう言ってリリーの部屋をあとにした。だが、自分の部屋とは反対の方角に足をむける。
腹が立つから、リリーを探し出して厭味の一つでも言ってやろうと思ったのだ。
リリーがどこにいるのかはわからないが、城の外には出ていないはずだ。彼女は城の外に無断で出るような性格ではないので、外に出かけるなら侍女に行き先を伝えているだろうからである。
クロードは廊下を曲がったところで、金髪の派手な顔立ちの女がこちらへ歩いてくるのを見つけた。リリーの姉のコレットだ。
「コレット姫、こんにちは」
クロードは彼女を呼び止めにこやかに話しかけた。
コレットも穏やかな微笑みを浮かべる。
コレットは目鼻立ちのはっきりとした美人だった。リリーとはあまり似ていない。クロードは、自分の従者が、クロードの婚約者が、コレットや、美姫として有名なリリーの妹のアリスでなかったことを嘆いていたことを思い出した。
なるほど、確かに、リリーと比べると、コレットの方が圧倒的にきれいな顔立ちをしている。だが、コレットの顔をあらためて見たクロードは、心の中で、自分の婚約者が気の強そうな彼女でなくてよかったと安堵した。気の強い女の相手をするのは疲れるし、何より、リリーのおとなしめな顔立ちをクロードはひそかに気に入っていたのだ。
「リリーを探しているのですが、見かけませんでしたか?」
「リリー? それならさっき、中庭でリリックと一緒に歩いているのを見かけましたわ」
「そうですか。どうもありがとう」
クロードは礼を言って中庭に急ごうと身を翻したが、背後からコレットに呼び止められて振り返った。
「クロード王子。あの子とは仲良くしていただいていますか?」
「もちろんですよ」
クロードは即答した。これは嘘ではなく、彼は本心からリリーと仲良くしていると思っているからだ。猫かぶりな自分の本性もさらけ出しているし、彼女との壁は何もない。将来自分の妻になるのだから、素の自分を見てもらうのがいいと思って接している。これ以上ないほど仲良くしている――クロードはそう信じて何一つ疑ってはいなかった。
「そう……」
コレットは何か言いたそうな顔になったが、小さく首を振ると、取り繕ったような笑顔を浮かべた。
「リリーは内気な子だけど、とても優しい子だから、どうぞよろしくお願いしますね」
「ええ」
クロードは鷹揚に頷いて、今度こそコレットに背を向け、中庭へ向かって歩き出した。
中庭に降りると、リリーはすぐに見つかった。
中庭に植えてある花を見て歩きながら、光に透けて見えるほど淡い茶の髪をした男と談笑しながら歩いている。
リリーに声をかけるため近寄ろうとして、クロードは思わず足を止めた。
リリーが笑っている。
満面の笑顔を浮かべて、楽しそうに、笑っていたのだ。
彼女の笑顔を見た途端、クリードの胸の内に言いようのない不快感が込み上げてきた。
とにかく、ものすごく苛々する。
(ふざけるな……)
クロードは今すぐ二人の間に入り、リリーに向かって怒鳴り散らしたい衝動に駆られていた。
クロードの相手をしているリリー付きの侍女も同じように眉尻を下げている。
リリーを午後の散歩につき合わせようと思って迎えに来たのであるが、リリーはリリックとともに部屋から出かけてしまい、いないという。それを聞いて、クロードは内心苛々していた。
(昨日もいなかったくせに、今日もか)
リリックといえば、昨日から城に滞在しているリリーの従兄で公爵家の跡取り息子だろう。
(あいつは、俺が城に滞在しているあいだ、俺の世話をするってことをわかっているのか!?)
クロードは舌打ちしたくなる衝動を堪え、侍女に向かってにこやかに微笑んだ。
「わかりました、急ぎの用ではないので、また来させてもらいますね」
クロードはそう言ってリリーの部屋をあとにした。だが、自分の部屋とは反対の方角に足をむける。
腹が立つから、リリーを探し出して厭味の一つでも言ってやろうと思ったのだ。
リリーがどこにいるのかはわからないが、城の外には出ていないはずだ。彼女は城の外に無断で出るような性格ではないので、外に出かけるなら侍女に行き先を伝えているだろうからである。
クロードは廊下を曲がったところで、金髪の派手な顔立ちの女がこちらへ歩いてくるのを見つけた。リリーの姉のコレットだ。
「コレット姫、こんにちは」
クロードは彼女を呼び止めにこやかに話しかけた。
コレットも穏やかな微笑みを浮かべる。
コレットは目鼻立ちのはっきりとした美人だった。リリーとはあまり似ていない。クロードは、自分の従者が、クロードの婚約者が、コレットや、美姫として有名なリリーの妹のアリスでなかったことを嘆いていたことを思い出した。
なるほど、確かに、リリーと比べると、コレットの方が圧倒的にきれいな顔立ちをしている。だが、コレットの顔をあらためて見たクロードは、心の中で、自分の婚約者が気の強そうな彼女でなくてよかったと安堵した。気の強い女の相手をするのは疲れるし、何より、リリーのおとなしめな顔立ちをクロードはひそかに気に入っていたのだ。
「リリーを探しているのですが、見かけませんでしたか?」
「リリー? それならさっき、中庭でリリックと一緒に歩いているのを見かけましたわ」
「そうですか。どうもありがとう」
クロードは礼を言って中庭に急ごうと身を翻したが、背後からコレットに呼び止められて振り返った。
「クロード王子。あの子とは仲良くしていただいていますか?」
「もちろんですよ」
クロードは即答した。これは嘘ではなく、彼は本心からリリーと仲良くしていると思っているからだ。猫かぶりな自分の本性もさらけ出しているし、彼女との壁は何もない。将来自分の妻になるのだから、素の自分を見てもらうのがいいと思って接している。これ以上ないほど仲良くしている――クロードはそう信じて何一つ疑ってはいなかった。
「そう……」
コレットは何か言いたそうな顔になったが、小さく首を振ると、取り繕ったような笑顔を浮かべた。
「リリーは内気な子だけど、とても優しい子だから、どうぞよろしくお願いしますね」
「ええ」
クロードは鷹揚に頷いて、今度こそコレットに背を向け、中庭へ向かって歩き出した。
中庭に降りると、リリーはすぐに見つかった。
中庭に植えてある花を見て歩きながら、光に透けて見えるほど淡い茶の髪をした男と談笑しながら歩いている。
リリーに声をかけるため近寄ろうとして、クロードは思わず足を止めた。
リリーが笑っている。
満面の笑顔を浮かべて、楽しそうに、笑っていたのだ。
彼女の笑顔を見た途端、クリードの胸の内に言いようのない不快感が込み上げてきた。
とにかく、ものすごく苛々する。
(ふざけるな……)
クロードは今すぐ二人の間に入り、リリーに向かって怒鳴り散らしたい衝動に駆られていた。
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