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新婚旅行と始祖の神
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リリアローズに部屋に案内されて、荷物をおいたのち、彼女が庭を見せてくれると言ったが丁重にお断りをした。
あんな不気味な鳴き方をする花たちがいるという庭になんて、怖くて近づけない。
リリアローズは残念そうだったが、かわりに書庫を見せてくれると言うので、それならば安全そうだとエレノアは頷いた。
サーシャロッドはフレイディーベルグと話があると言うし、彼の話が終わるまで書庫ですごせばいいだろう。
書庫に向かうのには庭を突っ切った方が早いと言われたが、何が何でも庭を回避したいエレノアは、頼み込んで回廊を回って向かうことにした。
太陽の宮殿は、妙な装飾や奇妙に鳴く花を除けば、生活感があまりなかった。歩いていても誰ともすれ違わない。
リリアローズとフレイディーベルグの二人暮らしと言っても頷けるほど、誰の気配もないのだ。
リリアローズによれば、彼女たち以外も存在するのだそうだが、広い宮殿の中に数人――全員龍族――しかいないそうで、滅多に誰かとすれ違うことはないとのこと。
勝手気ままな暮しを好むフレイディーベルグが、過干渉を嫌うための措置らしい。
「だから、料理はあたくしの担当なの! でも、掃除や洗濯はフレイ様に禁止されていて、ほかの人がやってくれているのよー」
あとから聞いた話だが、リリアローズは掃除をすると言っては物を壊し、洗濯を乾かすと言っては口から炎を吐いて灰にするため、フレイディーベルグがかなり厳しく禁止を言い渡したそうだ。
ちなみに、前回もっと料理をがんばると言ったリリアローズが、結局丸焼き料理に落ち着いてしまったのは、見よう見まねで菓子を作ろうとしてキッチンを吹き飛ばしてしまったかららしい。キッチンは修復されたが、リリアローズは出入り禁止だそうだ。
書庫は六角形の形をした部屋だった。
壁一面に大きな本棚が並び、部屋の真ん中には読書スペースとして机と椅子がおかれている。
「あっちには、あたくしが集めた小説のコーナーがあるの。難しい本よりも小説の方がいいわよねー?」
リリアローズに案内されて向かった本棚には、たくさんの小説が並んでいた。
「こっちが推理小説、こっちが冒険小説。あたくしのおすすめは、このあたりの恋愛小説よー!」
エレノアはリリアローズがおすすめと言った恋愛小説を一冊手に取った。サーシャロッドの月の宮殿の書庫には恋愛小説はおかれていないので、どんな内容なのかとても気になる。
リリアローズと一緒に椅子に座って、読書を楽しもうとしたエレノアは、部屋の扉があく音を聞いて顔をあげた。
「あら、エドワードじゃない」
書庫に入ってきたのは、淡いブラウンの髪に琥珀色の目をした、かなり背の高い青年だった。白い襟詰めの服を着て、銀色の淵の眼鏡をかけている。
太陽の宮殿に来てはじめて目にした住人に、エレノアは緊張しながら頭を下げた。
「お、お邪魔しています」
「やだー、エレノアちゃん! そんなにかしこまらなくていいのよ。彼はエドワードと言って、あたくしの従兄なの。エドワード、彼女はエレノアちゃん。サーシャ様の奥様よ」
「どうも」
エドワードは会釈したあとで、まじまじとエレノアを見つめた。
「サーシャロッド様の奥方ですか……。ずいぶん幼い娘を妻にされたのですね」
「あら、エレノアちゃんは十八歳よ」
エドワードは眼鏡の奥の瞳をぱちぱちと瞬いた。
「十八? ……そ、それは、失礼しました」
見えねーな、と彼の心の声が聞こえてきた気がして、エレノアはしょんぼりする。月の宮殿に来てから前よりも体つきがふっくらしたと思うが、まだまだ細い。胸や腰も薄っぺらくて、確かに大人の女性とは言い難いだろう。ましてや、隣に立っているリリアローズは凹凸のはっきりした大人の女性だ。彼女と比べると、余計に貧相に見えるに違いない。
「それでエドワード、書庫に何か用事?」
リリアローズが何気なく訊ねれば、ピクリとエドワードの片眉が跳ね上がった。
「用事、ですって?」
心なしか声が低くなった気がする。
エドワードは「ふ」と小さく笑ったのち、手に持っていた一冊の本でリリアローズの頭をぱこんと殴った。
「用事? じゃありませんよ! あんたら二人がふらふらと出かけて一か月も戻って来なかつたせいで、こっちはいらん仕事に追われて寝不足なんだ! それなのに、フレイディーベルグ様が帰ってきてようやく休めると思ったら、あの方は『この本返してきて、ついでに創世の書を取ってきて』と人を呼びつけこの本を押しつけてきて――、フレイディーベルグ様の小間使いはお前の仕事だろうすぐ戻れ!」
エドワードは一方的にまくしたてて本をリリアローズに押し付けると、鼻息荒く部屋を出て行く。
リリアローズは押しつけられた本を見て、はーっと息を吐きだした。
「エレノアちゃーん。申し訳ないんだけど、フレイ様のところに行かなきゃいけないみたい。ここにエレノアちゃん一人残して行っちゃうとサーシャ様に本気で怒られそうだし、本は持ち出して大丈夫だから、お部屋で読んでくれるかしら?」
せっかく恋愛小説を読みながら女子トークが楽しめると思ったのにー、とリリアローズは口を尖らせた。
あんな不気味な鳴き方をする花たちがいるという庭になんて、怖くて近づけない。
リリアローズは残念そうだったが、かわりに書庫を見せてくれると言うので、それならば安全そうだとエレノアは頷いた。
サーシャロッドはフレイディーベルグと話があると言うし、彼の話が終わるまで書庫ですごせばいいだろう。
書庫に向かうのには庭を突っ切った方が早いと言われたが、何が何でも庭を回避したいエレノアは、頼み込んで回廊を回って向かうことにした。
太陽の宮殿は、妙な装飾や奇妙に鳴く花を除けば、生活感があまりなかった。歩いていても誰ともすれ違わない。
リリアローズとフレイディーベルグの二人暮らしと言っても頷けるほど、誰の気配もないのだ。
リリアローズによれば、彼女たち以外も存在するのだそうだが、広い宮殿の中に数人――全員龍族――しかいないそうで、滅多に誰かとすれ違うことはないとのこと。
勝手気ままな暮しを好むフレイディーベルグが、過干渉を嫌うための措置らしい。
「だから、料理はあたくしの担当なの! でも、掃除や洗濯はフレイ様に禁止されていて、ほかの人がやってくれているのよー」
あとから聞いた話だが、リリアローズは掃除をすると言っては物を壊し、洗濯を乾かすと言っては口から炎を吐いて灰にするため、フレイディーベルグがかなり厳しく禁止を言い渡したそうだ。
ちなみに、前回もっと料理をがんばると言ったリリアローズが、結局丸焼き料理に落ち着いてしまったのは、見よう見まねで菓子を作ろうとしてキッチンを吹き飛ばしてしまったかららしい。キッチンは修復されたが、リリアローズは出入り禁止だそうだ。
書庫は六角形の形をした部屋だった。
壁一面に大きな本棚が並び、部屋の真ん中には読書スペースとして机と椅子がおかれている。
「あっちには、あたくしが集めた小説のコーナーがあるの。難しい本よりも小説の方がいいわよねー?」
リリアローズに案内されて向かった本棚には、たくさんの小説が並んでいた。
「こっちが推理小説、こっちが冒険小説。あたくしのおすすめは、このあたりの恋愛小説よー!」
エレノアはリリアローズがおすすめと言った恋愛小説を一冊手に取った。サーシャロッドの月の宮殿の書庫には恋愛小説はおかれていないので、どんな内容なのかとても気になる。
リリアローズと一緒に椅子に座って、読書を楽しもうとしたエレノアは、部屋の扉があく音を聞いて顔をあげた。
「あら、エドワードじゃない」
書庫に入ってきたのは、淡いブラウンの髪に琥珀色の目をした、かなり背の高い青年だった。白い襟詰めの服を着て、銀色の淵の眼鏡をかけている。
太陽の宮殿に来てはじめて目にした住人に、エレノアは緊張しながら頭を下げた。
「お、お邪魔しています」
「やだー、エレノアちゃん! そんなにかしこまらなくていいのよ。彼はエドワードと言って、あたくしの従兄なの。エドワード、彼女はエレノアちゃん。サーシャ様の奥様よ」
「どうも」
エドワードは会釈したあとで、まじまじとエレノアを見つめた。
「サーシャロッド様の奥方ですか……。ずいぶん幼い娘を妻にされたのですね」
「あら、エレノアちゃんは十八歳よ」
エドワードは眼鏡の奥の瞳をぱちぱちと瞬いた。
「十八? ……そ、それは、失礼しました」
見えねーな、と彼の心の声が聞こえてきた気がして、エレノアはしょんぼりする。月の宮殿に来てから前よりも体つきがふっくらしたと思うが、まだまだ細い。胸や腰も薄っぺらくて、確かに大人の女性とは言い難いだろう。ましてや、隣に立っているリリアローズは凹凸のはっきりした大人の女性だ。彼女と比べると、余計に貧相に見えるに違いない。
「それでエドワード、書庫に何か用事?」
リリアローズが何気なく訊ねれば、ピクリとエドワードの片眉が跳ね上がった。
「用事、ですって?」
心なしか声が低くなった気がする。
エドワードは「ふ」と小さく笑ったのち、手に持っていた一冊の本でリリアローズの頭をぱこんと殴った。
「用事? じゃありませんよ! あんたら二人がふらふらと出かけて一か月も戻って来なかつたせいで、こっちはいらん仕事に追われて寝不足なんだ! それなのに、フレイディーベルグ様が帰ってきてようやく休めると思ったら、あの方は『この本返してきて、ついでに創世の書を取ってきて』と人を呼びつけこの本を押しつけてきて――、フレイディーベルグ様の小間使いはお前の仕事だろうすぐ戻れ!」
エドワードは一方的にまくしたてて本をリリアローズに押し付けると、鼻息荒く部屋を出て行く。
リリアローズは押しつけられた本を見て、はーっと息を吐きだした。
「エレノアちゃーん。申し訳ないんだけど、フレイ様のところに行かなきゃいけないみたい。ここにエレノアちゃん一人残して行っちゃうとサーシャ様に本気で怒られそうだし、本は持ち出して大丈夫だから、お部屋で読んでくれるかしら?」
せっかく恋愛小説を読みながら女子トークが楽しめると思ったのにー、とリリアローズは口を尖らせた。
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