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泉の妖精の異変
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頭が痛い――
エレノアは頭の芯に鈍い痛みを感じながら、ゆっくりと目を開けた。
(ここは……)
見上げた先には、いくつもの巻貝を連ねて作られシャンデリア。天井は半円を描くようなドーム型で、淡い水色をしていた。
上体を起こして、自分がベッドに寝ていたことに気がつく。
ベッドは貝殻の形をしていて、これと同じものをどこかで見たことがある気がした。
「気がつかれましたか?」
話しかけられて、エレノアはこめかみをおさえながら振り向いた。頭が痛い。どうしてこんなに頭が痛いのだろうか。そして、ここはどこだろう――
頭が痛すぎて意識がもうろうとする。
振り返った先には小さな――けれども、とてもきれいな妖精がいた。
青灰色の髪に同色の瞳。白い肌。精悍と言うよりは「きれい」な顔をした男の妖精。左の頬には、曼珠沙華のような形をした黒い痣のようなものがあるが、それは彼の美しさを損なうどころか、さらに引き立てるように咲いていた。
「だ…れ……?」
どうにかそれだけを口に乗せる。
このままベッドに倒れこんで意識を失ってしまいたい。頭が痛すぎて、目をあけていることもつらい。
「誰とはひどい。あなたは私に会ったことがあるというのに」
会ったことがある――、そう言われても、エレノアの記憶にはない。どこで会ったのだろう。考えようとするがやはりつらくて、とうとうエレノアはベッドに倒れこんだ。
彼はゆっくりとエレノアのそばまで寄ると、彼女の目の前で小さな小瓶を揺らした。
「つらいでしょう? これを飲んだら楽になりますよ」
楽になると言われて、エレノアは手を伸ばしかけて、宙で止める。小瓶はクリスタルのように透明で、中には真っ黒な液体が入っていた。
朦朧とした思考の中で、これはいけないものだと頭の中の自分が告げる。
「飲まないのですか?」
目の前で左右に小瓶が揺らされる。頭が痛い。飲んでしまいたい。でも――
ぼんやりした目で、揺れる小瓶を追う。彼はやがて諦めたのか、枕元にコトリと小瓶をおいた。
「飲みたくなったらどうぞ。できれば結婚式までに飲んでいただきたいですけどね」
そんな姿では参列できないでしょう――、そう言われて、痛む頭で考える。
結婚式――。それは、誰の?
口を動かしたわけではなかったが、エレノアの言いたいことがわかったのか、彼はにっこりと微笑んだ。
「もちろん、私とカモミールの姫との結婚式ですよ」
ねえ――
彼がそっと背後に話しかける。
すると、ゆっくりと部屋の中に誰かが入ってきて、エレノアは目を見張った。
まるで人形のように虚ろな目をしたカモミールの姫は、彼のそばまでやってくると、引き寄せられるままに彼の腕の中におさまる。
違う、とエレノアは唇を動かした。
違う。
カモミールのお姫様は、ヤマユリの王子の――
「違いませんよ」
声にならないエレノアの叫びを遮るように、彼が言う。
「カモミールの姫は、私と結婚するんです。そう――、泉の妖精の王子である、この私とね」
エレノアは小さく息を呑んで――、そして頭の痛みに耐えきれずに、とうとう意識を手放した。
エレノアは頭の芯に鈍い痛みを感じながら、ゆっくりと目を開けた。
(ここは……)
見上げた先には、いくつもの巻貝を連ねて作られシャンデリア。天井は半円を描くようなドーム型で、淡い水色をしていた。
上体を起こして、自分がベッドに寝ていたことに気がつく。
ベッドは貝殻の形をしていて、これと同じものをどこかで見たことがある気がした。
「気がつかれましたか?」
話しかけられて、エレノアはこめかみをおさえながら振り向いた。頭が痛い。どうしてこんなに頭が痛いのだろうか。そして、ここはどこだろう――
頭が痛すぎて意識がもうろうとする。
振り返った先には小さな――けれども、とてもきれいな妖精がいた。
青灰色の髪に同色の瞳。白い肌。精悍と言うよりは「きれい」な顔をした男の妖精。左の頬には、曼珠沙華のような形をした黒い痣のようなものがあるが、それは彼の美しさを損なうどころか、さらに引き立てるように咲いていた。
「だ…れ……?」
どうにかそれだけを口に乗せる。
このままベッドに倒れこんで意識を失ってしまいたい。頭が痛すぎて、目をあけていることもつらい。
「誰とはひどい。あなたは私に会ったことがあるというのに」
会ったことがある――、そう言われても、エレノアの記憶にはない。どこで会ったのだろう。考えようとするがやはりつらくて、とうとうエレノアはベッドに倒れこんだ。
彼はゆっくりとエレノアのそばまで寄ると、彼女の目の前で小さな小瓶を揺らした。
「つらいでしょう? これを飲んだら楽になりますよ」
楽になると言われて、エレノアは手を伸ばしかけて、宙で止める。小瓶はクリスタルのように透明で、中には真っ黒な液体が入っていた。
朦朧とした思考の中で、これはいけないものだと頭の中の自分が告げる。
「飲まないのですか?」
目の前で左右に小瓶が揺らされる。頭が痛い。飲んでしまいたい。でも――
ぼんやりした目で、揺れる小瓶を追う。彼はやがて諦めたのか、枕元にコトリと小瓶をおいた。
「飲みたくなったらどうぞ。できれば結婚式までに飲んでいただきたいですけどね」
そんな姿では参列できないでしょう――、そう言われて、痛む頭で考える。
結婚式――。それは、誰の?
口を動かしたわけではなかったが、エレノアの言いたいことがわかったのか、彼はにっこりと微笑んだ。
「もちろん、私とカモミールの姫との結婚式ですよ」
ねえ――
彼がそっと背後に話しかける。
すると、ゆっくりと部屋の中に誰かが入ってきて、エレノアは目を見張った。
まるで人形のように虚ろな目をしたカモミールの姫は、彼のそばまでやってくると、引き寄せられるままに彼の腕の中におさまる。
違う、とエレノアは唇を動かした。
違う。
カモミールのお姫様は、ヤマユリの王子の――
「違いませんよ」
声にならないエレノアの叫びを遮るように、彼が言う。
「カモミールの姫は、私と結婚するんです。そう――、泉の妖精の王子である、この私とね」
エレノアは小さく息を呑んで――、そして頭の痛みに耐えきれずに、とうとう意識を手放した。
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