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太陽の神様きたる!

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 結局、エレノアの顔を見たいと言ったのは口実で、夫婦喧嘩の末に家出をしてきたらしい太陽の神――フレイディーベルグは、サーシャロッドの反対を押し切り、しばらく月の宮殿に居候することになった。

 サーシャロッドはものすごく機嫌が悪そうだが、フレイディーベルグは言い出すと聞かない性格だそうで、何を言っても無駄とのこと。

(サーシャ様、大変そう……)

 神様は神様で、実はそれなりに忙しいらしい。サーシャロッドも四六時中エレノアにつきっきりというわけにはいかないそうで、渋々彼女のそばから離れたが、こう釘をさすのは忘れなかった。

 ――いいか、あいつは変態だ。もしもあいつとうっかり二人きりになったときは、何も考えずに全力で逃げろ。

 シャカシャカと卵白を泡立てながら、エレノアはぐったりと疲れた様子のサーシャロッドのために、おいしいお菓子を作ろうと気合を入れる。

 今日のティータイムのお菓子はシフォンケーキだ。生クリームとたっぷりのベリーを添えれば、ふんわりとしたシフォンケーキと甘酸っぱいベリーで癒されるに違いない。

 いつもならお菓子作りはリーファも手伝ってくれるのだが、フレイディーベルグにかっさらわれるのを警戒したラーファオが彼女を離さないらしく、エレノア一人で作業にあたっていた。

 ラーファオを説得したらすぐに行きますとリーファは言っていたが、あの様子だと時間がかかるだろう。

「えれのあー、いちごー!」

「らずべりーに、ぶるーべりー」

「くらんべりーもわすれずに」

「ちぇりーにかしす、まるべりーもあるよー」

「どれにする? どれにするー?」

「ありがとう、妖精さんたち!」

 妖精たちが籠一杯のベリーを運んできて、エレノアは籠の中を覗き込んで少し考えた。

 クランベリーやマルベリーはソースにした方が美味しそうだ。生クリームにベリーソースを添えて、その上に生のベリーを乗せればもっと華やかになるだろうか。

 エレノアは頭の中で出来上がりを想像して、悪くないと頷いた。

 妖精たちから籠を受け取って、ソースにするものと生で使うものを分別していく。

 シフォンケーキの生地をオーブンに入れて、ベリーソースを作っていた時だった。

「甘くておいしそうな匂いがするねー」

 フレイディーベルグが部屋に入ってきて、妖精たちがワーッと彼を取り囲む。

「ふれいさまだー」

「げんきー?」

「えれのあがおかしをつくってるんだよー」

「べりーのそーすをつくってるの」

「だからあまくていいかおりー」

「きょうは、しふぉんけーきなんだってー!」

「へえ! シフォンケーキか、いいね! 是非ともいただきたいね!」

 フレイディーベルグは匂いにつられるようにふらふらとエレノアのそばまでやってくる。

 余ったベリーを差し出せば、それを口に入れながら、鍋の中を覗き込んだ。

「女の子が料理しているのっていいよねー。萌えるよねー。料理中に服とか脱がしてみたいよねー」

「っ!?」

 エレノアがびくりと肩を揺らせば、フレイディーベルグはくすくすと笑いだした。

「あははは、大丈夫。君の服なんて脱がしたらサーシャに殺されちゃう」

 フレイディーベルグはサクランボに手を伸ばしながら、じーっとエレノアを見つめた。

 あまりに凝視してくるのでエレノアが居心地悪げに視線を彷徨わせれば、もぐもぐとサクランボを咀嚼しながら、フレイディーベルグが言う。

「サーシャロッドが祝福の儀式に私情を挟んだから、どんな子なのかと思ったけど。フツーなんだね」

「え?」

 エレノアが顔をあげると、フレイディーベルグがにっこりと微笑む。

「知らなかった? 君の元婚約者だっけ? 彼の祝福の儀式は、サーシャロッドが台無しにしたんだよ。祝福しないって言ってねー。サーシャロッドが今まで私情を挟んだことはなかったんだけど。言わなくてもわかるよね? もちろん、君のせい」

「そんな……」

 エレノアの顔が青くなるのを見て、フレイディーベルグは楽しそうに笑う。

「あれ? 喜ぶかと思ったのに。常に公平でいなければならない神に私情を挟ませるほどに愛されているんだってさ。女冥利に尽きるよね。――混ぜないと、焦げるよ?」

 つんつんとフレイディーベルグに頬をつつかれて、エレノアはハッとする。

 慌てて鍋に視線を落としたエレノアの頭をひと撫でして、フレイディーベルグは口の中からサクランボの茎を取り出して、「二つ結び完成ー」と妖精たちに見せびらかした。
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