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メロン栽培には愛情が必要です

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 サーシャロッドは、エレノアが痩せすぎているのが心配らしい。

 ケーキが出来上がると、膝の上に横抱きにしたエレノアの口に、サーシャロッドはせっせとショートケーキを詰め込んでいく。

「ほら、もっと食べろ」

 自分で食べられるといいたいけれど、以前そう伝えて、エレノアは遠慮してなかなか食べられなかったので、サーシャロッドはもうエレノアの「自分で」に耳を傾けてくれない。

 ショートケーキはとても美味しいが、息つく暇もなく次々口に入れられるので、エレノアはリスのように頬を膨らませて、一生懸命咀嚼する羽目になる。

 そうして、真剣な顔でもごもごと口を動かしているエレノアを見て、サーシャロッドが「かわいい」と感動して、わざと口いっぱいにケーキが運ばれることになっているとはエレノアは気がつかない。

「エレノア、動くな。クリームがついた」

 動くなと言われたのでエレノアがぴたりと動きを止めると、顔を近づけたサーシャロッドにぺろりと頬をなめられた。

 頬をなめられたことははじめてで、エレノアが真っ赤になっていると、妖精たちが楽しそうに騒ぎ出す。

「らぶらぶー」

「さーしゃさまとえれのあ、らーぶらぶ!」

「いちゃいちゃー」

「さーしゃさまだけずるーい」

「ぼくもいちゃいちゃしたーい」

「私とエレノアは夫婦だからな。ラブラブもイチャイチャも夫婦だけの特権だ」

「えー!」

 勝ち誇ったように言うサーシャロッドに、妖精たちから不満の声が上がる。

 サーシャロッドは満足そうに、エレノアの口にケーキを運ぶ作業を再開した。

 この三日、こうしてサーシャロッドには――たまにものすごく恥ずかしいが――目いっぱい甘やかされている。不要な娘だと邪険にされていたころは考えられないほど大切にされて、エレノアは本当に自分がこんな厚遇を受けてもいいものかと心配になるほどだ。

 いまだに「夫婦」はよくわからないが、父が婚約者であったクライヴに対して一生をかけて尽くすようにと言っていたことを思い出す。「王子の言うことにすべて従え。王子が死ねと言ったら死ね」。もしそれが妻としての心得ならば、エレノアは夫であるサーシャロッドに誠心誠意仕えなければならないのではなかろうか。

 それなのに、エレノアはサーシャロッドに甘やかされてばっかりで、彼のために何もしていない。

(尽くす……)

 言われたことにすべて従うというのはわかる。だが尽くすというのはどういうことを言うのだろう。

 エレノアは少し考えて、ケーキが乗った皿を手に取った。

 サーシャロッドがするように、フォークでケーキを一口サイズに切って彼の口に運べば、目を丸くされる。

(尽くす……、違ったかしら?)

 驚いた様子のサーシャロッドに不安を覚えれば、小さく笑った彼が口をあけてケーキを食べてくれた。

 エレノアは小さな感動を覚えて、もう一度サーシャロッドの口にケーキを運ぶ。

 サーシャロッドは二口目も食べてくれたが、そのあとはケーキの皿を取り上げられ、「私はいいからお前が食べろ」と口にケーキを詰め込まれてしまった。

「もごっ」

 大き目のケーキが口に運ばれて、エレノアは必死で噛み砕きながら、尽くすというのは、ケーキを口に運ぶのとはやっぱりちょっと違うのかなと思った。
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