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エレオノーラの告白 2
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ディートリヒは驚きのあまりしばらく動けなかった。
馬車を飛び出していったエレオノーラが「気絶しなさい‼」と叫んだ瞬間、外にいた騎士たちがバタバタと全員倒れてしまったからだ。
それだけではない。
賊だと思われたボロボロな格好をした男たちが、武器のかわりに持っていた農工具を捨て、エレオノーラの前にひざまずいたのである。
(エレオノーラ……君は、いったい……)
エレオノーラが「普通」じゃないことは、ディートリヒも以前からわかっていた。
ディートリヒの中にある「聖女」と同等の力はとても弱く、今日まで確証は持てずにいたけれど、エレオノーラには何か特別な力がある。
最初に違和感を覚えたのは、エレオノーラのお披露目パーティーのときだったろうか。
ジークレヒトが近づいてきたときだったと思う。
エレオノーラから何か不思議な気配を感じたのだ。
それは一瞬でおさまったけれど、今まで誰からも、どこからも感じたことのない不思議な気配だった。
あの時はただの気のせいかと思ったが、その後も、エレオノーラから不思議な気配がすることは何度かあった。
もしかして、エレオノーラは何か――それこそ聖女のような特別な力があって、それを隠しているのではなかろうかと、そんな風に思った。
エレオノーラが持っている力が聖女と同様のもの出るならディートリヒにはわかる。けれどもエレオノーラのそれは聖女のそれとは違う。だが、何かの力は持っているのだ。そう考えると、いろいろ納得できることもある。
まず、エレオノーラは五歳の時に崖から落ちた。調べたところユリアが突き落したそうだが、そこは大人でも落ちれば即死は免れない高い崖だったようだ。
けれどもエレオノーラは生きていた。
そしてその後、クラッセン伯爵家の庭の小屋に押し込められ、誰も世話をせずに放置されていたそうだが、普通は五歳の子供が小屋に閉じ込められて生きていられるはずはない。
運よく食べるものを見つけられたとしても、暖を取るものがない状態で、冬の寒さには耐えられないだろう。
それなのに、エレオノーラは生きていた。
ディートリヒがエレオノーラの存在を知り、手を差し伸べたとき、エレオノーラは十歳だったのだ。つまり五歳から十歳までの五年間を一人で生き延びたということになる。
ディートリヒはそれを共に奇跡だと思ったが、奇跡ではなくエレオノーラの持つ何かしらの力のおかげだと考えればしっくりきた。
でも、それが何の力なのかはわからない。
茫然としていると、エレオノーラが何かをつぶやいて泣き崩れた。
その様子にハッとしたディートリヒは、思わず「エレオノーラ」と声をかけていた。
そのあと振り返ったエレオノーラは、愕然と目を見開いていた。
まるでディートリヒが声をかけたことが信じられないというような顔だ。
(ああ、君は……)
君は一体、何者なのだろう。
涙にぬれた綺麗な黒い瞳を見つめて思う。
エレオノーラはディートリヒに何事かを隠している。
突然シュタウピッツ公爵領に行きたいと言ったのだって、きっとそれが関係しているのだろう。
ならばどうして、教えてくれないのか。
ディートリヒの大好きな少女は、けれどもディートリヒを信頼して心を開いてはくれない。
(私の秘密を打ち明ければ、君も同じように教えてくれるだろうか……)
あの美しい少女の、何もかもを知りたいと願う。
そうしなければ、いつかエレオノーラが遠くに行ってしまいそうで――たまに無性に、彼女の秘密をすべて暴いて、腕の中に閉じ込めてしまいたいと、思ってしまうのだ。
馬車を飛び出していったエレオノーラが「気絶しなさい‼」と叫んだ瞬間、外にいた騎士たちがバタバタと全員倒れてしまったからだ。
それだけではない。
賊だと思われたボロボロな格好をした男たちが、武器のかわりに持っていた農工具を捨て、エレオノーラの前にひざまずいたのである。
(エレオノーラ……君は、いったい……)
エレオノーラが「普通」じゃないことは、ディートリヒも以前からわかっていた。
ディートリヒの中にある「聖女」と同等の力はとても弱く、今日まで確証は持てずにいたけれど、エレオノーラには何か特別な力がある。
最初に違和感を覚えたのは、エレオノーラのお披露目パーティーのときだったろうか。
ジークレヒトが近づいてきたときだったと思う。
エレオノーラから何か不思議な気配を感じたのだ。
それは一瞬でおさまったけれど、今まで誰からも、どこからも感じたことのない不思議な気配だった。
あの時はただの気のせいかと思ったが、その後も、エレオノーラから不思議な気配がすることは何度かあった。
もしかして、エレオノーラは何か――それこそ聖女のような特別な力があって、それを隠しているのではなかろうかと、そんな風に思った。
エレオノーラが持っている力が聖女と同様のもの出るならディートリヒにはわかる。けれどもエレオノーラのそれは聖女のそれとは違う。だが、何かの力は持っているのだ。そう考えると、いろいろ納得できることもある。
まず、エレオノーラは五歳の時に崖から落ちた。調べたところユリアが突き落したそうだが、そこは大人でも落ちれば即死は免れない高い崖だったようだ。
けれどもエレオノーラは生きていた。
そしてその後、クラッセン伯爵家の庭の小屋に押し込められ、誰も世話をせずに放置されていたそうだが、普通は五歳の子供が小屋に閉じ込められて生きていられるはずはない。
運よく食べるものを見つけられたとしても、暖を取るものがない状態で、冬の寒さには耐えられないだろう。
それなのに、エレオノーラは生きていた。
ディートリヒがエレオノーラの存在を知り、手を差し伸べたとき、エレオノーラは十歳だったのだ。つまり五歳から十歳までの五年間を一人で生き延びたということになる。
ディートリヒはそれを共に奇跡だと思ったが、奇跡ではなくエレオノーラの持つ何かしらの力のおかげだと考えればしっくりきた。
でも、それが何の力なのかはわからない。
茫然としていると、エレオノーラが何かをつぶやいて泣き崩れた。
その様子にハッとしたディートリヒは、思わず「エレオノーラ」と声をかけていた。
そのあと振り返ったエレオノーラは、愕然と目を見開いていた。
まるでディートリヒが声をかけたことが信じられないというような顔だ。
(ああ、君は……)
君は一体、何者なのだろう。
涙にぬれた綺麗な黒い瞳を見つめて思う。
エレオノーラはディートリヒに何事かを隠している。
突然シュタウピッツ公爵領に行きたいと言ったのだって、きっとそれが関係しているのだろう。
ならばどうして、教えてくれないのか。
ディートリヒの大好きな少女は、けれどもディートリヒを信頼して心を開いてはくれない。
(私の秘密を打ち明ければ、君も同じように教えてくれるだろうか……)
あの美しい少女の、何もかもを知りたいと願う。
そうしなければ、いつかエレオノーラが遠くに行ってしまいそうで――たまに無性に、彼女の秘密をすべて暴いて、腕の中に閉じ込めてしまいたいと、思ってしまうのだ。
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