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元魔王の娘が聖女とか笑えません! 3
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……何をしているのかしら?
わたしは聞こえてきたユリアの金切り声に唖然としてしまった。
わたしとディートリヒがいる礼拝堂の入り口から奥まではそれなりに距離があり、間には大勢の貴族女性が選定の順番を待っている。
礼拝堂の数段高くなっているところには女神像が置かれていて、その前には、初代聖女ヘレナと同じ光の加減で淡いピンク色に輝く珍しい金髪をぶんぶんと振り乱して喚いているユリアが見えた。
「もう一度よ、もう一度! どうして光らないの⁉ この女神像は壊れているわ! だってわたしは、ヘレナ様と同じ髪の色を持って生まれてきた聖女なのよ‼」
わめきたてて一向に女神像の前から退こうとしないユリアを、神官が数人がかりで退出させようと奮闘している。
その横では、ジークレヒトが茫然とした顔で立ち尽くしているのが見えた。
「クラッセン伯爵令嬢、ジークレヒト様、どうぞこちらの方へ……」
とにかく女神像の前から退けなければ、順番を待っているほかの令嬢が選定を受けられない。
退出するように伝えても意地でも出て行こうとしないユリアに対して、神官たちは疲れたような顔をしていた。せめて邪魔にならないようにと、ユリアを壁際まで引っ張っていく。
「離しなさい! 離しなさいってば‼ わたしは聖女なのよ‼ ジークレヒト様、助けてください! この神官たちがわたしに無礼を働くんです‼」
ユリアが大声でわめきたてながらジークレヒトに助けを求めるも、ジークレヒトの方は放心しているようで、ユリアの声には反応しなかった。
ユリアともども壁際まで追いやられて、神官の一人が次に待っていた女性を女神像の前まで先導する。
「……なんだかすごいことになっているみたいだね」
「本当ですね……」
ユリアが聖女に選ばれないのは想定内だったが、まさかこんなに大騒ぎをするとは思わなかった。
……あれが異母妹だと知られたくないな。他人のふりしてよう。
そして、わたしの番が来るまでに諦めて帰ってくれないだろうかと思ったが、自分が聖女に選ばれなかったと認めたくないユリアは、何が何でも終わりまで粘るつもりのようだった。
前に並んでいた女性たちの選定が終わり、ついにわたしの番に来た時、ユリアから「魔族が聖女なわけないじゃないの‼」という叫び声が聞こえてくる。
魔族と言う言葉に会場は騒然となったが、ディートリヒがすぐさま「彼女は魔族ではない」と否定してくれたので大騒ぎにはならなかった。
……魔族は魔力持ちのことを指すから、厳密にいえばわたしはそうなんだけどね。
わたしはこっそり苦笑して、それから神官に言われるままに女神像に手を伸ばす。
女神像は聖女に反応するらしいので、聖女と相反する力を持っているわたしに反応するはずがない。
さっさと終わらせて帰ろうと、わたしがぺたっと女神像に触れた、そのときだった。
「…………え?」
ちょっと待って。
いやいや、おかしくない?
なんで女神像が光り出したの?
わたしは目の前で金色に輝きはじめた女神像に息を呑んだ。
隣ではディートリヒも目を見開いている。
神官たちが、慌てたようにわたしの前にひざまずいた。
ユリアが悲鳴を上げて大騒ぎをはじめる。
わたしはもう、何が何だかわからなかった。
だってわたし、前世は魔王の娘ですからね⁉
どうしてわたしや家族や友達を殺した「聖女」という存在に、わたしが選ばれているんですか――――――⁉
わたしは聞こえてきたユリアの金切り声に唖然としてしまった。
わたしとディートリヒがいる礼拝堂の入り口から奥まではそれなりに距離があり、間には大勢の貴族女性が選定の順番を待っている。
礼拝堂の数段高くなっているところには女神像が置かれていて、その前には、初代聖女ヘレナと同じ光の加減で淡いピンク色に輝く珍しい金髪をぶんぶんと振り乱して喚いているユリアが見えた。
「もう一度よ、もう一度! どうして光らないの⁉ この女神像は壊れているわ! だってわたしは、ヘレナ様と同じ髪の色を持って生まれてきた聖女なのよ‼」
わめきたてて一向に女神像の前から退こうとしないユリアを、神官が数人がかりで退出させようと奮闘している。
その横では、ジークレヒトが茫然とした顔で立ち尽くしているのが見えた。
「クラッセン伯爵令嬢、ジークレヒト様、どうぞこちらの方へ……」
とにかく女神像の前から退けなければ、順番を待っているほかの令嬢が選定を受けられない。
退出するように伝えても意地でも出て行こうとしないユリアに対して、神官たちは疲れたような顔をしていた。せめて邪魔にならないようにと、ユリアを壁際まで引っ張っていく。
「離しなさい! 離しなさいってば‼ わたしは聖女なのよ‼ ジークレヒト様、助けてください! この神官たちがわたしに無礼を働くんです‼」
ユリアが大声でわめきたてながらジークレヒトに助けを求めるも、ジークレヒトの方は放心しているようで、ユリアの声には反応しなかった。
ユリアともども壁際まで追いやられて、神官の一人が次に待っていた女性を女神像の前まで先導する。
「……なんだかすごいことになっているみたいだね」
「本当ですね……」
ユリアが聖女に選ばれないのは想定内だったが、まさかこんなに大騒ぎをするとは思わなかった。
……あれが異母妹だと知られたくないな。他人のふりしてよう。
そして、わたしの番が来るまでに諦めて帰ってくれないだろうかと思ったが、自分が聖女に選ばれなかったと認めたくないユリアは、何が何でも終わりまで粘るつもりのようだった。
前に並んでいた女性たちの選定が終わり、ついにわたしの番に来た時、ユリアから「魔族が聖女なわけないじゃないの‼」という叫び声が聞こえてくる。
魔族と言う言葉に会場は騒然となったが、ディートリヒがすぐさま「彼女は魔族ではない」と否定してくれたので大騒ぎにはならなかった。
……魔族は魔力持ちのことを指すから、厳密にいえばわたしはそうなんだけどね。
わたしはこっそり苦笑して、それから神官に言われるままに女神像に手を伸ばす。
女神像は聖女に反応するらしいので、聖女と相反する力を持っているわたしに反応するはずがない。
さっさと終わらせて帰ろうと、わたしがぺたっと女神像に触れた、そのときだった。
「…………え?」
ちょっと待って。
いやいや、おかしくない?
なんで女神像が光り出したの?
わたしは目の前で金色に輝きはじめた女神像に息を呑んだ。
隣ではディートリヒも目を見開いている。
神官たちが、慌てたようにわたしの前にひざまずいた。
ユリアが悲鳴を上げて大騒ぎをはじめる。
わたしはもう、何が何だかわからなかった。
だってわたし、前世は魔王の娘ですからね⁉
どうしてわたしや家族や友達を殺した「聖女」という存在に、わたしが選ばれているんですか――――――⁉
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