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消えたキャリー

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「これは警部、どうなさったんですか?」

 オリバーのあとをついて、レオナードとエリザベスが下りて行くと、ボナー警部は頭をかいた。

「お昼時に申し訳ない。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

「なんでしょう? ああ、どうぞこちらへ。デビット、お茶をお入れして」

 オリバーがボナー警部を居間に案内するのを見て、エリザベスは自分がついて行ってもいいものか悩んだが、素知らぬ顔でレオナードがあとを追うのを見て、ぱたぱたと彼を追いかけた。

 デビットが茶と茶請けを用意して下がると、ボナー警部は当惑したような顔で口を開いた。

「つかぬことをお伺いするのですが、子爵の婚約者であるドーリー伯爵令嬢は、今ご在宅で?」

 オリバーは一瞬狼狽えた表情を浮かべたが、もともとキャリーのことで警部に相談を持ち掛けるつもりだったので、正直に答えた。

「それが、昨日から出て行ってしまっていまして。そのうち戻ってくると思っているのですが、戻ってこないので、実は警部にご相談しようと思っていたんです」

 すると警部は、なおも困惑した表情を浮かべた。

(なにかあったのかしら?)

 エリザベスが不思議に思っていると、その心を代弁するかのようにレオナードが口をはさんだ。

「キャリー嬢にかかわることで何か?」

「いや、その……」

 警部は言いにくそうに言葉を濁した後で、嘆息して言った。

「祭りの夜に死んだ男のことは覚えておいでですか?」

「え? ええ、どなたかは存じませんが、お痛ましいことです」

 オリバーが答えると、警部は一つ頷いて続けた。

「その遺体ですが、事件性が高かったためにまだ埋葬されず、町の教会に安置していたのですよ。教会といってもいつもは無人で、近くに墓地がありますが、普段はあまり人が近寄らないような場所ですがね」

「そうなんですか。それで、その遺体がどうかされたんですか?」

 レオナードはテーブルの上に両肘をついて指を組むと、その上に顎を乗せた。

 ボナー警部は紅茶に砂糖を一つ落とすと、声を落とした。

「消えたんですよ」

「消えた?」

「ええ。おいておいた遺体が、忽然と。宵に私が様子を見に行った時には確かにあったんですがね、朝になるとなくなっていた。おそらく夜のうちに何ものかが持ち出したと考えられます」

「持ち出したって……、何のために」

「それはまだなんとも……。しかし、たまたま夜に墓地の見回りをしていた教会の近くに住む牧師が、一人の女性を見たと言うのです。その特徴が――」

 オリバーはごくりと唾を飲み込んだ。

「まさか、キャリーに似ているとでも?」

「そのまさかです」

「……嘘だろう?」

 オリバーはぐったりと椅子の背もたれに寄りかかった。

 警部は紅茶を一口飲んた。

「もちろん、夜の暗がりです。ランタンの明かりでは、はっきりとは見えなかったでしょう。しかし――、なんというか、この辺鄙な町では、ほら、エリザベス嬢が来ているような豪華なドレスは目立つ。それである程度の特徴が一致してしまうと……」

「キャリー以外考えられない」

「ええ。まあ、目撃されたからと言って、ドーリー伯爵嬢が遺体を持ちだした犯人だとは私も考えてはいません。女性の細腕で、大男の遺体を運べるとは思えませんからな。だが、気になるのは」

「どうしてキャリー嬢が、夜に、誰もいない教会のあたりを歩いていたか」

 レオナードがボナー警部のあとを引き継ぐと、警部は深く頷いた。

「どうも解せんのですよ」

「そうですね、私も解せない」

 レオナードは疲れたようにぐったりしているオリバーに視線を投げたあと、ボナー警部に向きなおった。

「申し訳ないのですが、警部。私たちもキャリーを探しているんです。ご協力いただけませんか?」

「もちろんです。こちらとしても、遺体が消えたことについてドーリー伯爵令嬢が何か知っている可能性がありますからね」

「ありがとう。私も何かわかればご連絡いたします」

 レオナードはボナー警部と握手を交わすと、捜査に戻るという警部を玄関まで見送った。
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