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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
事情聴取とお説教 2
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「魔石研究部」はその名の通り、魔石を研究する部活動である。
ブルーメ学園には多数の部活が存在しているが、お兄様が所属しているのはその中でもマイナーな「魔石研究部」だ。
この世界でも前世と同じで、スポーツ系の部活が花形で、それ以外の文科系の部活はどちらかと言えば地味な方である。その中でも「魔石研究部」は、研究に必要とされる魔法習得レベルが高い割には作業が地味なので人気がなく、部員も十名に満たない。
「歩く媚薬」の異名を持つお兄様が所属していることで、入部希望者は多かったが(特に女性!)、入部条件が、火土水風の四属性すべての上級魔法を取得していること、というとんでもなく高いレベルを掲げているため、希望はあっても入部できる人はほとんどいないのだ。
……つまり「魔石研究部」に所属しているお兄様は、全属性の上級魔法が使えるってことよ。お兄様のスペックが高すぎて、ちょっと引くわ~。
そしてお兄様は現在この「魔石研究部」において部長を務めていらっしゃる。
とはいえ、「魔石研究部」は部内で協力して何かを研究するというよりは、各々好きに研究する個人プレイな部活のようで、部室にはそこにある備品を取りに来る時くらいにしか来ないらしい。
……なので、現在この部室には、他の部員は誰もいないのでござるよ。
「座りなさい」
部室の中央に置かれているテーブルを指さしてお兄様がお命じになる。
わたしがしょぼんとしながら椅子に座ると、お兄様は座らずにわたしの目の前に立った。
「さてマリア、私が言いたいことはわかるかい?」
「……わかりません」
わたしは一昨日の夜のことは覚えていませんからね! ええ、覚えていないことになっているんです! だから「わかります」なんて言えません。わかるけども!
お兄様は一昨日の夜にわたしが言いつけを守らずに城の外に出て、炎の勢いが一番ひどい危険な場所までやってきたことを、それはそれは怒っていらっしゃるのだ。
お兄様はあからさまなため息をついた。
「マリア、お兄様はね、お前の行動をすべて制限して管理したいわけではないんだよ。お前にはお前の自由意思がある。それはできる限り尊重してあげたいと、そう思っている」
……できる限り尊重した結果、ついこの前までのマリアの奇行も見て見ぬふりをしていらっしゃったんですね!
って、思わず内心で茶化したくなったけれど、いつになく真剣なお兄様に対してそんな茶々は入れられない。
わかっています。
わたしだって、言いつけを守らなかったことに対して、反省していないわけではないのだ。
でも、あのときはどうしてか、そうすることが最善だと思っていたのである。そして、そうしなければならないと思ったのである。
とはいえ、説明を求められても説明できないから、やっぱりわたしは知らないふりをしてとぼけるしかない。
「でもね、危ないことはしてほしくないんだ。初級魔法すらまともに使えないお前では自衛もできない。そんな赤子同然なお前が、それなりの魔法の使い手ですら油断すれば焼け死んでしまうような危険な場所にやって来るなんて、私は寿命がいくらか縮む思いだったよ」
……赤子同然は評価が低すぎやしないかな~。
と、思ったけれど、これにも逆らわず、わたしは神妙に頷いた。
お兄様を心配させてしまったのは間違いないので、反論なんてしてはならないのである。
わたしがしょぼーんとうつむいていると、お兄様が苦笑してわたしの顔に手を伸ばしてくる。
みょーんと頬を引っ張られて、「ひひゃいです」と抗議すると、もう片方の頬も引っ張られた。何故に!
左右両方の頬をお餅のように引っ張られて、わたしはむーっとお兄様を睨む。
「本当はもっとしっかり叱ってやろうと思ったんだが、覚えていないお前にこれ以上のお説教は無意味だろうね」
ごめんなさいお兄様。覚えているんです。でもこれ以上のお説教は怖いので絶対に白状しません。
「マリア、おにいちゃまはマリアのせいでとっても心労がたまってしまった。これはマリアが癒してくれないとダメだと思うんだが、どう思うだろうか?」
お兄様の口調が茶化すようなものに変わったので、お説教は終わったのだろうとわたしはホッとした。
それにしても、癒すとは、お兄様はわたしに何をさせたいのだろう。
頬を引っ張られたまま首をひねると、お兄様はいたずらっ子のように綺麗な紫紺の瞳を細める。
「次の土曜は、お兄様とデートしようか。お兄様はマリアとゆっくり町を散歩したい気分だよ」
よくわからないが、そんなことでお兄様は癒されてくれるのだろうか。
わたしが「ひゃい」と返事をすると、お兄様はようやくわたしのほっぺたを解放してくれる。
可愛い格好をしておいでねと言われて、わたしはふと、「ブルーメ」のデートイベントを思い出した。
あれ?
お兄様は攻略対象じゃないし、わたしもヒロインではありませんけど、これってもしかして、衣装によって親密度が変わるあのイベントですか?
さすがにここは現実なのでそれはないと思ったけれど、適当な格好をしていくと大変な目に遭うようないやな予感を感じますよ。
そう言う予感には従っておいた方がいい気がするので、わたしは急いで衣装を買いに行こうと決心する。
……少なくともあのバニーガールの衣装だけは、絶対に着てはいけませんね‼
ブルーメ学園には多数の部活が存在しているが、お兄様が所属しているのはその中でもマイナーな「魔石研究部」だ。
この世界でも前世と同じで、スポーツ系の部活が花形で、それ以外の文科系の部活はどちらかと言えば地味な方である。その中でも「魔石研究部」は、研究に必要とされる魔法習得レベルが高い割には作業が地味なので人気がなく、部員も十名に満たない。
「歩く媚薬」の異名を持つお兄様が所属していることで、入部希望者は多かったが(特に女性!)、入部条件が、火土水風の四属性すべての上級魔法を取得していること、というとんでもなく高いレベルを掲げているため、希望はあっても入部できる人はほとんどいないのだ。
……つまり「魔石研究部」に所属しているお兄様は、全属性の上級魔法が使えるってことよ。お兄様のスペックが高すぎて、ちょっと引くわ~。
そしてお兄様は現在この「魔石研究部」において部長を務めていらっしゃる。
とはいえ、「魔石研究部」は部内で協力して何かを研究するというよりは、各々好きに研究する個人プレイな部活のようで、部室にはそこにある備品を取りに来る時くらいにしか来ないらしい。
……なので、現在この部室には、他の部員は誰もいないのでござるよ。
「座りなさい」
部室の中央に置かれているテーブルを指さしてお兄様がお命じになる。
わたしがしょぼんとしながら椅子に座ると、お兄様は座らずにわたしの目の前に立った。
「さてマリア、私が言いたいことはわかるかい?」
「……わかりません」
わたしは一昨日の夜のことは覚えていませんからね! ええ、覚えていないことになっているんです! だから「わかります」なんて言えません。わかるけども!
お兄様は一昨日の夜にわたしが言いつけを守らずに城の外に出て、炎の勢いが一番ひどい危険な場所までやってきたことを、それはそれは怒っていらっしゃるのだ。
お兄様はあからさまなため息をついた。
「マリア、お兄様はね、お前の行動をすべて制限して管理したいわけではないんだよ。お前にはお前の自由意思がある。それはできる限り尊重してあげたいと、そう思っている」
……できる限り尊重した結果、ついこの前までのマリアの奇行も見て見ぬふりをしていらっしゃったんですね!
って、思わず内心で茶化したくなったけれど、いつになく真剣なお兄様に対してそんな茶々は入れられない。
わかっています。
わたしだって、言いつけを守らなかったことに対して、反省していないわけではないのだ。
でも、あのときはどうしてか、そうすることが最善だと思っていたのである。そして、そうしなければならないと思ったのである。
とはいえ、説明を求められても説明できないから、やっぱりわたしは知らないふりをしてとぼけるしかない。
「でもね、危ないことはしてほしくないんだ。初級魔法すらまともに使えないお前では自衛もできない。そんな赤子同然なお前が、それなりの魔法の使い手ですら油断すれば焼け死んでしまうような危険な場所にやって来るなんて、私は寿命がいくらか縮む思いだったよ」
……赤子同然は評価が低すぎやしないかな~。
と、思ったけれど、これにも逆らわず、わたしは神妙に頷いた。
お兄様を心配させてしまったのは間違いないので、反論なんてしてはならないのである。
わたしがしょぼーんとうつむいていると、お兄様が苦笑してわたしの顔に手を伸ばしてくる。
みょーんと頬を引っ張られて、「ひひゃいです」と抗議すると、もう片方の頬も引っ張られた。何故に!
左右両方の頬をお餅のように引っ張られて、わたしはむーっとお兄様を睨む。
「本当はもっとしっかり叱ってやろうと思ったんだが、覚えていないお前にこれ以上のお説教は無意味だろうね」
ごめんなさいお兄様。覚えているんです。でもこれ以上のお説教は怖いので絶対に白状しません。
「マリア、おにいちゃまはマリアのせいでとっても心労がたまってしまった。これはマリアが癒してくれないとダメだと思うんだが、どう思うだろうか?」
お兄様の口調が茶化すようなものに変わったので、お説教は終わったのだろうとわたしはホッとした。
それにしても、癒すとは、お兄様はわたしに何をさせたいのだろう。
頬を引っ張られたまま首をひねると、お兄様はいたずらっ子のように綺麗な紫紺の瞳を細める。
「次の土曜は、お兄様とデートしようか。お兄様はマリアとゆっくり町を散歩したい気分だよ」
よくわからないが、そんなことでお兄様は癒されてくれるのだろうか。
わたしが「ひゃい」と返事をすると、お兄様はようやくわたしのほっぺたを解放してくれる。
可愛い格好をしておいでねと言われて、わたしはふと、「ブルーメ」のデートイベントを思い出した。
あれ?
お兄様は攻略対象じゃないし、わたしもヒロインではありませんけど、これってもしかして、衣装によって親密度が変わるあのイベントですか?
さすがにここは現実なのでそれはないと思ったけれど、適当な格好をしていくと大変な目に遭うようないやな予感を感じますよ。
そう言う予感には従っておいた方がいい気がするので、わたしは急いで衣装を買いに行こうと決心する。
……少なくともあのバニーガールの衣装だけは、絶対に着てはいけませんね‼
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