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猫王妃と離婚危機

フィリエルの答え 2

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「で、戻ったと」
「そうなの」

 頷くと、ヴェリアが「はー」と息を吐き出した。

「猫になったり人になったり、本当に忙しいねえ」
「それ、前も聞いたわ」
「で? 戻った理由に心当たりは? あるのかい?」

 飲み皿ではなくティーカップで紅茶が用意されて、フィリエルは小さな感慨を覚えた。ティーカップで飲む紅茶は実に久しぶりである。
 もう人だから砂糖もミルクも好きに入れていいのだと、ミルクをたっぷり注いだ甘いミルクティーにすると、それに口をつけながら頷いた。

「あると思う」

 たぶんだが、フィリエルはこれまで、リオンに人間の自分が受け入れてもらえるかどうかが怖かったのだと思う。
 人になってまた拒絶されたらと、心の中で怯えていたのだ。
 でも、昨日のリオンの話で、自分の中でその恐怖感情に折り合いがついた気がするのだ。

(結局ね、わたしは陛下が好きなのよ)

 拒絶されても無視されても、五年も気持ちが変わらなかったのだから、この先だって変わらないだろう。
 そう思ったら、リオンにどう思われるかよりも、きちんと妻としてリオンの隣に立ちたいと思うようになった。
 フィリエルが猫になったせいで現在リオンは窮地に立たされている。
ステファヌたちを何とかできるのはフィリエルだけだろう。
 これ以上リオンが傷つかなくていいように守れるのは、現在フィリエルしかいないのだ。

「わたし、陛下が好きなのよ。だからもう、その気持ちだけで充分かなって」

 リオンは言った。「愛」がわからない、と。
 でも、フィリエルに「愛」を教えてくれたのはリオンだ。
 その感情を、つらくて苦しくて、けれどもすごく幸せなこの感情を、教えてもらえただけでいいのだ。
 リオンがフィリエルを好きになってくれればもちろん嬉しいけれど、愛は見返りを求めるようなものじゃない。
 もちろん拒絶されることが怖くないと言ったら嘘になるけれど、それをひっくるめて、フィリエルはリオンと向き合いたいと思った。

(わたしがきちんと人に戻れなかったのは、この感情を受け入れていなかったからなんだと思うわ)

 怖くて逃げだしたかった。
 だから人をやめて猫になった。
 その怖いという感情に、きちんと向き合えていなかったから人に戻れなかったのだ。
 ヴェリアにそう説明すると、彼女は肩をすくめた。

「まったく、あんたは本当に面倒くさい子だよ」
「そうかも。でも、人なんてそんなものでしょ?」
「ま、そうかもね。動物と違って、人は余計なことを考えすぎる」

 ヴェリアの言う通りだろう。
 フィリエルが人に戻っても、フィリエルにかけられた魔法が消えたわけではない。
 もしかしたらこの先また余計なことを考えて、猫に戻ることもあるかもしれないけれど、たぶんそうなっても、フィリエルのリオンへの感情が消えない限り人であることはやめないと思う。

(まあ、王妃が頻繁に猫になったりしてたらいろいろ問題だから、余計なことをうじうじ考えないように気を付けないといけないけどね)

 城の人たちは何故か猫王妃を受け入れているので、猫になったところであまり戸惑わない気もしているけれど、さすがに公務を考えると問題だ。

「何はともかく、まずはお兄様たちを何とかしないとね!」

 今朝人に戻ったフィリエルはさっそくステファヌたちの元へ行こうとしたのだが、リオンに元に戻ったばかりだし、何かあってはいけないからまずヴェリアのところへ行けと言われたのだ。
 リオンはフィリエルが猫に戻らないか心配していて、一日中側に張り付いていたかったようだが、仕事があるからそうもいかなかった。

(ヴェリアに会った後でお兄様のところを訪ねるって言ったら、陛下、ものすごく不安そうな顔をしてたけど……。お兄様に何か言われても結論を急がずにまず俺に相談してくれって、あれ、どういう意味だったのかしら?)

 フィリエルはイザリアが嫁いでくるのを阻止するつもりなので、リオンが心配するようなことにはならないはずだ。

「じゃあ、お兄様のところに行ってくるわ!」
「今は猫じゃないんだから、ちゃんと王妃らしくするんだよー」

 廊下は走らないようにねーというヴェリアの声に手を振って、フィリエルは表情を引き締めると、ずんずんと大股で廊下を歩いて行った。




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