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猫王妃と離婚危機

「愛」とは 1

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 リオンが、変だ。
 ステファヌとの話を終えて私室に戻って来たリオンは、ベッドの縁に腰かけて、ずっとぼーっとしている。

「にゃー!」
(そろそろ行かないと、晩餐に遅れますよ?)

 ステファヌたちが来てから、リオンは夜は毎日ステファヌたちと夕食を取っている。
 たすたす、と前足でリオンの膝を叩くと、リオンがぼんやりした顔のままフィリエルを抱き上げで、ぎゅうっと腕に抱きしめた。

(くっ、苦しい……!)

 いつもふんわり抱っこしてくれるリオンが、いつになく腕に力を入れてくる。

「にゃあああっ」

 たまらず腕の中で声を上げると、リオンがハッとして腕の力を緩めてくれた。

「ごめん」
「にゃ」
(大丈夫ですけど、どうしたんですか?)
「ああ……もうこんな時間か」

 猫語が理解できないリオンは、フィリエルをそっとベッドの上に下ろして立ち上がる。

「フィリエル、今日も一人にしてごめんね。いい子で待っててね」
「な!」
(わかりました!)

 返事をすると、よしよしと頭を撫でられた。
 リオンが部屋から出て行くと、フィリエルはベッドの上にごろんとあお向けになって、にゃーんと考え込む。

(陛下、どうしたんだろ? お兄様が余計な事でも言ったのかな? ……引っ掻くか?)

 いや、フィリエルが猫になっていると知らないステファヌを、「リオンの愛猫」が引っ掻くわけにはいかない。一応あれでも隣国の王太子だ。兄を引っ搔いたらリオンが困る。

(でも、陛下があんなに元気ないなんて、ぜったいろくでもないことを言ったんだわ。お兄様、無神経なところがあるから)

 もしかしたら、イザリアを側妃にとリオンに迫ったのだろうか。
 いまだに人と関わることに苦手意識を抱いているリオンが安易に頷くとも思えないが、ロマリエ国からの正式な要請という形を取られたら、リオンだって断りにくい。

(側妃とはいえ、国同士の縁談だもの。ただの一回の面談で決まるとは思えないけど……、陛下が断りにくい状況に追いやられているなら、お兄様がここにいる間に何とか手を打たないとダメかしら?)

 ステファヌたちをやり過ごすことだけ考えていたが、リオンが断りにくい状況に追いやられているのだとしたら、兄は国に帰ってすぐに動くだろう。攻め時を見誤るような甘い兄ではない。
 ロマリエ国に帰るなり、正式な書類を整えて送りつけてくるはずだ。そんなものが届いたらいよいよ突っぱねられなくなってくるので、ステファヌがいる間に諦めさせるしかない。

(……うーん。でも、陛下って、わたしなんかより圧倒的に賢いし、当然政治にも詳しいし駆け引きだって得意だよね? わたしが考えることくらいすぐに思いつくだろうし、そもそも陛下が断りにくい状況に追いやられるってあるのかな?)

 真っ向からイザリアを側妃に、と持ち出されたにしろ、リオンなら回避できる気がした。簡単ではないにしろ、落ち込むより前にどうやって回避するかを考えると思う。
 でもさっきのリオンは悩んでいるというよりは、落ち込んでいるように見えた。

(じゃあ、イザリアの件じゃない?)

 うーんと首をひねっていると、コンコンと扉が叩かれる。
 ポリーがフィリエルの夕食を持ってきたようだ。
 くん、と鼻を動かすと肉の焼けたいい匂いがする。どうやら今日はステーキらしい。
 ワゴンを押してポリーが入出すると、フィリエルはぴょんっとベッドから飛び起きた。

「にゃー!」
(お腹すいた!)

 とりあえず、考えるのは腹ごしらえをしてからにしよう。




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