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猫王妃と離婚危機

問題勃発! 3

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 猫になってはじめて、自分がもともと使っていた王妃の部屋に入った。
 定期的に掃除をしてくれているようで、埃が積もっているところはない。

(なんか、すっごく久しぶりな感じがするわ)

 この部屋に一人きりで閉じこもっていたのが、もう何年も前のことのように思える。
 きょろきょろと部屋の中を見渡して感慨にふけっていたフィリエルは、ライティングデスクの上に積まれている手紙を見つけてうげっと顔をしかめた。

(うわ、いっぱいある……)

 体調不良だって返信をもらったのだから手紙を送らず大人しくしておけばいいのに。
 見る限り三十通くらいはありそうだ。

「君の家族は……筆まめだな」
「にゃー……」
(内容が内容だけに、筆まめ、とは言い難い……)

 手紙というより、あれは催促状だ。
 フィリエルを腕に抱いたまま、リオンがライティングデスクの前に座った。

「とりあえず、見ていくか。……気は進まないが」
「にゃあ」
(はい)

 本当に気は進まないが、手紙の返信対策も取らなければならないのだ。猫のフィリエルでは手紙は書けないので、フィリエルに似た字が書ける代筆者にお願いするしかない。
 リオンがペーパーナイフで手紙の封を切っていく。
 フィリエルにも見えるように、一通一通を広げてテーブルの上に並べてくれた。
 リオンの腕の中からテーブルの上に飛び移って、フィリエルは手紙を確認していく。
 手紙の八割が母からで、最初はフィリエルの体調を心配しているような内容だったが、しばらくするとまた子供の催促に代わっていた。

(ええっとなになに……、重病ではないと聞きましたが、こんなに長い間手紙の返信が来ないということはよほどのことなのでしょう。そんな状態で子は望めるのですか……って、余計なお世話だー!)

 イラっとしたフィリエルは手紙に猫パンチをお見舞いした。
 昔は母の手紙を読むたびにずーんと沈んでいたが、今は落ち込むより腹が立つから不思議だ。
 ぺしぺしと手紙を叩いていると、リオンが苦笑しながら「そのくらいにしないと破れるよ」と言って手紙を取り上げる。

「確認が終わった分は片付けるから、次も見てくれるか? まあ、どれも同じようなものだが」
「な! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!」
(まったくよ! 王族なんだからもっと語彙力を使うべきでしょ! 馬鹿の一つ覚えみたいに子供子供って、それしかないのかしら⁉ だいたいもし今子供ができたらきっと猫の子だっつーの! それはそれで大問題でしょーが!)

 もちろん、今は猫になっています、とは言えないので実家の家族が知るはずもないのだが。
 とりあえず母の手紙は後回しにしようと、兄である王太子の手紙に視線を向けた。

(えーっと……お前が病気で寝込むなんて驚きだ。昔から元気だけが取り柄の安産型……うっさいわ!)

 この手紙、まとめて燃やしてもいいだろうか。
 フーッフーッと毛を逆立てていると、リオンがよしよしと頭を撫でてくれた。
 兄の手紙も放置だ、とフィリエルは次に父からの手紙に目を向けた。
 父の手紙は二通で、一つが三か月ほど前。もう一つが最近のものだ。
 フィリエルはまず三か月前の手紙を読んだ。

(小さい頃から病気一つしなかったお前が寝込むなんてよほどのことだろう。大丈夫か? 何ならこちらに帰ってきて療養してもいいんだぞ……ああ、お母様とお兄様の手紙のあとだからか、優しさが身に染みるわ……!)

 父も、母と兄と同じく「さっさと子を生め」派だが、昔からフィリエルを可愛がってくれてもいたので、こういう時はとても優しい。
 ほっこりしながら次の手紙に移ったフィリエルは、ぴしっと凍り付いた。

「にゃ……にゃぁ……」

 ぎしぎしぎし、とブリキ人形な動きで首をリオンに向けると、彼が首を傾げてフィリエルの前にある手紙を覗き込む。

「そっちは何が書いてあったんだ」
「にゃ、ぁ……」
(やばいことです)

 フィリエルは前足で手紙をリオンの方に押しやった。
 文面に視線を走らせたリオンが、さっきのフィリエルと同じく凍り付く。

「これは……」
「みゃあ……」
(お父様のばかー!)

 手紙には、二か月後の社交シーズンのはじまりにあわせて王太子夫妻がコルティア国に来ること、そして、その際に妹のイザリアが一緒に行く予定だと書いてあった。
 さらに――

(長い間返信がないということは、よほど深刻な病気なのだろう。リオン陛下にイザリアを側妃として娶っていただくよう進言し、お前は帰ってきなさいって、お父様――‼)




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