47 / 99
超年の差結婚だけど幸せでした! でも短すぎる夫婦生活だったのでやり直しを希望します!
5
しおりを挟む
「君はいったい何者だ」
いつもより少し早く帰って来た旦那様は、わたしを書斎に連れて行くなり、険しい顔で問い詰めてきた。
サイファス様は元が怖い顔をしているから、怒ると本当に、鬼のようって例えが優しく感じるほどに怖くなる。
たぶん、わたしじゃなかったら腰を抜かして泣きだしていたでしょうね。
でも、わたしは旦那様の顔を見慣れているし、実際何度も怒られたことがあるから、この顔には耐性があるの。もちろん、怖いには怖いんだけど。
わたしをソファに座らせた旦那様は、目の前で仁王立ち。
怖かったけど――、でもわたし、何も悪いことなんてしていないもの。だから、きちんと旦那様の目を見つめ返すことができるわ。
サイファス様はわたしが目をそらさないことに驚いたようだったけど、でも、鋭い顔はそのままにわたしを睨みつけた。
「調べてみたが、ベルイヤと言う名前の貴族の娘はこの国にはいなかった。だが、君の所作は洗練されていて、貴族じゃないにしてもきちんと教育が施せる裕福な家庭の生まれのはずだ。残念ながらここ八年の戦争で、この国に余裕のある家庭はそれほどない。となれば、必然的に可能性のある家は限られる。だが、どこの家にも君と同じ特徴を持つベルイヤという娘はいなかった」
ああ――
わたしは顔を覆いたくなった。
そうよね。サイファス様なら調べるに決まっていたわ。
だって、国を守るために戦った人だもの。今でも国を背負うお仕事をしている人だもの。身元が怪しい女をそのままにしておくはずはなかったの。
サイファス様の冷たい視線が突き刺さる。
「ベル、君は何者だ。返答次第では、俺は君を捕えなくてはいけない」
わたしはしばらく黙ってサイファス様を見つめたけど、その灰色の瞳は、わたしの嘘を簡単に見抜くとわかっていたから、わたしは諦めた。
「信じてくれるかどうか、わかりませんが――」
わたしがすべてを語り終えても、サイファス様の顔は険しいままだった。
でも、その表情に少しだけ困惑の色が見える。
戸惑っているのだ。うん、普通はそうよね。
「君の話を信じろと……?」
サイファス様がじっとわたしの顔を見る。
わたしも目をそらさずにそれを見つめ返した。
「信じられなくても、真実なんです。旦那様」
「だが……。君が四十年後の未来から来た俺の、しかも五十歳さで結婚した妻だなんて、いろいろ非常識すぎてどう信じろと言うんだ」
サイファス様が目の上を手のひらで覆って大きく息を吐きだす。
「信じられませんか?」
「当り前だ。嘘ならもっとましな嘘をついてくれ」
「嘘じゃありませんから」
サイファス様は指の間からわたしの顔をみて、また息を吐きだした。
「君の話が本当なら、俺は五十も年下の娘を妻にして人生を棒に振らせたろくでなしだ」
「そ、そんなことはありません!」
ろくでなしだなんて!
「わたしは幸せでした! 短い夫婦生活だったけど、本当に幸せだったんです! 旦那様にもう一度会いたいって……、墓地で女神像を蹴りつけるくらいに会いたかったんです!」
「女神像を蹴りつけた⁉」
「あ……」
しまったと口を閉ざしたがもう遅い。
サイファス様は唖然とした顔になっちゃって――、うう、絶対とんでもない女だって思われちゃったわ。
わたしは真っ赤になってうつむいた。
「だ、旦那様が亡くなって、淋しくて淋しくて、女神像に八つ当たりしたんです。そうしたら女神像が突然喋り出して、安眠を妨害するな、会いたければ会わせてやるって言って、気がついたらここに……」
「……ベル」
サイファス様は膝を折って、わたしの顔を覗き込んだ。
「そんなに俺に会いたかったのか?」
わたしがこくんと頷くと、サイファス様は困ったように笑った。
「そんな荒唐無稽な話、本当なら信じられないんだがなぁ」
サイファス様のごつごつした手が伸びて、わたしの目元に触れる。ゆっくり撫でられて、どうしたのかなって首を傾げたら、サイファス様は目をすがめて笑って――
「嬉しいなんて思っちまった時点で、たぶん俺の負けなんだろうなぁ」
なんて言うから。
わたしは思わず、サイファス様の太い首に両腕を回して抱きついてしまった。
いつもより少し早く帰って来た旦那様は、わたしを書斎に連れて行くなり、険しい顔で問い詰めてきた。
サイファス様は元が怖い顔をしているから、怒ると本当に、鬼のようって例えが優しく感じるほどに怖くなる。
たぶん、わたしじゃなかったら腰を抜かして泣きだしていたでしょうね。
でも、わたしは旦那様の顔を見慣れているし、実際何度も怒られたことがあるから、この顔には耐性があるの。もちろん、怖いには怖いんだけど。
わたしをソファに座らせた旦那様は、目の前で仁王立ち。
怖かったけど――、でもわたし、何も悪いことなんてしていないもの。だから、きちんと旦那様の目を見つめ返すことができるわ。
サイファス様はわたしが目をそらさないことに驚いたようだったけど、でも、鋭い顔はそのままにわたしを睨みつけた。
「調べてみたが、ベルイヤと言う名前の貴族の娘はこの国にはいなかった。だが、君の所作は洗練されていて、貴族じゃないにしてもきちんと教育が施せる裕福な家庭の生まれのはずだ。残念ながらここ八年の戦争で、この国に余裕のある家庭はそれほどない。となれば、必然的に可能性のある家は限られる。だが、どこの家にも君と同じ特徴を持つベルイヤという娘はいなかった」
ああ――
わたしは顔を覆いたくなった。
そうよね。サイファス様なら調べるに決まっていたわ。
だって、国を守るために戦った人だもの。今でも国を背負うお仕事をしている人だもの。身元が怪しい女をそのままにしておくはずはなかったの。
サイファス様の冷たい視線が突き刺さる。
「ベル、君は何者だ。返答次第では、俺は君を捕えなくてはいけない」
わたしはしばらく黙ってサイファス様を見つめたけど、その灰色の瞳は、わたしの嘘を簡単に見抜くとわかっていたから、わたしは諦めた。
「信じてくれるかどうか、わかりませんが――」
わたしがすべてを語り終えても、サイファス様の顔は険しいままだった。
でも、その表情に少しだけ困惑の色が見える。
戸惑っているのだ。うん、普通はそうよね。
「君の話を信じろと……?」
サイファス様がじっとわたしの顔を見る。
わたしも目をそらさずにそれを見つめ返した。
「信じられなくても、真実なんです。旦那様」
「だが……。君が四十年後の未来から来た俺の、しかも五十歳さで結婚した妻だなんて、いろいろ非常識すぎてどう信じろと言うんだ」
サイファス様が目の上を手のひらで覆って大きく息を吐きだす。
「信じられませんか?」
「当り前だ。嘘ならもっとましな嘘をついてくれ」
「嘘じゃありませんから」
サイファス様は指の間からわたしの顔をみて、また息を吐きだした。
「君の話が本当なら、俺は五十も年下の娘を妻にして人生を棒に振らせたろくでなしだ」
「そ、そんなことはありません!」
ろくでなしだなんて!
「わたしは幸せでした! 短い夫婦生活だったけど、本当に幸せだったんです! 旦那様にもう一度会いたいって……、墓地で女神像を蹴りつけるくらいに会いたかったんです!」
「女神像を蹴りつけた⁉」
「あ……」
しまったと口を閉ざしたがもう遅い。
サイファス様は唖然とした顔になっちゃって――、うう、絶対とんでもない女だって思われちゃったわ。
わたしは真っ赤になってうつむいた。
「だ、旦那様が亡くなって、淋しくて淋しくて、女神像に八つ当たりしたんです。そうしたら女神像が突然喋り出して、安眠を妨害するな、会いたければ会わせてやるって言って、気がついたらここに……」
「……ベル」
サイファス様は膝を折って、わたしの顔を覗き込んだ。
「そんなに俺に会いたかったのか?」
わたしがこくんと頷くと、サイファス様は困ったように笑った。
「そんな荒唐無稽な話、本当なら信じられないんだがなぁ」
サイファス様のごつごつした手が伸びて、わたしの目元に触れる。ゆっくり撫でられて、どうしたのかなって首を傾げたら、サイファス様は目をすがめて笑って――
「嬉しいなんて思っちまった時点で、たぶん俺の負けなんだろうなぁ」
なんて言うから。
わたしは思わず、サイファス様の太い首に両腕を回して抱きついてしまった。
30
お気に入りに追加
719
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集
春
恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。
【R18】夫を奪おうとする愚かな女には最高の結末を
みちょこ
恋愛
前々から夫に色目を使っていた侍女が、事故に見せかけて夫の唇を奪った。その日を境に侍女の夫に対する行動はエスカレートしていく。
愛する夫は誰にも渡すつもりはない。
自分の立場も弁えない愚かな女には、最後に最高の結末を与えよう。
※タグを確認した上でお読みください。
※侍女のソフィアがヒーローに度の過ぎた行為をする回に関しては、△マークを入れさせて頂きます。
※本編完結しました。後日番外編投稿したい(願望)。
※ムーンライトノベル様でも公開させて頂きました!
あららっ、ダメでしたのねっそんな私はイケメン皇帝陛下に攫われて~あぁんっ妊娠しちゃうの♡~
一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約破棄されて国外追放された伯爵令嬢、リリアーネ・フィサリスはとある事情で辺境の地へと赴く。
そこで出会ったのは、帝国では見たこともないくらいに美しく、
凛々しい顔立ちをした皇帝陛下、グリファンスだった。
彼は、リリアーネを攫い、強引にその身体を暴いて――!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる