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超年の差結婚だけど幸せでした! でも短すぎる夫婦生活だったのでやり直しを希望します!

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「君はいったい何者だ」

 いつもより少し早く帰って来た旦那様は、わたしを書斎に連れて行くなり、険しい顔で問い詰めてきた。

 サイファス様は元が怖い顔をしているから、怒ると本当に、鬼のようって例えが優しく感じるほどに怖くなる。

 たぶん、わたしじゃなかったら腰を抜かして泣きだしていたでしょうね。

 でも、わたしは旦那様の顔を見慣れているし、実際何度も怒られたことがあるから、この顔には耐性があるの。もちろん、怖いには怖いんだけど。

 わたしをソファに座らせた旦那様は、目の前で仁王立ち。

 怖かったけど――、でもわたし、何も悪いことなんてしていないもの。だから、きちんと旦那様の目を見つめ返すことができるわ。

 サイファス様はわたしが目をそらさないことに驚いたようだったけど、でも、鋭い顔はそのままにわたしを睨みつけた。

「調べてみたが、ベルイヤと言う名前の貴族の娘はこの国にはいなかった。だが、君の所作は洗練されていて、貴族じゃないにしてもきちんと教育が施せる裕福な家庭の生まれのはずだ。残念ながらここ八年の戦争で、この国に余裕のある家庭はそれほどない。となれば、必然的に可能性のある家は限られる。だが、どこの家にも君と同じ特徴を持つベルイヤという娘はいなかった」

 ああ――

 わたしは顔を覆いたくなった。

 そうよね。サイファス様なら調べるに決まっていたわ。

 だって、国を守るために戦った人だもの。今でも国を背負うお仕事をしている人だもの。身元が怪しい女をそのままにしておくはずはなかったの。

 サイファス様の冷たい視線が突き刺さる。

「ベル、君は何者だ。返答次第では、俺は君を捕えなくてはいけない」

 わたしはしばらく黙ってサイファス様を見つめたけど、その灰色の瞳は、わたしの嘘を簡単に見抜くとわかっていたから、わたしは諦めた。

「信じてくれるかどうか、わかりませんが――」





 わたしがすべてを語り終えても、サイファス様の顔は険しいままだった。

 でも、その表情に少しだけ困惑の色が見える。

 戸惑っているのだ。うん、普通はそうよね。

「君の話を信じろと……?」

 サイファス様がじっとわたしの顔を見る。

 わたしも目をそらさずにそれを見つめ返した。

「信じられなくても、真実なんです。旦那様」

「だが……。君が四十年後の未来から来た俺の、しかも五十歳さで結婚した妻だなんて、いろいろ非常識すぎてどう信じろと言うんだ」

 サイファス様が目の上を手のひらで覆って大きく息を吐きだす。

「信じられませんか?」

「当り前だ。嘘ならもっとましな嘘をついてくれ」

「嘘じゃありませんから」

 サイファス様は指の間からわたしの顔をみて、また息を吐きだした。

「君の話が本当なら、俺は五十も年下の娘を妻にして人生を棒に振らせたろくでなしだ」

「そ、そんなことはありません!」

 ろくでなしだなんて!

「わたしは幸せでした! 短い夫婦生活だったけど、本当に幸せだったんです! 旦那様にもう一度会いたいって……、墓地で女神像を蹴りつけるくらいに会いたかったんです!」

「女神像を蹴りつけた⁉」

「あ……」

 しまったと口を閉ざしたがもう遅い。

 サイファス様は唖然とした顔になっちゃって――、うう、絶対とんでもない女だって思われちゃったわ。

 わたしは真っ赤になってうつむいた。

「だ、旦那様が亡くなって、淋しくて淋しくて、女神像に八つ当たりしたんです。そうしたら女神像が突然喋り出して、安眠を妨害するな、会いたければ会わせてやるって言って、気がついたらここに……」

「……ベル」

 サイファス様は膝を折って、わたしの顔を覗き込んだ。

「そんなに俺に会いたかったのか?」

 わたしがこくんと頷くと、サイファス様は困ったように笑った。

「そんな荒唐無稽な話、本当なら信じられないんだがなぁ」

 サイファス様のごつごつした手が伸びて、わたしの目元に触れる。ゆっくり撫でられて、どうしたのかなって首を傾げたら、サイファス様は目をすがめて笑って――

「嬉しいなんて思っちまった時点で、たぶん俺の負けなんだろうなぁ」

 なんて言うから。

 わたしは思わず、サイファス様の太い首に両腕を回して抱きついてしまった。



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