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好きと言えなくて

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「気持ち悪い」

 シヴァは笑み崩れている友人に向けて、そう冷たく吐き捨てた。

 離宮から城に戻ってきたアスヴィルは、なぜかひどく上機嫌で、執務室でシヴァの仕事を手伝いながら、常ににやにやと笑っていた。

 最初は我慢していてシヴァであるが、いい加減我慢の限界だった。

 だが、うっかりその笑顔についてコメントしたことを、彼は次の瞬間大いに後悔する羽目となった。

「ミリアムが可愛いんです!」

 ぱっと顔を上げた友人は、花でもまき散らしそうなほどデレデレした顔でのろけた。

 どうやら離宮で二人の関係に何らかの進展があったらしいと推測したシヴァだが、誰が好き好んで、妹と友人の色恋沙汰の話を聞きたいものか。砂を吐きそうだ。ということで、シヴァは「よかったな」と一言だけ返して、書類に視線を落とした。しかし。

「ミリアムが、お茶に付き合ってくれるんです!」

 ぽいっと書類を放り出したアスヴィルは、シヴァの仕事を邪魔しに来た。

「このあと、温室でお茶するんですよ! すごい進歩じゃないですか!?」

 シヴァに言わせれば、この十一年、一緒に茶すら飲めていなかったことの方が驚きだ。十一年もの間、何をしていたのかわからない。

 馬鹿馬鹿しくて聞く気にもなれないが、この友人は話したくてうずうずしているらしい。

 シヴァはこの後、ミリアムとの約束の時間まで、延々とアスヴィルののろけ話を聞かされ続ける羽目になったのだった。
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