21 / 44
目に見えない愛
1
しおりを挟む
アスヴィルが「愛している」と遠くから叫びはじめて、半年がすぎた。
ミリアムはこの半年、アスヴィルの声を無視し続けていた。
聞こえていても聞こえていないふりをして、アスヴィルの姿は極力見ずに、ただ静かに毎日をすごすことに努めた。
アスヴィルから贈られるお菓子にも手をつけなかった。
とにかく、アスヴィルという存在を自分の中から追い出そうとしたのだ。
「ミリアム様、元気がございませんね」
クッションを抱きしめてソファに腰を下ろし、ぼーっとしていると、メイドのリザが心配そうに声をかけてきた。
「気のせいよ」
「そうですか? ……今日はジャスミンティーを煎れてみたんですよ」
リザが務めて明るい声でそう言うと、ミリアムはうっすらと微笑んでティーカップを受け取った。
「ありがと」
「新しい恋愛小説も買ってきたんです」
「うん……」
ミリアムはリザから本を受け取ったが、開くことなくテーブルの上においた。
大好きな恋愛小説が、どうしてだか、最近は読むことができなくなったのだ。
妙なことに、恋愛小説を開くと、ものの数ページで目が潤んできて、先を読むことができないのである。
ミリアムはジャスミンティーに口をつけながら、ちらりと部屋の隅に視線をやった。そこにはつい先日まで箱が山積みになっていた。
アスヴィルからの手紙が入っていた箱だ。
ミリアムはその箱が目に入らないよう、クローゼットの中に押し込んだのだ。
以前と変わらず届けられる手紙はもう、読んでいない。
アスヴィルの愛なんて、必要ない――
ミリアムはこの半年、アスヴィルの声を無視し続けていた。
聞こえていても聞こえていないふりをして、アスヴィルの姿は極力見ずに、ただ静かに毎日をすごすことに努めた。
アスヴィルから贈られるお菓子にも手をつけなかった。
とにかく、アスヴィルという存在を自分の中から追い出そうとしたのだ。
「ミリアム様、元気がございませんね」
クッションを抱きしめてソファに腰を下ろし、ぼーっとしていると、メイドのリザが心配そうに声をかけてきた。
「気のせいよ」
「そうですか? ……今日はジャスミンティーを煎れてみたんですよ」
リザが務めて明るい声でそう言うと、ミリアムはうっすらと微笑んでティーカップを受け取った。
「ありがと」
「新しい恋愛小説も買ってきたんです」
「うん……」
ミリアムはリザから本を受け取ったが、開くことなくテーブルの上においた。
大好きな恋愛小説が、どうしてだか、最近は読むことができなくなったのだ。
妙なことに、恋愛小説を開くと、ものの数ページで目が潤んできて、先を読むことができないのである。
ミリアムはジャスミンティーに口をつけながら、ちらりと部屋の隅に視線をやった。そこにはつい先日まで箱が山積みになっていた。
アスヴィルからの手紙が入っていた箱だ。
ミリアムはその箱が目に入らないよう、クローゼットの中に押し込んだのだ。
以前と変わらず届けられる手紙はもう、読んでいない。
アスヴィルの愛なんて、必要ない――
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる