19 / 44
愛していると言わないで
4
しおりを挟む
「ミリアム、愛しています―――!!」
朝。
目が覚めるとともに聞こえてきたその絶叫に、ミリアムはぎょっとした。
慌てて飛び起きて部屋の窓のカーテンを開けると、庭の迷路のそばに、シルバーグレーの髪の背の高い男が立っている。アスヴィルだった。
彼はミリアムが窓から顔をのぞかせると、嬉しそうに微笑んで手を振ってきた。
「おはようミリアム!」
ミリアムは唖然とした。
確か、城を破壊されて怒ったシヴァが、アスヴィルに「向こう一年間、ミリアムの半径十メートル以内に近づくな」と命じたはずだ。
部屋にいるミリアムと、庭に立っているアスヴィルとの距離は、十メートルよりは離れているだろう。だからと言って、これはどういうことなのだろうか。
アスヴィルは大きく息を吸い、
「俺は、魔界で一番あなたを愛しています―――!」
と、再び大声で叫んだ。
「―――っ」
ミリアムは勢いよく部屋のカーテンを閉ざした。
カーテンを閉めた窓に背中をつき、両手で頬をおさえる。意思に反して顔が赤く染まっていた。
「な、なんなのよ、あいつ……!」
恥ずかしいにもほどがある。
閉ざしたカーテンの向こうでは、まだ「愛している!」という叫びが続いている。
ミリアムはベッドに駆け戻ると、頭から布団をかぶった。
顔を真っ赤に染めたミリアムは、羽毛布団の中で両耳を抑え、丸くなる。
「愛してない愛してない愛してない!」
呪文のようにつぶやいて、アスヴィルの声がやむのをひたすら待った。
「わたしはアスヴィルなんか愛してない! あんなやつ、大っ嫌いよ!」
まるで自分に言い聞かせるように、ミリアムはひたすら「愛していない」と言い続けたのだった。
朝。
目が覚めるとともに聞こえてきたその絶叫に、ミリアムはぎょっとした。
慌てて飛び起きて部屋の窓のカーテンを開けると、庭の迷路のそばに、シルバーグレーの髪の背の高い男が立っている。アスヴィルだった。
彼はミリアムが窓から顔をのぞかせると、嬉しそうに微笑んで手を振ってきた。
「おはようミリアム!」
ミリアムは唖然とした。
確か、城を破壊されて怒ったシヴァが、アスヴィルに「向こう一年間、ミリアムの半径十メートル以内に近づくな」と命じたはずだ。
部屋にいるミリアムと、庭に立っているアスヴィルとの距離は、十メートルよりは離れているだろう。だからと言って、これはどういうことなのだろうか。
アスヴィルは大きく息を吸い、
「俺は、魔界で一番あなたを愛しています―――!」
と、再び大声で叫んだ。
「―――っ」
ミリアムは勢いよく部屋のカーテンを閉ざした。
カーテンを閉めた窓に背中をつき、両手で頬をおさえる。意思に反して顔が赤く染まっていた。
「な、なんなのよ、あいつ……!」
恥ずかしいにもほどがある。
閉ざしたカーテンの向こうでは、まだ「愛している!」という叫びが続いている。
ミリアムはベッドに駆け戻ると、頭から布団をかぶった。
顔を真っ赤に染めたミリアムは、羽毛布団の中で両耳を抑え、丸くなる。
「愛してない愛してない愛してない!」
呪文のようにつぶやいて、アスヴィルの声がやむのをひたすら待った。
「わたしはアスヴィルなんか愛してない! あんなやつ、大っ嫌いよ!」
まるで自分に言い聞かせるように、ミリアムはひたすら「愛していない」と言い続けたのだった。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる