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愛していると言わないで

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「ミリアム、愛しています―――!!」

 朝。

 目が覚めるとともに聞こえてきたその絶叫に、ミリアムはぎょっとした。

 慌てて飛び起きて部屋の窓のカーテンを開けると、庭の迷路のそばに、シルバーグレーの髪の背の高い男が立っている。アスヴィルだった。

 彼はミリアムが窓から顔をのぞかせると、嬉しそうに微笑んで手を振ってきた。

「おはようミリアム!」

 ミリアムは唖然あぜんとした。

 確か、城を破壊されて怒ったシヴァが、アスヴィルに「向こう一年間、ミリアムの半径十メートル以内に近づくな」と命じたはずだ。

 部屋にいるミリアムと、庭に立っているアスヴィルとの距離は、十メートルよりは離れているだろう。だからと言って、これはどういうことなのだろうか。

 アスヴィルは大きく息を吸い、

「俺は、魔界で一番あなたを愛しています―――!」

 と、再び大声で叫んだ。

「―――っ」

 ミリアムは勢いよく部屋のカーテンを閉ざした。

 カーテンを閉めた窓に背中をつき、両手で頬をおさえる。意思に反して顔が赤く染まっていた。

「な、なんなのよ、あいつ……!」

 恥ずかしいにもほどがある。

 閉ざしたカーテンの向こうでは、まだ「愛している!」という叫びが続いている。

 ミリアムはベッドに駆け戻ると、頭から布団をかぶった。

 顔を真っ赤に染めたミリアムは、羽毛布団の中で両耳を抑え、丸くなる。

「愛してない愛してない愛してない!」

 呪文のようにつぶやいて、アスヴィルの声がやむのをひたすら待った。

「わたしはアスヴィルなんか愛してない! あんなやつ、大っ嫌いよ!」

 まるで自分に言い聞かせるように、ミリアムはひたすら「愛していない」と言い続けたのだった。
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