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ダンスレッスンで恋の種は芽吹きません

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「仕方がないんだ。だって君以外に触れられないんだから」

 午後――

 リチャードが執務室から戻って来るなり、ダンスパーティーの件で文句を言ったカレンに、彼は悪びれずに答えた。

 カレン以外の女性に触れると蕁麻疹が出ると言うリチャードの特異体質は知っているから、彼の言い分もわかるが、だからと言って本人の意思を確認せずに話を進めるのはいかがなものか。

「じゃあ君は、俺にほかの女性と踊って蕁麻疹だらけになれって言うの?」

「そういうわけでは……」

「ね? 君が断ろうともどうしようとも、君以外のパートナーを選ぶという選択肢がないんだから、仕方がないだろう?」

「まあ……、そうですけど」

 どうしてだろう、うまく言いくるめられた気がする。

 むうっと眉を寄せていると、リチャードは気を取り直したように言った。

「当日のドレスも用意するから、明後日にでも仕立て屋に採寸に来させよう。時間がないから一から作れないが、それは我慢してくれ」

「いえ、ドレスでしたらたくさん……」

「あれは普段着用だ」

「普段着……」

 リチャードは「普段着」と言うが、カレンの部屋のクローゼットに並ぶドレスはどれも、以前カレンが舞踏会に着て行ったピンクと白のドレスよりも高価なものばかり。

(……やっぱり、王族とは金銭感覚があわないわ)

 カレンの月収は金貨五枚だというが、それ以上のお金をリチャードはカレンの身の回りのもので使っている。侍女一人にこんなにお金をかけるなんて、王族はどうなっているのだろうか。出所は、全部、国民の税金だろうに――

「デザインに希望があるなら今のうちに教えてくれ」

「希望……、では、あまり派手ではないものを……」

「わかった。伝えておこう」

 カレンはこの会話だけで疲れてしまって、ぐったりとソファに体を沈める。

 一方リチャードは何やら嬉しそうだ。話が終わると、上機嫌でカレンの膝を枕にして寝そべってしまった。

 リチャードはカレンの膝がお気に入りのようで、執務の時間があいた時は、カレンの膝を枕に昼寝をしている。高さと柔らかさがちょうどいいと言われたときは、さすがにカレンも閉口した。

 カレンは窓の外を見る。空はほんのり茜色に染まっているが、夕食までまだ時間がある。リチャードは今日もこのまま寝るなと判断して、カレンはこうなってもいいようにと持ってきていた本を開いた。
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