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王子の体質改善係

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「ロゼウス、まだわからないのか?」

 リチャードはサインしていた書類の山から顔をあげると、開口一番、執務室に入ってきた側近にそう訊ねた。

 部屋に入ってきた側近の浮かない顔を見るだけで、結果が手に取るようにわかる。

 ロゼウスは肩を落とした。

「さすがに、蜂蜜色の髪に青い瞳の美少女、という特徴だけではなかなか……」

 そう、リチャードはあの夜中庭で出会った少女のことを探していた。

 女性に触れると蕁麻疹が出るリチャードが、はじめて蕁麻疹が出なかった相手。

 最初は半信半疑だったが、しばらく待ってみても蕁麻疹らしい症状が現れなかったことに、リチャードは彼女が神からの贈り物だと感じた。

「彼女だけなんだ。彼女を逃したら、俺は一生結婚できない」

「そうは言われましても……。せめて名前がわかるといいのですが」

 ロゼウスに言われて、リチャードは顔をしかめた。

 あの時、彼女に触れられたことに驚いて、慌てて追い払ってしまったが、名前くらい訊ねておけばよかった。

 舞踏会に参加している娘だろうと、いやいや大広間に向かって、部屋の中にいる女性を一人一人探して回ったが、それらしい娘はいなかったのだ。

 もしかしたらすでに帰ったのかと思い、受付係に確認したが、誰一人として途中退室はしていないとのこと。

 まるで本物の妖精のようにぱっと消えてしまった少女に、リチャードは夢だったのかとも思ったが、確かにあの時彼女の手に触れたのだ。

 リチャードはふうと息を吐き、少女の面影を瞼の裏に描いた。

「俺もあまり夜会に出る方ではないが、見ない顔だった」

「まだ社交界デビューしていない娘でしょうか?」

「見た目的には、社交界デビューしていてもおかしくなさそうだったが」

 ウィストニア国で貴族の娘がデビュタントとして社交界デビューを飾るのは、大体十四から十五歳のとき。あの夜の少女は、もう少し年上に見えた。

「それでは、貴族の娘ではないのでしょうか」

「舞踏会に招かれたのは貴族の娘だけだろう。勝手に城の中に入れるとも思えんが」

「確かに、そうですね……」

 城の警備は関係ない人間が無断で入れるほど手薄ではない。この城で働いている娘ではなさそうだったから、そう考えると舞踏会に招かれた貴族の娘の中の誰かであるはずなのだ。

 リチャードは思うようにことが進まないことにイライラしながら、決裁書にサインをしていく。

 何枚かの決裁書にサインをしたところで、ふと思い出したように顔をあげた。

「そう言えば、来週視察があったな」

「ええ。今は王家預かりの地域ですからね。伯爵家にお返しするまできちんと管理しないと」

 リチャードは、数年前に当主が他界して、男児のいないことから王家預かりになっている伯爵家の領地の管理を任されている。ここしばらく忙しくて視察に行けていなかったが、来週時間が取れたのでスケジュールに組み込んだのだ。

「城から近いからな、日帰りで行けるだろうが、念のため次の日の午前の予定はあけておいてくれ」

「かしこまりました」

 ロゼウスは優雅に一礼して、静かに部屋をあとにした。
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