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いざ舞踏会へ!

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 一方カレンである。

 修繕が終わった姉のライラック色のショールを見つめて、カレンはうふふと笑みをこぼす。

 金貨五十枚。

 いい響きだ。

 それだけあれば、借金からも逃れられるし、新しい鍋も手に入るし、邸の壁の修繕もできるだろう。

 ダンスなんて父が生きていたころに家庭教師に習って以来、一度も実践で踊ったことがないが、まあ一曲ぐらい、誤魔化し誤魔化し何とかなる――はずだ。

 王子様が自分とダンスを踊ってくれるかどうかが心配だが、うしろ向きになってはいけない。強引にいけば何とかなるかもしれないのだから。

(何といっても、金貨五十枚!)

 そのためには多少汚い手だって使って見せる。

 カレンはショールを片手に立ち上がると、その場でワルツのステップを踏んでみた。うん。しばらく踊っていないけど、意外にも体が覚えているものだ。

「最初の問題は、どうやって王子の目にとまるかよね」

 そこが最大の難関と言っても過言でない。王子に認識されたあとは、泣き落としだろうが脅迫だろうかがとにかく強引にダンスホールに連れ出してしまえばいい。

「ドレスはお母様が買ってきてくれたからいいとして……、目立つにはお化粧かしら? でもお化粧道具なんて持ってないのよねー。お母様にお借りしなくちゃ。それから……」

 カレンはブツブツと口の中でつぶやきながら一人作戦を練る。

 その様子を、姉二人がゾッとした様子で見つめていたことなど気づかなかった。

 そして――、舞踏会当日。

「忘れ物なーい?」

 ケリーに見送られて、カレンたちは今日のために借りた馬車に乗り込んだ。カレンにとっては手痛い出費だったが、金貨五十枚のためだと思えば我慢できる。

「お母様も一緒に来ればいいのに。未婚の貴族女性って、お母様も一応未亡人だし大丈夫なんじゃないの?」

 頭数は多いにこしたことがないとカレンが言えば、ケリーはおっとりと頬に手を添えた。

「あらー、だってママはパパ以外の男性とダンスなんて踊りたくないものぉ」

 予想通りの答えが返ってきて、カレンは苦笑した。亡くなった父のことをいまだに思ってくれるのは嬉しいが、誰か別の人と幸せになってほしいとも思う。けれどもそれは、余計なお世話だろうか。

「さあ、早くいかないと遅れちゃうわよー? 楽しんできてねー!」

 ひらひらと手を振るケリーに見送られて、カレンたちが乗った馬車が動き出す。

 カレンは向かいの席に座る姉二人に向きなおると、真剣な表情を浮かべた。

「お姉様たちも、お願いね! この中で誰か一人でも王子様とダンスを踊ればわたしたちの勝ちよ!」

「勝ちってあんた、いったい誰と勝負してるの……」

 キャサリンがどこか疲れたようにつぶやいて、そっとバーバリーに目配せをする。

 二人はカレンに気づかれないように、そっと頷き合ったのだった。
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