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いざ舞踏会へ!

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 ウィストニア国第一王子リチャードは、何度目かのため息をついた。

 広い部屋の中は豪華な調度品であふれ、赤い重厚な作りのソファに深く腰を下ろすリチャードの姿は、さながらこの国の王のようにも見える。

 母譲りの繊細で端正な顔立ちに、父譲りの黒髪にエメラルドのような瞳。国中の若い娘の心を射止めていると言っても過言でないほど人気のリチャードは、しかし、その美貌を憂鬱そうに曇らせている。

「ロゼウス、舞踏会を中止させろ」

 部屋の隅で直立不動の姿勢のまま微動だにしない側近に、リチャードは視線を送る。

 ロゼウスと呼ばれた、銀髪を短く刈り込んだ神経質そうな顔をした側近は、困ったように眉を寄せた。

「殿下……、これは陛下のご命令ですから、どうすることもできませんよ」

「だが、父上も俺の体質は知っているだろう」

「もちろんご存知でいらっしゃいますが……、いつまでも逃げ回っているわけにはまいりませんし」

「そうは言っても、無理なものは無理なんだ。それにな、俺と一曲ダンスを踊れたら、金貨五十枚って、俺は珍獣か? 猛獣か? いい加減にしてくれ」

「陛下も必死でいらっしゃいますし」

「お前はどっちの味方だ」

「もちろん、殿下の味方でございます」

 リチャードはまたため息をついて、ソファの上に寝そべった。

 ご機嫌斜めの殿下は拗ねてふて寝をするつもりだと悟って、ロゼウスは再び直立不動の体勢に戻る。

 今回の舞踏会が、このリチャード王子のお妃探しのために開かれることをロゼウスは知っていた。

 リチャードは今年二十一。とっくに婚約者がいてもおかしくない年なのに、今まで婚約者がいなかったのにはわけがある。

 どうしてそうなったかはわからないが、王子は十三を過ぎたころから、女性に触れられると蕁麻疹じんましんがでるのだ。

 もともと女性が苦手で、極力近づきたがらなかったが、蕁麻疹が出てからというものさらに輪をかけて女性を遠ざけるようになった。

 体質と女嫌いのせいで当然婚約者などできるはずもないし、開いた舞踏会にも参加しない。かといって、王族であるリチャードには結婚しないという選択肢は残されていないのだ。しびれを切らした国王は、今回、舞踏会を開き、強制的にリチャードを参加させることにしたのである。

 さらに酷なことに、「王子と一曲踊れたら金貨五十枚」という賞金まで出されては、ダンスを無視してただ座っていることなどできやしない。少なくともダンスホールにはいなければならないのだ。

 女性が苦手なのに女性に囲まれなくてはならない舞踏会に、王子が参加したくないのもわかるが、すでに招待状まで配られているから、中止したくともできるはずもない。

 どれほど憂鬱だろうとも、これが王家に生まれたものの定めだろう。

 せめて誰か一人でもいい。王子と触れ合っても大丈夫な女性がいればいいのにと、ロゼウスは思った。
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