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舞踏会の招待状
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むかしむかしあるところに、灰かぶりと呼ばれるそれはそれは美しい娘がいました。
母を早くに亡くした灰かぶりはの父は、すぐに美しいけれども浪費家で二人の子持ちの女性と再婚しました。
最初は楽しく暮らしていた灰かぶりでしたが、ある日父が亡くなると、浪費家の母や姉たちのせいであっという間に家は傾き――
「貧乏なんていやあああああ――――――!」
そう叫んで、灰かぶりは働きに出たとかでなかったとか。
※ ※ ※
「カレン―――! かぁーれーんちゃーん!」
つぎはぎだらけの布団にくるまって気持ちのいい眠りについていた灰かぶり――カレンは、悲鳴のような声に驚いて飛び上がった。
この声は継母のケリーの声だ。
カレンはハッとして窓のぼろいカーテンを開くと、いつもよりも外が明るい。
(しまった、寝過ごした!)
カレンは慌てて服を着替えて、レースがちぎれて無残なエプロンを身に着けると、慌てて部屋を飛び出した。
バタバタと階下に降りて行けば、階段の下には豪華なえんじ色のドレスを身に着けた、四十前後ほどの外見の美女が眉をハの字にして立っている。
亡くなった父の再婚相手で、継母のケリーだ。
「ご、ごめんなさい、寝過ごして」
カレンは階下に降りるとまずは寝坊したこと謝った。
ケリーの口からどんな罵声が飛び出してくるか――、とは考えない。むしろ「早く起きなさい」とたたき起こしてくれた方がまだよかった。なぜならおそらく――
「ううん。いいのよ。カレンちゃんは疲れてるんだもの、朝くらいゆっくりしなくちゃ」
「あ、ありがとうございます」
「だからね、今日はママが朝ごはんを作ってあげようと思ったの。でもね」
カレンの顔から徐々に表情が消えていく。おっとりと困った顔をして頬に手を添えるケリーに、嫌な予感がした。いや、いやな予感は起きた瞬間にしていたけれど。
「よくわからないんだけど、お鍋の底が抜けちゃったの」
のほほーんと告げられた一言に、カレンの額に青筋が浮かぶ。
「お、お母様……、また鍋を火にかけたまま目を離しましたね……」
「あら、ちょっとだけよ? ニワトリさんたちがお腹を空かせていそうだったからご飯をあげに行っていたの。そうしたらもくもくとお鍋から黒い煙が出て、慌てて戻ったんだけど、底がなくなっちゃってたのよ。不思議ねえ」
カレンはぷるぷると震えた。
まるで魔法でもかけられたかのように驚いているようだか、なんてことはない。中に入っていたものの水分がすべてなくなり焦げ付いて、その後高熱で焚き続けたせいで壊れただけだ。使っている鍋は、もともと中古の古い鍋を買ってきていたのだから脆い。洗う時も気をつけて洗っているほど鍋底が薄くなっていたのだ。
「お母様……、これで何個目ですか……」
「え? あ、あら、何個目だったかしら?」
ケリーは義娘の表情を見て怯えた顔をすると、そろそろと後ずさった。
そーっと後ろに下がっていくケリーの腕を、カレンはむんずと掴む。
「忘れたなんて言わせませんよ! これで十二個目です! 一ダース! いったいいつになったら学習してくれるんですかお母様!」
「ひいいっ」
「それに! いくら中古のお鍋だからってタダじゃないんです! お金がかかっているんです! これでまた余分な出費が……! 手伝おうというお母様のお気持ちはとても嬉しいですが、お願いですからお鍋は焦がさないでください!」
「はいいいい」
ケリーはぷるぷると子ウサギのように震えながら何度も頷く。
そう――
ケリーはとても愛らしく優しい母親だが、いかんせんお嬢様育ちの上お金にも苦労したことがなく、ましてや掃除や洗濯や料理なんて、「え? 魔法使いさんがやってくれるんでしょう?」と父が死ぬまでは本当に信じていた天然っぷり。
そんなケリーがまともに家事なんてできるはずがない。
カレンははーっと盛大なため息をついた。
ケリーはよかれと思ってやってくれているのだから、これ以上は怒れない。
けれども貧乏とは無縁で暮らしてきた困ったこの継母は、家にお金がないことが理解できないのか、あっちこっちで買い物をしてくる。父が死んで家が傾いたというのに、お金がないという自覚すらない。
「お母様、とりあえずスープを作ってきますから、お姉様たちを起こしていただいてもよろしいですか? たぶんまだ寝ていますから」
さすがに人を起こすことくらいはできるはず。
カレンはそう告げて自分はキッチンへと急いだ。のだが。
二十分後――
スープがすっかり出来上がったのにいまだに降りてこない母と二人の姉を不審に思ったカレンが二階に上がって、長女であるキャサリンの部屋を開けると、そこには姉のベットで姉と一緒に幸せそうにくーくーと眠っている母の姿。
カレンはぷるぷると震えながら大きく息を吸い込むと――
「おかあさまああああああ―――!」
渾身の大絶叫をお見舞いした。
母を早くに亡くした灰かぶりはの父は、すぐに美しいけれども浪費家で二人の子持ちの女性と再婚しました。
最初は楽しく暮らしていた灰かぶりでしたが、ある日父が亡くなると、浪費家の母や姉たちのせいであっという間に家は傾き――
「貧乏なんていやあああああ――――――!」
そう叫んで、灰かぶりは働きに出たとかでなかったとか。
※ ※ ※
「カレン―――! かぁーれーんちゃーん!」
つぎはぎだらけの布団にくるまって気持ちのいい眠りについていた灰かぶり――カレンは、悲鳴のような声に驚いて飛び上がった。
この声は継母のケリーの声だ。
カレンはハッとして窓のぼろいカーテンを開くと、いつもよりも外が明るい。
(しまった、寝過ごした!)
カレンは慌てて服を着替えて、レースがちぎれて無残なエプロンを身に着けると、慌てて部屋を飛び出した。
バタバタと階下に降りて行けば、階段の下には豪華なえんじ色のドレスを身に着けた、四十前後ほどの外見の美女が眉をハの字にして立っている。
亡くなった父の再婚相手で、継母のケリーだ。
「ご、ごめんなさい、寝過ごして」
カレンは階下に降りるとまずは寝坊したこと謝った。
ケリーの口からどんな罵声が飛び出してくるか――、とは考えない。むしろ「早く起きなさい」とたたき起こしてくれた方がまだよかった。なぜならおそらく――
「ううん。いいのよ。カレンちゃんは疲れてるんだもの、朝くらいゆっくりしなくちゃ」
「あ、ありがとうございます」
「だからね、今日はママが朝ごはんを作ってあげようと思ったの。でもね」
カレンの顔から徐々に表情が消えていく。おっとりと困った顔をして頬に手を添えるケリーに、嫌な予感がした。いや、いやな予感は起きた瞬間にしていたけれど。
「よくわからないんだけど、お鍋の底が抜けちゃったの」
のほほーんと告げられた一言に、カレンの額に青筋が浮かぶ。
「お、お母様……、また鍋を火にかけたまま目を離しましたね……」
「あら、ちょっとだけよ? ニワトリさんたちがお腹を空かせていそうだったからご飯をあげに行っていたの。そうしたらもくもくとお鍋から黒い煙が出て、慌てて戻ったんだけど、底がなくなっちゃってたのよ。不思議ねえ」
カレンはぷるぷると震えた。
まるで魔法でもかけられたかのように驚いているようだか、なんてことはない。中に入っていたものの水分がすべてなくなり焦げ付いて、その後高熱で焚き続けたせいで壊れただけだ。使っている鍋は、もともと中古の古い鍋を買ってきていたのだから脆い。洗う時も気をつけて洗っているほど鍋底が薄くなっていたのだ。
「お母様……、これで何個目ですか……」
「え? あ、あら、何個目だったかしら?」
ケリーは義娘の表情を見て怯えた顔をすると、そろそろと後ずさった。
そーっと後ろに下がっていくケリーの腕を、カレンはむんずと掴む。
「忘れたなんて言わせませんよ! これで十二個目です! 一ダース! いったいいつになったら学習してくれるんですかお母様!」
「ひいいっ」
「それに! いくら中古のお鍋だからってタダじゃないんです! お金がかかっているんです! これでまた余分な出費が……! 手伝おうというお母様のお気持ちはとても嬉しいですが、お願いですからお鍋は焦がさないでください!」
「はいいいい」
ケリーはぷるぷると子ウサギのように震えながら何度も頷く。
そう――
ケリーはとても愛らしく優しい母親だが、いかんせんお嬢様育ちの上お金にも苦労したことがなく、ましてや掃除や洗濯や料理なんて、「え? 魔法使いさんがやってくれるんでしょう?」と父が死ぬまでは本当に信じていた天然っぷり。
そんなケリーがまともに家事なんてできるはずがない。
カレンははーっと盛大なため息をついた。
ケリーはよかれと思ってやってくれているのだから、これ以上は怒れない。
けれども貧乏とは無縁で暮らしてきた困ったこの継母は、家にお金がないことが理解できないのか、あっちこっちで買い物をしてくる。父が死んで家が傾いたというのに、お金がないという自覚すらない。
「お母様、とりあえずスープを作ってきますから、お姉様たちを起こしていただいてもよろしいですか? たぶんまだ寝ていますから」
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カレンはそう告げて自分はキッチンへと急いだ。のだが。
二十分後――
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カレンはぷるぷると震えながら大きく息を吸い込むと――
「おかあさまああああああ―――!」
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