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大妖精の妻

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「……どうしてここにお前がいる」

 大妖精の邸にたどり着いたユリウスは、猫のような耳の生えた子供に案内されて居間に向かい、そしてそこでのんびりと茶を飲んでいた男を見つけてため息を吐いた。

 金色の長い髪に赤い瞳――ロマリエ王国の山奥にあるメリーエルの邸で留守番を頼んでいたはずのアロウンは、ユリウスの姿を見つけるとすぐそばにメリーエルがいないことに気が付いて眉を寄せた。

「我が妻は?」

「誰が妻だ」

 ユリウスはアロウンの隣にシュバリエの姿も見つけて頭が痛くなってくる。王子がこんなところで何をやっているんだ。

 居間にはアロウンとシュバリエのほかに毛先だけ青い色をした金髪の男がいた。おそらくこの男が大妖精だろう。彼はルビーインゾサイトのように緑と赤の入り混じった瞳を丸くしていた。

「これはこれは龍族の……、こんなところにどんなご用でしょうか?」

 クラウドと名乗った大妖精は、猫の耳の少年――ユーリーに紅茶を用意するように告げて、ユリウスに椅子をすすめた。

 ユリウスの肩にとまっていたビオラは、クラウドに向けて深くお辞儀をした。

「はじめまして、大妖精様。あたしは春の妖精の女王様に仕えているビオラと申します」

「ああ、彼女の……。それで、俺に何の用かな?」

 ユリウスはちらりとシュバリエを見やった。彼がここにいるのであれば、おそらくマリアベルが絡んでいるはずだ。

 ユリウスはビオラが何かを言う前に、クライドに向けて言った。

「メリーエルと言う名の娘をはぐれたんだ。この森のどこかにいるはずだが、お前の力で探せないか?」

「なんだって?」

 ユリウスの言葉に反応したのはアロウンだった。

「メリーエルとはぐれたのか? 森で?」

「ああ」

 ユリウスがメリーエルの姿が消えたときの状況をかいつまんで説明すれば、アロウンとクライドが二人そろって難しい表情を浮かべる。

「……おそらく、霧男でしょうね」

 クラウドがため息とともに吐き出した言葉に、ユリウスが首をひねった。

「霧男?」

「そうです、ここのところ、このあたりで若い娘が攫われる現象が立て続けに起こっていて……、俺も頭を悩ませていたところです」

 アロウンに頼んで調べてもらっていたのだというクラウドに、ユリウスは額をおさえた。

 アロウンに調査依頼をかけたということは、クライド自身でどうにかできるものではないと言うことだ。完全にあてが外れてしまった。

「霧男は自分や他人の気配を完全に消すことができます。ユリウス殿が気配を追えなかったのもそのためかと……」

「その霧男は、何のために若い娘を集めている?」

「それは……、俺には何とも」

 ユリウスは舌打ちした。

「アロウン! 何か掴んでいないのか?」

「無茶を言うな。私も調べはじめたばかりだ」

「あの……」

 ユリウスがイライラと机の上を指先で叩きはじめたとき、紅茶を持ってきたユーリーが遠慮がちに口を挟んできた。

「霧男は探せませんが、そのメリーエルさんなら、もしかしたら探せるかもしれません」

「なに?」

「どういうことだユーリー」

 ユリウスとアロウンに詰め寄られて、ユーリーはしどろもどろになりながら、

「メリーエルさんの身につけていたものとか、何かがあればですけど! 気配が追えなくても、匂いはするはずですから。森の動物たちにお願いすれば、もしかしたら……」

「そうか。ユーリーは動物たちと仲が良かったな」

「はい。冬眠している子もいるので、総出でというわけにはいかないですけど……」

「かまわない。ユリウス、メリーエルの匂いのするものはあるか?」

 ユリウスはポケットから一枚のハンカチを取り出した。

「湖で食事をしていた時にメリーエルに使わせたものだ。これで無理なら、一度取りに戻るが……」

「充分だと思います」

 ユーリーはハンカチを受け取って、にっこりと微笑んだ。
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