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霧男の目的
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「メリーエル」
ユリウスとはぐれで膝を抱えていたメリーエルの耳に、聞きなれた声が届いたのはそれからしばらく経ってからのことだった。
「……ユリウス?」
あたりは少し暗くなってきていて、メリーエルが心細さを覚えていたときだった。
顔をあげれば、あきれ顔でこちらを見下ろしているユリウスがいて、メリーエルは立ち上がると、ユリウスに飛びついた。
「ユリウスぅ! こわかったよーっ」
メリーエルが飛びつくと、ユリウスは少し後ろによろけたようだったが、安心させるように頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「遅くなって悪かった」
「……うん」
メリーエルはこくんと頷いたが、ふと違和感を覚えて首をひねる。
(……悪かったって言った?)
メリーエルは不思議に思ってユリウスの腕の中で顔をあげた。
ユリウスは小さく微笑んでメリーエルを見下ろしている。
メリーエルはてっきり、ユリウスに怒られると思っていた。「世話をかけやがって」「心配させるな」――てっきり、そんな言葉が降ってくると思っていたのに。
「……ユリウス、何か変なもの、食べた?」
「は?」
途端に、ユリウスの顔が怪訝そうになる。
「あ、なんでもない!」
メリーエルは慌てて首を振った。せっかく怒られなかったのに、ユリウスの機嫌を損ねて説教とか勘弁だからだ。
「それで、ユリウス。これからどうしよう?」
湖にいたはずなのに、霧が晴れたら別の場所にいたのだ。この森は何かおかしい。メリーエルがそう言えば、ユリウスは少し考えたのち、森の奥を指さした。
「もう少し歩けば知り合いの邸がある。森で夜を過ごすよりはよほど安全だからな。少し歩くが、そこへ向かおう」
「……知り合い?」
こんな森の中に、だろうか。
この森の中に高位の妖精がいるとのことだが、彼はユリウスの「知り合い」ではない。ということは、高位の妖精以外にもこの森に誰かが住んでいるということだろうが、ユリウスはこの森に入るときに、少なくとも自分お知り合いが住んでいるなんてことは言わなかった。
(なにか、変……?)
小さな違和感を覚える。それがなんなのかメリーエルにはわからなかったが、何かおかしい。
メリーエルは首をひねりながらユリウスを見て、ふとその肩のビオラの姿がないことに気がついた。
「ユリウス、そういえばビオラは?」
「ビオラ?」
「うん。一緒じゃないの?」
ユリウスは少し考えるようなそぶりを見せてから、頷いた。
「……はぐれたようだな」
「ええ!? 大変じゃない!」
この森で一人にされる心細さを先ほど感じたばかりだ。いくら妖精とはいえ、こんなとこりに置き去りにされては不安で仕方ないはず。
さすがにこのまま放置はできない。探してあげないと――。そう思うがユリウスはあっさりと首を振った。
「探すのなら明日にしよう。今はむやみに歩き回らない方がいい」
「でも……」
「いくぞ」
ユリウスはそう言って踵を返す。
(……やっぱり、ユリウス、ちょっと変……)
いつものユリウスならば、口ではぶつぶつ言いつつも、メリーエルの意思を尊重してくれる。メリーエルがビオラを探したいと言えば「お人よしめ」と毒づきつつも手伝ってくれるのがユリウスだ。
それなのにどうして―――
「メリーエル。おいていくぞ。早く来い」
「あ、うん……」
メリーエルは首を傾げながら、慌ててユリウスのあとをおった。
ユリウスとはぐれで膝を抱えていたメリーエルの耳に、聞きなれた声が届いたのはそれからしばらく経ってからのことだった。
「……ユリウス?」
あたりは少し暗くなってきていて、メリーエルが心細さを覚えていたときだった。
顔をあげれば、あきれ顔でこちらを見下ろしているユリウスがいて、メリーエルは立ち上がると、ユリウスに飛びついた。
「ユリウスぅ! こわかったよーっ」
メリーエルが飛びつくと、ユリウスは少し後ろによろけたようだったが、安心させるように頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「遅くなって悪かった」
「……うん」
メリーエルはこくんと頷いたが、ふと違和感を覚えて首をひねる。
(……悪かったって言った?)
メリーエルは不思議に思ってユリウスの腕の中で顔をあげた。
ユリウスは小さく微笑んでメリーエルを見下ろしている。
メリーエルはてっきり、ユリウスに怒られると思っていた。「世話をかけやがって」「心配させるな」――てっきり、そんな言葉が降ってくると思っていたのに。
「……ユリウス、何か変なもの、食べた?」
「は?」
途端に、ユリウスの顔が怪訝そうになる。
「あ、なんでもない!」
メリーエルは慌てて首を振った。せっかく怒られなかったのに、ユリウスの機嫌を損ねて説教とか勘弁だからだ。
「それで、ユリウス。これからどうしよう?」
湖にいたはずなのに、霧が晴れたら別の場所にいたのだ。この森は何かおかしい。メリーエルがそう言えば、ユリウスは少し考えたのち、森の奥を指さした。
「もう少し歩けば知り合いの邸がある。森で夜を過ごすよりはよほど安全だからな。少し歩くが、そこへ向かおう」
「……知り合い?」
こんな森の中に、だろうか。
この森の中に高位の妖精がいるとのことだが、彼はユリウスの「知り合い」ではない。ということは、高位の妖精以外にもこの森に誰かが住んでいるということだろうが、ユリウスはこの森に入るときに、少なくとも自分お知り合いが住んでいるなんてことは言わなかった。
(なにか、変……?)
小さな違和感を覚える。それがなんなのかメリーエルにはわからなかったが、何かおかしい。
メリーエルは首をひねりながらユリウスを見て、ふとその肩のビオラの姿がないことに気がついた。
「ユリウス、そういえばビオラは?」
「ビオラ?」
「うん。一緒じゃないの?」
ユリウスは少し考えるようなそぶりを見せてから、頷いた。
「……はぐれたようだな」
「ええ!? 大変じゃない!」
この森で一人にされる心細さを先ほど感じたばかりだ。いくら妖精とはいえ、こんなとこりに置き去りにされては不安で仕方ないはず。
さすがにこのまま放置はできない。探してあげないと――。そう思うがユリウスはあっさりと首を振った。
「探すのなら明日にしよう。今はむやみに歩き回らない方がいい」
「でも……」
「いくぞ」
ユリウスはそう言って踵を返す。
(……やっぱり、ユリウス、ちょっと変……)
いつものユリウスならば、口ではぶつぶつ言いつつも、メリーエルの意思を尊重してくれる。メリーエルがビオラを探したいと言えば「お人よしめ」と毒づきつつも手伝ってくれるのがユリウスだ。
それなのにどうして―――
「メリーエル。おいていくぞ。早く来い」
「あ、うん……」
メリーエルは首を傾げながら、慌ててユリウスのあとをおった。
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