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金色の蛇は退屈している
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「マリアベル姫が攫われたってどういうことだ!」
アロウンがメリーエルのガラクタ部屋――もとい、実験室から持ち出した水晶球を、シュバリエは真っ青な顔をして食い入るように見つめていた。
水晶に映るメリーエルたちは、妖精の国に攫われたらしいマリアベルを連れ戻すために妖精の国に行く方法を考えているらしい。
「また面倒なことに首を突っ込んだものだ」
アロウンは苦笑して、今にも卒倒しそうなほどに青くなっているシュバリエを見やった。
(さて……、どうするか)
アロウンはメリーエルが気に入っているが、彼もユリウスと同じで面倒ごとはあまり好きではない。ユリウスがついているのならばメリーエルに危険はないだろうし、ここでのんびりとメリーエルたちが戻ってくるのを待ってもいい。
(だが、――退屈だな)
メリーエルはすぐに戻ってくると思ったから留守番を受け入れたアロウンだが、妖精の国に行くと言うのならばすぐに戻ってくることはないだろう。面倒は面倒だが、このままメリーエルの帰りをぽつんと待っているのも退屈だ。
いっそ、メリーエルと合流して妖精の国に向かうのもいいかもしれないが――
そこでアロウンはふと目の前にいたシュバリエがいなくなっていることに気がついた。どこに行ったのかと思えば、彼は今まさに居間から飛び出していくところだった。
「どこに行くんだ?」
アロウンがのんびりと訊ねれば、シュバリエは青い顔をしたまま振り返った。
「決まっている! ルノディック国に行くんだ」
「はあ?」
アロウンは水晶にメリーエルたちを投影するのをやめると、それを抱えて立ち上がった。
「行ってどうする。お前が言ったところで何かが変わるわけでもないだろう。むしろ邪魔なだけだ」
アロウンの辛辣な言葉にシュバリエはうっと言葉に詰まった。
「し、しかし……、マリアベル姫は俺の婚約者だし」
「お前は太った女がいいんだろ? ではむしろ都合がいいじゃないか」
「……というと?」
「このままマリアベルがウィンラルドとか言うのと結婚するのを待って、お前好みの女と結婚すればいい」
「―――」
シュバリエは大きく目を見開いた。
「まあ、メリーエルがマリアベルを助けに行くと言っているからな、ウィンラルドとの結婚にはならないかもしれないが、……マリアベルが戻ってくるのが、お前との結婚式までに間に合わなければ、どのみち破談だろう?」
そもそもお前と婚約するより先に、どうやらマリアベルはウィンラルドと婚約がかわされていたらしいし、むしろ婚約破棄する理由は充分だろう――、アロウンが告げれば、驚いていた様子だったシュバリエは、ゆっくりと首を横に振った。
「婚約破棄は――、しない」
「は? お前もともと、結婚に不安があったんだろう?」
「そうだが――、俺が不安に思っているのは、俺がきちんとマリアベル姫を愛せるのかどうかだけであって、姫には何の落ち度もない」
いや、もう一人婚約者――妖精だが――が出てくるあたり、「落ち度」はあるはずだ。まあ、その落ち度は父親である国王の落ち度であって、マリアベルの落ち度ではないのかもしれないが。
「俺はマリアベル姫を助けに行く。俺の婚約者なんだ、ただ待っていることなんてできない」
シュバリエはそう言って踵を返しかけたが、アロウンはため息をつくと、「待て」と彼を呼び止めた。
「どうやって妖精の国に行くつもりだ」
「それは――」
「ったく……。まあ、私も退屈していたところだ。気まぐれに手伝ってやる。というか、言づけもなしに王子が国からいなくなったらそれこそ大問題だろう。お前は適当に理由をつけて説明して、もう一度ここに戻って来い。妖精にはあてがある」
「わ、わかった」
頷いたシュバリエが出て行くと、アロウンはやれやれと肩をすくめた。
(というか、ぐだぐだ考えなくても――、あの様子なら、充分結婚してもうまくやれそうな気がするんだがなぁ)
どうしてそれが自覚できないのだろうかと、アロウンには不思議でならなかった。
アロウンがメリーエルのガラクタ部屋――もとい、実験室から持ち出した水晶球を、シュバリエは真っ青な顔をして食い入るように見つめていた。
水晶に映るメリーエルたちは、妖精の国に攫われたらしいマリアベルを連れ戻すために妖精の国に行く方法を考えているらしい。
「また面倒なことに首を突っ込んだものだ」
アロウンは苦笑して、今にも卒倒しそうなほどに青くなっているシュバリエを見やった。
(さて……、どうするか)
アロウンはメリーエルが気に入っているが、彼もユリウスと同じで面倒ごとはあまり好きではない。ユリウスがついているのならばメリーエルに危険はないだろうし、ここでのんびりとメリーエルたちが戻ってくるのを待ってもいい。
(だが、――退屈だな)
メリーエルはすぐに戻ってくると思ったから留守番を受け入れたアロウンだが、妖精の国に行くと言うのならばすぐに戻ってくることはないだろう。面倒は面倒だが、このままメリーエルの帰りをぽつんと待っているのも退屈だ。
いっそ、メリーエルと合流して妖精の国に向かうのもいいかもしれないが――
そこでアロウンはふと目の前にいたシュバリエがいなくなっていることに気がついた。どこに行ったのかと思えば、彼は今まさに居間から飛び出していくところだった。
「どこに行くんだ?」
アロウンがのんびりと訊ねれば、シュバリエは青い顔をしたまま振り返った。
「決まっている! ルノディック国に行くんだ」
「はあ?」
アロウンは水晶にメリーエルたちを投影するのをやめると、それを抱えて立ち上がった。
「行ってどうする。お前が言ったところで何かが変わるわけでもないだろう。むしろ邪魔なだけだ」
アロウンの辛辣な言葉にシュバリエはうっと言葉に詰まった。
「し、しかし……、マリアベル姫は俺の婚約者だし」
「お前は太った女がいいんだろ? ではむしろ都合がいいじゃないか」
「……というと?」
「このままマリアベルがウィンラルドとか言うのと結婚するのを待って、お前好みの女と結婚すればいい」
「―――」
シュバリエは大きく目を見開いた。
「まあ、メリーエルがマリアベルを助けに行くと言っているからな、ウィンラルドとの結婚にはならないかもしれないが、……マリアベルが戻ってくるのが、お前との結婚式までに間に合わなければ、どのみち破談だろう?」
そもそもお前と婚約するより先に、どうやらマリアベルはウィンラルドと婚約がかわされていたらしいし、むしろ婚約破棄する理由は充分だろう――、アロウンが告げれば、驚いていた様子だったシュバリエは、ゆっくりと首を横に振った。
「婚約破棄は――、しない」
「は? お前もともと、結婚に不安があったんだろう?」
「そうだが――、俺が不安に思っているのは、俺がきちんとマリアベル姫を愛せるのかどうかだけであって、姫には何の落ち度もない」
いや、もう一人婚約者――妖精だが――が出てくるあたり、「落ち度」はあるはずだ。まあ、その落ち度は父親である国王の落ち度であって、マリアベルの落ち度ではないのかもしれないが。
「俺はマリアベル姫を助けに行く。俺の婚約者なんだ、ただ待っていることなんてできない」
シュバリエはそう言って踵を返しかけたが、アロウンはため息をつくと、「待て」と彼を呼び止めた。
「どうやって妖精の国に行くつもりだ」
「それは――」
「ったく……。まあ、私も退屈していたところだ。気まぐれに手伝ってやる。というか、言づけもなしに王子が国からいなくなったらそれこそ大問題だろう。お前は適当に理由をつけて説明して、もう一度ここに戻って来い。妖精にはあてがある」
「わ、わかった」
頷いたシュバリエが出て行くと、アロウンはやれやれと肩をすくめた。
(というか、ぐだぐだ考えなくても――、あの様子なら、充分結婚してもうまくやれそうな気がするんだがなぁ)
どうしてそれが自覚できないのだろうかと、アロウンには不思議でならなかった。
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