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金色の蛇は退屈している
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次の日――
メリーエルとユリウス、ルノディック国王とビオラは、ルノディック国王の執務室にいた。
人払いがされた執務室では、一晩思いつめたのだろうか、目の下に隈を作った国王が暗い表情で座っている。
「つまり、マリアベル姫はその冬の妖精の王様――ウィンラルドだっけ? そいつに連れて行かれたってことでいいのよね?」
メリーエルが訊ねれば、国王はメリーエルの肩にとまる妖精ビオラにすがるような視線を向けた。違う答えが返ってこないだろうかと一縷の望みに縋っているようだった。
しかし無神経なビオラはバッサリと答えた。
「間違いないわね! 昨日、常春の国に戻って春の女王様に聞いて来たけど、冬の妖精の国にそれらしい気配があったって言っていたわ」
「ってことは、それって、お姫様は妖精の国に攫われたってこと!?」
さすがにそこまで考えていなかったメリーエルは頭を抱えた。
一緒に行動しているだけならまだいいが、妖精の国に連れ去られてしまったら、どうやって助け出せばいいのだ。妖精の国への行き方なんて知らない。
ルノディック国王は口から魂が抜け出そうなほど茫然としてしまった。
しかしまたしても空気の読めないビオラは言う。
「そうよ! だから早くお姫様を連れ戻してよ!」
「無茶言わないでよ。……てかあんた、どうしてマリアベル姫を連れ戻したいのよ。そもそもあんたに関係ないんじゃないの?」
聞いたところによると、ビオラは春の妖精の国の女王に仕えているという。冬の妖精王のすることは彼女には何ら関係ないはずだ。
すると、ビオラは眉を八の字にして肩を落とした。
「関係あるわ。だって女王様はショックで寝込んでしまってて――、もしも本当にウィンラルド様がお姫様と結婚したりなんかしたら、女王様、閉じこもってしまうかも。そんなことになったら、常春の国に雪が降るし、きっと人間界にも影響して春が訪れないかもしれないわよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 春が来ないのは困るけど――、それより、なんで妖精の女王様がショックを受けるのよ」
「ウィンラルド様と女王様は恋人同士なの」
「はあ―――?」
メリーエルは頭を抱えた。意味がわからない。ウィンラルドと女王が恋人どうしで、どうしてマリアベルを嫁に取る話になるのだ。
メリーエルの脳のキャパシティーがオーバーしそうになるが、もとよりやる気のないユリウスが会話に加わる気配はないし、国王はまだ放心しているからどうしようもない。
メリーエルはこめかみのあたりをさすりながら、訊ねた。
「なんで別に恋人がいるのに、ウィンラルドはマリアベル姫を嫁にしようとしてるのよ」
「それは――」
ビオラは迷うように視線を彷徨わせてから、「内緒ね」と唇に人差し指を立てた。
「女王様とウィンラルド様は喧嘩中なの」
「喧嘩中?」
「そう。十八年前に大喧嘩しちゃって、そこからまだ仲直りできてなくて――」
「じゅ、十八年も喧嘩してんの……?」
それってもう破局しているのではないかと思ったが、妖精を人間と同じ基準で考えてはいけないのかもしれない。
(でも十八年前からって――、ん? 十八年?)
メリーエルは首を傾げた。
「もしかして――、十八年前に喧嘩して、だから生まれたばかりのマリアベル姫をお嫁に取る約束したの?」
「たぶん……。十八年前は、女王様もウィンラルド様が腹いせに約束したことだろうって気にしてなかったんだけど――、本当にお姫様と結婚しようとしているって知って、ショックを受けちゃって」
「いや、だったらさっさと仲直りすればいいのに……」
「女王様、プライド高いから」
「そう言う問題なの!?」
メリーエルは馬鹿馬鹿しくなってきた。しかし、いくら赤ん坊のころに命を救われたからと言って、巻き込まれたマリアベル姫もかわいそうだ。
(でも、妖精の王様に欲しがられてるくらいだもん、マリアベル姫ってよっぽど美人なんだろうなぁ)
太った女性が好きだと言うシュバリエと結婚するのと、冬の妖精王との結婚――、果たしてマリアベル姫的にはどちらが幸せなのだろう。
(逆にこのままの方が幸せだったりして――、あーでも、マリアベル姫助けたら、王様何でも好きなものくれるって言ったしなぁ。いろいろほしいなぁ。他人の姿になれる薬作ってみたいけど、七色の水晶とか高いから手が出ないし……ほしいなー)
メリーエルの天秤はあっさりと自分の欲求の方へと傾いた。
「それで、マリアベル姫を連れ戻しに、その妖精の国にはどうやって行けばいいの?」
「うーん、知らない」
「はあ?」
「だって、人間が妖精の国に行く方法なんてそれこそ迷い込む以外知らないもの」
メリーエルはビオラの首を絞めたやりたくなった。何とかしろと言ってきたくせに、方法はわからないとはなんて役に立たないちび妖精!
すると、見かねたユリウスがため息をついて口を開いた。
「妖精の国に迷い込んだ場合は今度は人間界に戻ってこられなくなる。無事に妖精の国と出入りするためには、妖精の祝福を受ける必要があるんだ」
メリーエルはビオラを見たが、ユリウスは首を振った。
「そんな下っ端じゃ無理だ」
「下っ端って何よ! これでもわたしは女王様の側近――」
「ある程度力を持った妖精からの祝福が必要だ。まずは人間界に居を構えている物好きな大物妖精を探すしかないな」
「人の話を聞きなさいよ―――!」
「うわー……、めんどくさっ」
ユリウスが淡々と告げて、それにかぶせるようにビオラが絶叫するのを、メリーエルは半笑いで聞いたのだった。
メリーエルとユリウス、ルノディック国王とビオラは、ルノディック国王の執務室にいた。
人払いがされた執務室では、一晩思いつめたのだろうか、目の下に隈を作った国王が暗い表情で座っている。
「つまり、マリアベル姫はその冬の妖精の王様――ウィンラルドだっけ? そいつに連れて行かれたってことでいいのよね?」
メリーエルが訊ねれば、国王はメリーエルの肩にとまる妖精ビオラにすがるような視線を向けた。違う答えが返ってこないだろうかと一縷の望みに縋っているようだった。
しかし無神経なビオラはバッサリと答えた。
「間違いないわね! 昨日、常春の国に戻って春の女王様に聞いて来たけど、冬の妖精の国にそれらしい気配があったって言っていたわ」
「ってことは、それって、お姫様は妖精の国に攫われたってこと!?」
さすがにそこまで考えていなかったメリーエルは頭を抱えた。
一緒に行動しているだけならまだいいが、妖精の国に連れ去られてしまったら、どうやって助け出せばいいのだ。妖精の国への行き方なんて知らない。
ルノディック国王は口から魂が抜け出そうなほど茫然としてしまった。
しかしまたしても空気の読めないビオラは言う。
「そうよ! だから早くお姫様を連れ戻してよ!」
「無茶言わないでよ。……てかあんた、どうしてマリアベル姫を連れ戻したいのよ。そもそもあんたに関係ないんじゃないの?」
聞いたところによると、ビオラは春の妖精の国の女王に仕えているという。冬の妖精王のすることは彼女には何ら関係ないはずだ。
すると、ビオラは眉を八の字にして肩を落とした。
「関係あるわ。だって女王様はショックで寝込んでしまってて――、もしも本当にウィンラルド様がお姫様と結婚したりなんかしたら、女王様、閉じこもってしまうかも。そんなことになったら、常春の国に雪が降るし、きっと人間界にも影響して春が訪れないかもしれないわよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 春が来ないのは困るけど――、それより、なんで妖精の女王様がショックを受けるのよ」
「ウィンラルド様と女王様は恋人同士なの」
「はあ―――?」
メリーエルは頭を抱えた。意味がわからない。ウィンラルドと女王が恋人どうしで、どうしてマリアベルを嫁に取る話になるのだ。
メリーエルの脳のキャパシティーがオーバーしそうになるが、もとよりやる気のないユリウスが会話に加わる気配はないし、国王はまだ放心しているからどうしようもない。
メリーエルはこめかみのあたりをさすりながら、訊ねた。
「なんで別に恋人がいるのに、ウィンラルドはマリアベル姫を嫁にしようとしてるのよ」
「それは――」
ビオラは迷うように視線を彷徨わせてから、「内緒ね」と唇に人差し指を立てた。
「女王様とウィンラルド様は喧嘩中なの」
「喧嘩中?」
「そう。十八年前に大喧嘩しちゃって、そこからまだ仲直りできてなくて――」
「じゅ、十八年も喧嘩してんの……?」
それってもう破局しているのではないかと思ったが、妖精を人間と同じ基準で考えてはいけないのかもしれない。
(でも十八年前からって――、ん? 十八年?)
メリーエルは首を傾げた。
「もしかして――、十八年前に喧嘩して、だから生まれたばかりのマリアベル姫をお嫁に取る約束したの?」
「たぶん……。十八年前は、女王様もウィンラルド様が腹いせに約束したことだろうって気にしてなかったんだけど――、本当にお姫様と結婚しようとしているって知って、ショックを受けちゃって」
「いや、だったらさっさと仲直りすればいいのに……」
「女王様、プライド高いから」
「そう言う問題なの!?」
メリーエルは馬鹿馬鹿しくなってきた。しかし、いくら赤ん坊のころに命を救われたからと言って、巻き込まれたマリアベル姫もかわいそうだ。
(でも、妖精の王様に欲しがられてるくらいだもん、マリアベル姫ってよっぽど美人なんだろうなぁ)
太った女性が好きだと言うシュバリエと結婚するのと、冬の妖精王との結婚――、果たしてマリアベル姫的にはどちらが幸せなのだろう。
(逆にこのままの方が幸せだったりして――、あーでも、マリアベル姫助けたら、王様何でも好きなものくれるって言ったしなぁ。いろいろほしいなぁ。他人の姿になれる薬作ってみたいけど、七色の水晶とか高いから手が出ないし……ほしいなー)
メリーエルの天秤はあっさりと自分の欲求の方へと傾いた。
「それで、マリアベル姫を連れ戻しに、その妖精の国にはどうやって行けばいいの?」
「うーん、知らない」
「はあ?」
「だって、人間が妖精の国に行く方法なんてそれこそ迷い込む以外知らないもの」
メリーエルはビオラの首を絞めたやりたくなった。何とかしろと言ってきたくせに、方法はわからないとはなんて役に立たないちび妖精!
すると、見かねたユリウスがため息をついて口を開いた。
「妖精の国に迷い込んだ場合は今度は人間界に戻ってこられなくなる。無事に妖精の国と出入りするためには、妖精の祝福を受ける必要があるんだ」
メリーエルはビオラを見たが、ユリウスは首を振った。
「そんな下っ端じゃ無理だ」
「下っ端って何よ! これでもわたしは女王様の側近――」
「ある程度力を持った妖精からの祝福が必要だ。まずは人間界に居を構えている物好きな大物妖精を探すしかないな」
「人の話を聞きなさいよ―――!」
「うわー……、めんどくさっ」
ユリウスが淡々と告げて、それにかぶせるようにビオラが絶叫するのを、メリーエルは半笑いで聞いたのだった。
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