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魔女はお節介な生き物です
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「ここで待っていてくれ」
国境付近にある山の入口に馬車を止めて、ロマリエ王国第三王子シュバリエは御者にそう告げると、一人馬車を降りた。
昨日に引き続き、何もない樹海しかない山へ向かう王子に御者は不思議そうな顔をするが、知人を訊ねるのだという王子には逆らわない。シュバリエは穏やかな王子であるが、下手な詮索をして王族の逆鱗に触れると、どこかの魔女のようにとらえられて追放されてしまうかもしれないからだ。
シュバリエは道らしい道のない山の中へ入ると、昨日の記憶を頼りに奥へ奥へと進んでいく。
魔女が禁忌とされるロマリエ王国で、魔女を見つけることはとても難しい。そんな中、つい最近見つけられて追放されたはずのメリーエル・フォーンを探し出せたことは奇跡としか言いようがなかった。
あとは、何とかして彼女から惚れ薬を手に入れるかだが――、昨日の様子だと、そう簡単にはいかないだろう。
メリーエルの追放を取り下げるように父に進言して、まだ、誰とも婚約していないハーロイドとの婚約で釣ろうかとも思ったが――どうやらハーロイドはメリーエルが好きらしいのでちょうどいい――、シュバリエは昨日見たユリウスを思い出して首を横に振った。
我が弟ながらハーロイドはなかなかの美男子だが、ユリウスには到底かなわない。昨日見た限り、メリーエルと彼は親密そうだ。そんなに都合よく釣れてくれるとは思えなかった。
落葉した木々の枝をかき分け進みながら、シュバリエはため息をつく。
メリーエルの言う惚れ薬がどんなにろくなものでなくとも、シュバリエは諦められないのだ。
(結婚を失敗したくない……)
マリアベル姫は優しい姫だ。彼女を悲しませたくはない。
どうして女性の外見の好みがこれほどまでに極端なのかと嘆きたくなるが、こればっかりは物心ついた時からそうなのだ。どうしようもない。
さて、どうやってメリーエルを説得しようかと考えながらしばらく進み、ようやく山の中に、大きな邸が見えてきたとき、邸の中から「メリーエル‼」という大きな怒号が聞こえてきて、シュバリエはびくりとした。
何事なのかと恐る恐る玄関の扉に近づき、開こうとしたとき、いきなり目の前の玄関の扉が開いて、中から小柄な少女が飛び出してくる。
「だってだってだってぇ!」
そう叫びながら飛び出してきたのは、どうやって懐柔――もとい、説得しようかと考えていたメリーエル・フォーンその人だった。
メリーエルは勢いよく邸の外に飛び出していき、途中で急ブレーキをかけたように止まると、くるりとシュバリエを振り返って、不思議な光彩を放つ緑色の目を輝かせた。
「……ん?」
シュバリエが首を傾げたとき、再び「メリーエル‼」と怒鳴り声が邸の中から聞こえてくる。
「うきゃいっ」
メリーエルは小さく悲鳴を上げると、シュバリエに向かって突進し、その背中にがしっとしがみついた。
「……え?」
シュバリエが何事かと肩越しに背中に張り付くメリーエルを見やり、説明を求めようとしたとき、どたどたという足音とともに、銀色の長い髪を振り乱したユリウスがあらわれる。
「メリーエル! 今度という今度は許さないからな!」
よくわからないが怒り狂っている様子のユリウスが、シュバリエの背中に張り付くメリーエルに向かって怒鳴りつけるが、シュバリエはそれよりももっと気になるものを見つけて目を丸くした。
「………。えっと……」
シュバリエの背中からメリーエルを引きはがそうとするユリウスには、べったりとアロウンが抱きついていた。
国境付近にある山の入口に馬車を止めて、ロマリエ王国第三王子シュバリエは御者にそう告げると、一人馬車を降りた。
昨日に引き続き、何もない樹海しかない山へ向かう王子に御者は不思議そうな顔をするが、知人を訊ねるのだという王子には逆らわない。シュバリエは穏やかな王子であるが、下手な詮索をして王族の逆鱗に触れると、どこかの魔女のようにとらえられて追放されてしまうかもしれないからだ。
シュバリエは道らしい道のない山の中へ入ると、昨日の記憶を頼りに奥へ奥へと進んでいく。
魔女が禁忌とされるロマリエ王国で、魔女を見つけることはとても難しい。そんな中、つい最近見つけられて追放されたはずのメリーエル・フォーンを探し出せたことは奇跡としか言いようがなかった。
あとは、何とかして彼女から惚れ薬を手に入れるかだが――、昨日の様子だと、そう簡単にはいかないだろう。
メリーエルの追放を取り下げるように父に進言して、まだ、誰とも婚約していないハーロイドとの婚約で釣ろうかとも思ったが――どうやらハーロイドはメリーエルが好きらしいのでちょうどいい――、シュバリエは昨日見たユリウスを思い出して首を横に振った。
我が弟ながらハーロイドはなかなかの美男子だが、ユリウスには到底かなわない。昨日見た限り、メリーエルと彼は親密そうだ。そんなに都合よく釣れてくれるとは思えなかった。
落葉した木々の枝をかき分け進みながら、シュバリエはため息をつく。
メリーエルの言う惚れ薬がどんなにろくなものでなくとも、シュバリエは諦められないのだ。
(結婚を失敗したくない……)
マリアベル姫は優しい姫だ。彼女を悲しませたくはない。
どうして女性の外見の好みがこれほどまでに極端なのかと嘆きたくなるが、こればっかりは物心ついた時からそうなのだ。どうしようもない。
さて、どうやってメリーエルを説得しようかと考えながらしばらく進み、ようやく山の中に、大きな邸が見えてきたとき、邸の中から「メリーエル‼」という大きな怒号が聞こえてきて、シュバリエはびくりとした。
何事なのかと恐る恐る玄関の扉に近づき、開こうとしたとき、いきなり目の前の玄関の扉が開いて、中から小柄な少女が飛び出してくる。
「だってだってだってぇ!」
そう叫びながら飛び出してきたのは、どうやって懐柔――もとい、説得しようかと考えていたメリーエル・フォーンその人だった。
メリーエルは勢いよく邸の外に飛び出していき、途中で急ブレーキをかけたように止まると、くるりとシュバリエを振り返って、不思議な光彩を放つ緑色の目を輝かせた。
「……ん?」
シュバリエが首を傾げたとき、再び「メリーエル‼」と怒鳴り声が邸の中から聞こえてくる。
「うきゃいっ」
メリーエルは小さく悲鳴を上げると、シュバリエに向かって突進し、その背中にがしっとしがみついた。
「……え?」
シュバリエが何事かと肩越しに背中に張り付くメリーエルを見やり、説明を求めようとしたとき、どたどたという足音とともに、銀色の長い髪を振り乱したユリウスがあらわれる。
「メリーエル! 今度という今度は許さないからな!」
よくわからないが怒り狂っている様子のユリウスが、シュバリエの背中に張り付くメリーエルに向かって怒鳴りつけるが、シュバリエはそれよりももっと気になるものを見つけて目を丸くした。
「………。えっと……」
シュバリエの背中からメリーエルを引きはがそうとするユリウスには、べったりとアロウンが抱きついていた。
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