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金色の蛇は魔女がお好き?
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「なんだったのよあれは――!」
メリーエルはぷりぷりと怒りながら、べしべしと銀色の鱗を叩いた。
「なんなのあの女っ! いきなり火の玉投げつけてくるとか、意味がわかんないっ」
「わかった! わかったから叩くな!」
龍の姿に戻ったユリウスは、背中にメリーエルを乗せてはるか上空をゆったりと飛行中だ。
メリーエルは先ほどから、怒り任せにユリウスの鱗に覆われた背中をべしべしと叩いている。
「あいつのおかげで! 薬の効果も確かめられなかったじゃないの!」
突然キャロット亭に飛び込んできた銀髪をツインテールにした少女は、メリーエルを見るなりいきなり火の玉で攻撃してきたのだ。
魔法薬を作るのは得意だが魔力はからきしのメリーエルは、当然のことながらそんなものをぶつけられてはひとたまりもないが、幸い店にいたユリウスによって助けられて、こうして空の上に逃げたというわけだ。
それにしても、真冬の上空は死にそうなほどに寒い。
凍えるような寒さが油となってメリーエルの怒りに注がれて、国境の山奥にある自宅に到着するまで、メリーエルはひたすらユリウスの背中を叩き続けた。
邸に到着すると、ユリウスが火を入れたリビングの暖炉の前に毛布をかぶって座って、メリーエルはじっとりとユリウスを見上げる。
「あの女、どこかユリウスに似ていたわよ!」
ホットミルクを両手に抱え持ってメリーエルがユリウスを見上げれば、彼は気まずそうについと視線をそらした。
それだけで、あの失礼な銀髪の少女はユリウスの知り合いだと理解したメリーエルは、「あの女誰よ」と低く訊ねる。
まるで浮気を問い詰められた夫のように視線を彷徨わせるユリウスが、「温かいスープでも作ってやろうか」とあからさまに話を逸らせようとするが、メリーエルは騙されなかった。
「わたしは! 危うく! 死ぬところだったの!」
「助けてやっただろ?」
「そういう問題じゃない!」
ぐいっとホットミルクを飲み干したメリーエルが、床の上にドン! とカップを叩きつけると、「割れる……」と小さくつぶやいたユリウスが諦めたようにため息をついた。
「あれは……、俺の従妹のナナリーだ」
「いとこぉ?」
八つ当たりされた破壊される前にと、ユリウスはカップを片付けながら、「そうだ」と小さく頷く。
「ってことは、あいつも龍の王族!?」
「まあ……、そう言うことになるな」
「いきなり火の玉投げつけてくるのが王族!?」
「……まだ幼いんだ」
「そう言う問題!? しかも泥棒魔女って言われたわよ! まだ何も泥棒してないわよ!」
「まだってなんだ、まだって」
ユリウスは嘆息するも、今回は分が悪いと思っているらしくメリーエルの怒りを素直に受け止めている。きーきー騒ぎ立てるメリーエルに静かに相槌を打ちながら、彼は暖炉に新しい薪を放り込んだ。
パチパチと薪が爆ぜる音がして、部屋の温度が上昇してくると、メリーエルはかぶっていた毛布を脱ぎ捨てて立ち上がる。
メリーエルの機嫌を取るためか、作り置きしているクルミ入りのクッキーを棚から取り出したユリウスが紅茶を煎れはじめると、その香りにつられたように、メリーエルは椅子についた。
「それで、あんたの従妹がどうしてわたしに火の玉を投げつけてきたのよ?」
こぽこぽとユリウスがティーカップに紅茶を注ぐのを見つめながら、メリーエルはクッキーを一枚口に入れる。
紅茶に砂糖を落として、メリーエル好みの甘さにしながら、ユリウスが肩をすくめた。
「ナナリーはお前に恨みがあるんだ。……俺が、お前のところに行くと言ったときに泣きわめいていたからな。ナナリーが生まれたときから世話をしていたせいか、あいつは特に俺に懐いているんだ」
「――は?」
メリーエルはごくんとクッキーを胃に押し込める。
「ちょっと待ってよ。それって全然わたし悪くないじゃない! あんたがわたしのところに来たのだって、わたしが脅したわけでも連行したわけでもないでしょ!」
勝手に来たんじゃないの――、とメリーエルは声を荒げる。
ユリウスはメリーエルに紅茶を差し出して、
「残念ながら、ナナリーはそう思っていない……」
とぼそりと答えた。
「つまり、何? わたしは身に覚えもないことであいつに恨まれてて、だからいきなり攻撃されたと? それで危うく死ぬところだった? ふざけんなーっ!」
「わかった、わかったから落ち着け。紅茶でも飲んで――ってもう飲んだのか」
ユリウスが言う前に、適温に冷まされていた紅茶を一気飲みしたメリーエルが、無言でティーカップをユリウスにつきつける。
ユリウスは同じく無言で紅茶を注ぎたすと、ばりばりとやけ食いのようにクッキーを口にしているメリーエルに差し出した。
「とにかく、俺はこれからナナリーを探して国に帰らせてくるから」
「当然ね。野放しにして置いたら、またわたしが狙われ――」
「――もう遅かったらしいな」
鼻息荒くさっさと国に連れ帰れと言いかけたメリーエルだったが、こめかみをおさえながらユリウスがつぶやいた一言に口元をひきつらせた。
直後、ドーンッという大きな音が、邸の上の方から響いてきた。
メリーエルはぷりぷりと怒りながら、べしべしと銀色の鱗を叩いた。
「なんなのあの女っ! いきなり火の玉投げつけてくるとか、意味がわかんないっ」
「わかった! わかったから叩くな!」
龍の姿に戻ったユリウスは、背中にメリーエルを乗せてはるか上空をゆったりと飛行中だ。
メリーエルは先ほどから、怒り任せにユリウスの鱗に覆われた背中をべしべしと叩いている。
「あいつのおかげで! 薬の効果も確かめられなかったじゃないの!」
突然キャロット亭に飛び込んできた銀髪をツインテールにした少女は、メリーエルを見るなりいきなり火の玉で攻撃してきたのだ。
魔法薬を作るのは得意だが魔力はからきしのメリーエルは、当然のことながらそんなものをぶつけられてはひとたまりもないが、幸い店にいたユリウスによって助けられて、こうして空の上に逃げたというわけだ。
それにしても、真冬の上空は死にそうなほどに寒い。
凍えるような寒さが油となってメリーエルの怒りに注がれて、国境の山奥にある自宅に到着するまで、メリーエルはひたすらユリウスの背中を叩き続けた。
邸に到着すると、ユリウスが火を入れたリビングの暖炉の前に毛布をかぶって座って、メリーエルはじっとりとユリウスを見上げる。
「あの女、どこかユリウスに似ていたわよ!」
ホットミルクを両手に抱え持ってメリーエルがユリウスを見上げれば、彼は気まずそうについと視線をそらした。
それだけで、あの失礼な銀髪の少女はユリウスの知り合いだと理解したメリーエルは、「あの女誰よ」と低く訊ねる。
まるで浮気を問い詰められた夫のように視線を彷徨わせるユリウスが、「温かいスープでも作ってやろうか」とあからさまに話を逸らせようとするが、メリーエルは騙されなかった。
「わたしは! 危うく! 死ぬところだったの!」
「助けてやっただろ?」
「そういう問題じゃない!」
ぐいっとホットミルクを飲み干したメリーエルが、床の上にドン! とカップを叩きつけると、「割れる……」と小さくつぶやいたユリウスが諦めたようにため息をついた。
「あれは……、俺の従妹のナナリーだ」
「いとこぉ?」
八つ当たりされた破壊される前にと、ユリウスはカップを片付けながら、「そうだ」と小さく頷く。
「ってことは、あいつも龍の王族!?」
「まあ……、そう言うことになるな」
「いきなり火の玉投げつけてくるのが王族!?」
「……まだ幼いんだ」
「そう言う問題!? しかも泥棒魔女って言われたわよ! まだ何も泥棒してないわよ!」
「まだってなんだ、まだって」
ユリウスは嘆息するも、今回は分が悪いと思っているらしくメリーエルの怒りを素直に受け止めている。きーきー騒ぎ立てるメリーエルに静かに相槌を打ちながら、彼は暖炉に新しい薪を放り込んだ。
パチパチと薪が爆ぜる音がして、部屋の温度が上昇してくると、メリーエルはかぶっていた毛布を脱ぎ捨てて立ち上がる。
メリーエルの機嫌を取るためか、作り置きしているクルミ入りのクッキーを棚から取り出したユリウスが紅茶を煎れはじめると、その香りにつられたように、メリーエルは椅子についた。
「それで、あんたの従妹がどうしてわたしに火の玉を投げつけてきたのよ?」
こぽこぽとユリウスがティーカップに紅茶を注ぐのを見つめながら、メリーエルはクッキーを一枚口に入れる。
紅茶に砂糖を落として、メリーエル好みの甘さにしながら、ユリウスが肩をすくめた。
「ナナリーはお前に恨みがあるんだ。……俺が、お前のところに行くと言ったときに泣きわめいていたからな。ナナリーが生まれたときから世話をしていたせいか、あいつは特に俺に懐いているんだ」
「――は?」
メリーエルはごくんとクッキーを胃に押し込める。
「ちょっと待ってよ。それって全然わたし悪くないじゃない! あんたがわたしのところに来たのだって、わたしが脅したわけでも連行したわけでもないでしょ!」
勝手に来たんじゃないの――、とメリーエルは声を荒げる。
ユリウスはメリーエルに紅茶を差し出して、
「残念ながら、ナナリーはそう思っていない……」
とぼそりと答えた。
「つまり、何? わたしは身に覚えもないことであいつに恨まれてて、だからいきなり攻撃されたと? それで危うく死ぬところだった? ふざけんなーっ!」
「わかった、わかったから落ち着け。紅茶でも飲んで――ってもう飲んだのか」
ユリウスが言う前に、適温に冷まされていた紅茶を一気飲みしたメリーエルが、無言でティーカップをユリウスにつきつける。
ユリウスは同じく無言で紅茶を注ぎたすと、ばりばりとやけ食いのようにクッキーを口にしているメリーエルに差し出した。
「とにかく、俺はこれからナナリーを探して国に帰らせてくるから」
「当然ね。野放しにして置いたら、またわたしが狙われ――」
「――もう遅かったらしいな」
鼻息荒くさっさと国に連れ帰れと言いかけたメリーエルだったが、こめかみをおさえながらユリウスがつぶやいた一言に口元をひきつらせた。
直後、ドーンッという大きな音が、邸の上の方から響いてきた。
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