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シャーロットの受難

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 第五妃の産んだ子供は王子だった。
 妃が生んだ王子をどうするかで議会は割れたが、アレックスの母である第三妃が、「子供に罪はないでしょう」と自ら育ての母になることを王に申し出て、結果それが通される形となった。自分の息子に毒を盛られた第三妃自らが受け入れると言ったことで、一時は修道院送りが有力とされていた議会の決定を覆した形となった。
 王子はリュディアンと名付けられた。

 第三妃に、遊びに来てねと言われたシャーロットだったが、第五妃の産んだ王子ということもあり、簡単に遊びに行ってもいいのだろうかと悩んでいると、アレックスがけろりとした顔でこう言った。

「子供は親の罪を背負って生まれてくるわけじゃない。腫れ物に触るような態度で接してみろ、それこそひねくれて育ったらどうするんだ。むしろ、産みの母親がいないんだからリュディは目いっぱいかわいがってやったほうがいい。親の罪のせいでみんなから冷たくされて育ったら可哀そうだろ」

 確かにアレックスの言う通りだが、実際に命を狙われた側でそう言い切ってしまう彼の心の広さには驚いた。

(この人って、本当に……)

 頭でわかっていても、心がついていかないことだってあるだろう。だが、アレックスは本心からそう思って発言している。アレックスのこういうところが、シャートットは好きだなと思う。恥ずかしいから口には絶対に出さないが。
 アレックスと一緒に第三妃の部屋へ行くと、そこには先客がいた。

「……何してんだ親父」

 アレックスは第三妃の部屋で、うとうとと眠っているリュディアンを見てはでれでれと笑み崩れている国王に冷ややかな視線を送った。
 国王は顔を上げて、にこにこと笑った。

「おお、アレックスか」
「おお、じゃねーよ。仕事ほっぽりだしてまたリュディのとこに来てんのか。ほどほどにしねぇと大臣が乗り込んでくるぞ」
「う、うむ……」

 国王はうぐっと言葉に詰まったが、リュディアンの顔を見るとまたでれでれした顔になる。

(……前から思っていたけど、陛下って子煩悩よね……)

 第五妃の罪により、一時は妃もろとも死罪になりかけたリュディアンを、議会全員敵に回してでも国王が守り通したことをシャーロットは知っていた。

「シャーロットさん、こっちへいらっしゃいな」

 第三妃に呼ばれて、シャーロットがそちらへ向かえば、リュディアンの乳母だという女性を紹介される。第三妃の遠縁にあたるらしいその女性は、二十台半ばほどの優しそうな女性でミランダと名乗った。

「リュディが来てくれたからにぎやかになるわ。ふふ、この年でもう一人育てることになるとは思わなかったけど、楽しいものね」

 第三妃は顔をくっつけてリュディアンの顔を覗き込んでいる国王とアレックスを見て、「あらあらそっくりね」と笑う。

「いろいろ悲しいことが続いたけれど、あなたがアレックスと婚約してくれて、リュディアンが生まれてきてくれて、ようやく落ち着いた気がするわ」
「妃殿下……」
「あの子、いろいろ我儘な子だけど、見捨てないであげてね」
「それは……、はい」

 強引にアレックスと婚約させられた形となったシャーロットだが、今はもうあきらめている。将来国を背負う王子の妻という立場が務まるかどうかはまだ不安だが、アレックスのことは、まあ、好きだと思う。一度はすべてから逃れて、田舎で本だけ読んで生活しようと考えていたけれど、今はこの結果に不満はない。

(まさかまた誰かを好きになるとは思わなかったけど……)

 婚約者だったレドモンドから手ひどい裏切りを受けて、もう二度と誰かと婚約することはないと思っていたけれど、アレックスはレドモンドのようにシャーロットを裏切ったりしない。そう信じられるから、彼の手を取るのは怖くなかった。
 第三妃とミランダと三人で他愛ない話をしていると、突然、ふにゃあと小さな声が聞こえて振り返る。

「うわっ、泣いた!」

 振り返った先でアレックスと国王が二人して、あわあわしながら揺り籠ごとリュディアンを抱き上げていた。

「あらあら、起こしちゃったの。陛下ったらまたリュディアンの頬っぺたをつついたのね」

 第三妃が立ち上がり、二人からリュディアンを受け取る。
 起こしちゃだめよと第三妃におっとりと怒られている国王とアレックスが二人そろってしょんぼりと肩を落としているのを見て、シャーロットは思わず吹き出してしまったのだった。
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