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魔女は魔女でも、男です
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時間は少し遡る――
アマルベルダがリュシオンの格好で外出すると、手持無沙汰になったイリアはキッチンでお菓子作りを開始した。
卵を溶いて、砂糖とバターを混ぜ合わせると、キッチンの奥で見つけたアーモンドを砕いて入れる。それから小麦粉をふるいにかけて、それらと混ぜ、キッチンテーブルの上に薄く伸ばした。クッキーを焼こうと思ったのだ。食事を作るのはなかなか上達しないが、お菓子作りなら教養の一つとして学んでいた。たまにクラヴィスにクッキーを焼いていくと、彼は嬉しそうに「美味しい」と言って食べてくれたものだ。
きっともう二度とクラヴィスにクッキーを焼くことはないだろう。イリアは淋しくなって目が潤みそうになったが、かわりにきっとアマルベルダが「美味しい」と食べてくれるはずだと自分を励まして、いそいそとクッキーを型抜きした。
気がつけば、バターの香りの釣られたのか、足元には白狐ポチがうろうろしていた。イリアは微笑んだ。
「狐さん、あなたも食べてくれるの?」
すると賢いポチは「コォン」と返事をした。
イリアは嬉しくなって「焼けるまで待っていてね」と言って、型抜きを再開する。
そうして型抜きを終えると、イリアはさてと考えた。クッキーを焼くためにはオーブンに火をつけないといけない。イリアは試しにパチンと指を鳴らしてみたが、残念ながら火はつかなかった。
「どうしましょう」
火がつかないことには、クッキーは焼けない。イリアはしばらく頭を悩ませて、そう言えば、ここに来るときに火打石を持っていたことを思い出した。
(よし! じゃあ、あとは薪ね!)
どういう構造なのか、ここのオーブンには薪がない。燃料がなくても燃えるづける不思議な魔法の火ならいざ知らず、火打石でつけた火には燃料が必要だ。
イリアは近くの山に燃料となる小枝を探しに出かけることにした。
賢いポチは、どうやらイリアが出かけるらしいとわかってついてくる。彼はイリアが小枝を拾うのを真似して枝を拾ってきてくれるので、思いのほか早くに必要な分の小枝が集まった。
イリアはオーブンの下をあけて小枝を入れると、火打石を使って火を起こした。そして、着火剤と鳴る落ち葉に火をつけると、ふーっと息を吐きかけた。そのとき。
ボンッ
不吉な音を立てて、オーブンが火を吹いた。
アマルベルダがリュシオンの格好で外出すると、手持無沙汰になったイリアはキッチンでお菓子作りを開始した。
卵を溶いて、砂糖とバターを混ぜ合わせると、キッチンの奥で見つけたアーモンドを砕いて入れる。それから小麦粉をふるいにかけて、それらと混ぜ、キッチンテーブルの上に薄く伸ばした。クッキーを焼こうと思ったのだ。食事を作るのはなかなか上達しないが、お菓子作りなら教養の一つとして学んでいた。たまにクラヴィスにクッキーを焼いていくと、彼は嬉しそうに「美味しい」と言って食べてくれたものだ。
きっともう二度とクラヴィスにクッキーを焼くことはないだろう。イリアは淋しくなって目が潤みそうになったが、かわりにきっとアマルベルダが「美味しい」と食べてくれるはずだと自分を励まして、いそいそとクッキーを型抜きした。
気がつけば、バターの香りの釣られたのか、足元には白狐ポチがうろうろしていた。イリアは微笑んだ。
「狐さん、あなたも食べてくれるの?」
すると賢いポチは「コォン」と返事をした。
イリアは嬉しくなって「焼けるまで待っていてね」と言って、型抜きを再開する。
そうして型抜きを終えると、イリアはさてと考えた。クッキーを焼くためにはオーブンに火をつけないといけない。イリアは試しにパチンと指を鳴らしてみたが、残念ながら火はつかなかった。
「どうしましょう」
火がつかないことには、クッキーは焼けない。イリアはしばらく頭を悩ませて、そう言えば、ここに来るときに火打石を持っていたことを思い出した。
(よし! じゃあ、あとは薪ね!)
どういう構造なのか、ここのオーブンには薪がない。燃料がなくても燃えるづける不思議な魔法の火ならいざ知らず、火打石でつけた火には燃料が必要だ。
イリアは近くの山に燃料となる小枝を探しに出かけることにした。
賢いポチは、どうやらイリアが出かけるらしいとわかってついてくる。彼はイリアが小枝を拾うのを真似して枝を拾ってきてくれるので、思いのほか早くに必要な分の小枝が集まった。
イリアはオーブンの下をあけて小枝を入れると、火打石を使って火を起こした。そして、着火剤と鳴る落ち葉に火をつけると、ふーっと息を吐きかけた。そのとき。
ボンッ
不吉な音を立てて、オーブンが火を吹いた。
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