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イケニエになりました!?
【おまけストーリー】シヴァ様とチョコチップクッキー
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沙良が魔王シヴァの生贄ではなく、本当は花嫁だったと判明してから数日後のこと――
沙良はふりふりの真っ白いエプロンを着て、アスヴィルとチョコチップクッキーを作った。
出来上がったクッキーをミリーに綺麗にラッピングしてもらうと、それを腕に抱えてシヴァの部屋の前に立つ。
生贄でなかったとわかった今でも、シヴァはちょっと怖いし、会うとなると緊張するが、またクッキーを作って持っていくと約束したのだ。
沙良は大きく深呼吸をひて、部屋の扉を叩いた。
しばらくして、扉が静かに開き、中から現れたシヴァが目を丸くする。
「どうした?」
訊ねられて、沙良はおずおずとクッキーの包みを差し出した。
「チョコチップクッキーです」
「また作ったのか」
「はい……」
迷惑だったのだろうかと、沙良はうつむきかけるが、シヴァがクッキーの包みをひょいっと取り上げたので、ホッと息を吐き出した。
「入れ」
「お邪魔します……」
シヴァの部屋に入るのは二度目だ。
部屋に入ってすすめられるままにソファーに腰を下ろすと、シヴァがパチンと指をならす。
目の前にあらわれたティーカップに、沙良は魔法ってすごいなと、改めて感じた。
シヴァは沙良の隣に腰かけて、ラッピングのリボンをほどいた。
「今日は、前よりもチョコチップ多めなんです」
「そうか」
シヴァはうなずいて、クッキーを口に運ぶ。
その様子をじーっと見つめていると、シヴァがこちらを見て、小さく苦笑した。
手を伸ばすと、シヴァは沙良の頭をくしゃりと撫でる。
「心配しなくても、ちゃんと美味い」
「ほんとですか!?」
沙良はぱあっと顔を輝かせた。
シヴァは何気なく言ったのだろうが、前回美味しいと言われなかった沙良は、その一言がすごく嬉しかった。
「嘘を言ってどうする」
シヴァはあきれたような声を出すと、無造作にクッキーを一枚つかむと沙良の口元に寄せた。
「食べてみろ」
沙良はびっくりして口を半分あけた。その隙間に、シヴァがクッキーを押し込む。
「むぐっ」
クッキーをまるまる一枚詰め込まれたから、沙良の小さな口のなかは一杯になってしまった。
リスのように頬をふくらませてクッキーを咀嚼していると、シヴァが小さく笑った。
(笑った……)
シヴァはいつも難しい顔をしていて少し怖いが、笑うととても優しい表情になる。
沙良はシヴァの笑顔につられて笑った。
「美味いだろう?」
沙良の笑顔をクッキーが美味しいからだと勘違いしたシヴァは、もう一枚クッキーを取ると、沙良の口元に持っていく。
沙良が口をあけると、また、まるまる一枚のクッキーを口のなかに入れられた。
「むぐぐ……」
沙良が再びリスのように頬を膨らませると、シヴァがまた笑う。
どうやらシヴァは、沙良が頬をいっぱいにふくらませて口をモグモグ動かしているのが面白いらしい。
「まだあるぞ」
沙良が口の中のクッキーを飲み込むのを待っているかのように、シヴァはクッキーを手にもってスタンバイしていた。
(うー、なんかオモチャにされてる気が……)
沙良は口のなかにクッキーを押し込まれる前にティーカップをつかむと、それを口に寄せる。
「シヴァ様も食べてください」
紅茶を飲むふりをしながら言えば、「ああ」とシヴァは手にもっていたクッキーを自分の口のなかに放り込み、新しくクッキーをつかんだ。
どうしても沙良の口のなかにクッキーを押し込みたいらしい。
(うー……)
沙良は紅茶を飲むふりをしながらしばしば葛藤し、にやにや笑ってクッキーを持って待っているシヴァの様子に諦めた。
とろい沙良が、逃げられるはずはない。
沙良はティーカップをおくと、口をあけた。
「うむむぅ……」
クッキーを押し込められて、頬を膨らませる。
――このあと、沙良は何度もシヴァに口のなかにクッキーを押し込められることになり、次は絶対、クッキーのサイズをふた回りは小さくしてやろうと心に深く誓ったのだった。
沙良はふりふりの真っ白いエプロンを着て、アスヴィルとチョコチップクッキーを作った。
出来上がったクッキーをミリーに綺麗にラッピングしてもらうと、それを腕に抱えてシヴァの部屋の前に立つ。
生贄でなかったとわかった今でも、シヴァはちょっと怖いし、会うとなると緊張するが、またクッキーを作って持っていくと約束したのだ。
沙良は大きく深呼吸をひて、部屋の扉を叩いた。
しばらくして、扉が静かに開き、中から現れたシヴァが目を丸くする。
「どうした?」
訊ねられて、沙良はおずおずとクッキーの包みを差し出した。
「チョコチップクッキーです」
「また作ったのか」
「はい……」
迷惑だったのだろうかと、沙良はうつむきかけるが、シヴァがクッキーの包みをひょいっと取り上げたので、ホッと息を吐き出した。
「入れ」
「お邪魔します……」
シヴァの部屋に入るのは二度目だ。
部屋に入ってすすめられるままにソファーに腰を下ろすと、シヴァがパチンと指をならす。
目の前にあらわれたティーカップに、沙良は魔法ってすごいなと、改めて感じた。
シヴァは沙良の隣に腰かけて、ラッピングのリボンをほどいた。
「今日は、前よりもチョコチップ多めなんです」
「そうか」
シヴァはうなずいて、クッキーを口に運ぶ。
その様子をじーっと見つめていると、シヴァがこちらを見て、小さく苦笑した。
手を伸ばすと、シヴァは沙良の頭をくしゃりと撫でる。
「心配しなくても、ちゃんと美味い」
「ほんとですか!?」
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シヴァは何気なく言ったのだろうが、前回美味しいと言われなかった沙良は、その一言がすごく嬉しかった。
「嘘を言ってどうする」
シヴァはあきれたような声を出すと、無造作にクッキーを一枚つかむと沙良の口元に寄せた。
「食べてみろ」
沙良はびっくりして口を半分あけた。その隙間に、シヴァがクッキーを押し込む。
「むぐっ」
クッキーをまるまる一枚詰め込まれたから、沙良の小さな口のなかは一杯になってしまった。
リスのように頬をふくらませてクッキーを咀嚼していると、シヴァが小さく笑った。
(笑った……)
シヴァはいつも難しい顔をしていて少し怖いが、笑うととても優しい表情になる。
沙良はシヴァの笑顔につられて笑った。
「美味いだろう?」
沙良の笑顔をクッキーが美味しいからだと勘違いしたシヴァは、もう一枚クッキーを取ると、沙良の口元に持っていく。
沙良が口をあけると、また、まるまる一枚のクッキーを口のなかに入れられた。
「むぐぐ……」
沙良が再びリスのように頬を膨らませると、シヴァがまた笑う。
どうやらシヴァは、沙良が頬をいっぱいにふくらませて口をモグモグ動かしているのが面白いらしい。
「まだあるぞ」
沙良が口の中のクッキーを飲み込むのを待っているかのように、シヴァはクッキーを手にもってスタンバイしていた。
(うー、なんかオモチャにされてる気が……)
沙良は口のなかにクッキーを押し込まれる前にティーカップをつかむと、それを口に寄せる。
「シヴァ様も食べてください」
紅茶を飲むふりをしながら言えば、「ああ」とシヴァは手にもっていたクッキーを自分の口のなかに放り込み、新しくクッキーをつかんだ。
どうしても沙良の口のなかにクッキーを押し込みたいらしい。
(うー……)
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とろい沙良が、逃げられるはずはない。
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「うむむぅ……」
クッキーを押し込められて、頬を膨らませる。
――このあと、沙良は何度もシヴァに口のなかにクッキーを押し込められることになり、次は絶対、クッキーのサイズをふた回りは小さくしてやろうと心に深く誓ったのだった。
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