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婚約していないのに婚約破棄された私
魔物討伐 4
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お父様の採取もひと段落し、後は夜を待つだけになった。
マンドラゴラも、音を封じる結界で閉じ込めて討伐したのでそれほど苦労もなく素材を手に入れることができた。小さな魔石も手に入ったのでこれはお母様のお土産にする。
川の近くの開けた場所に簡易テントを張って、その周りに念のために結界を張る。
持って来ていたパンと、フェヴァン様が川で捕って来た魚で食事をとったあと、だんだんと宵闇に包まれつつある空を見ながら、わたしとフェヴァン様は休憩を取った。
ちなみにお父様は、休憩前にわたしが素材を邸の玄関に転送すると、革袋があいたからと言ってこの近くでまた素材採取をはじめている。
「そういえばフェヴァン様は、いつまで我が家に滞在なさるんですか?」
もうかれこれ二週間である。ルヴェシウス侯爵家の嫡男である彼が、いつまでもこんなところで油を売っていていいはずがないだろう。社交もあれば仕事もあるはずだ。
「三週間ほど休みをもらったからあと一週間は大丈夫だよ」
「王太子殿下権限ですか?」
「そう。俺、殿下付きだから」
つまり、王太子殿下の側近と言うことだ。留学から戻って来たばかりの側近が、早々にまとまった休みを取ってもいいのだろうか。
……まあ、殿下もあの噂を早急に何とかしたいんでしょうけど、でもねえ。
いくら父親が宰相でも、あまり自由にしていたら周囲の目も厳しいものになるだろう。
ちょっと心配になったけれど、だったらさっさと婚約しろと言われたら困るので黙っておく。
……それにしても、いつになったら諦めるのかしら?
はじまりは最悪だったが、わたしはフェヴァン様が嫌いなわけではない。好きだ嫌いだと判断できるほど彼を知らないこともあるが、誠実でいい方だとは思う。頓珍漢ではあったが、振る相手に批判が行かないように、自分が泥をかぶろうとする優しさもある。まあ、それで「男が好きだ」という発言をするあたり意味はわからないが。
もし彼が、宰相家ではなく、どこかの伯爵家とか、それ以下の身分であれば、わたしも求婚を受け入れていたかもしれない。
わたしは容姿にまったく自信はないけれど、魔術の才能と伯爵令嬢という身分がある。大貴族相手でなければ、求婚者が現れるなんて運がよかったなと素直に嫁いだだろう。
でも、わたしにはルヴェシウス侯爵家に嫁げる器量はない。
フェヴァン様がいい方だからこそ、早々にわたしに見切りをつけて去ってほしかった。わたしが彼に惹かれる前に。
「寒くない?」
空を見上げてぼーっとしていると、肩にふわりと温かいものが掛けられた。それはフェヴァン様の上着だった。
驚いて彼に視線を映せば、優しい微笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。でも、フェヴァン様が寒くないですか?」
「俺は暑がりだから気にしないで。可愛いアドリーヌが風邪を引いたら大変だからね」
「またそんなことを……」
わたしのことを可愛いなんて言うのは、家族以外でフェヴァン様だけだ。
フェヴァン様からすれば、わたしなんて毛色の違う猫のようなものなのだと思う。普通の令嬢とちょっと違うから……珍しいから興味を持っているだけで、きっとそのうち飽きるはずだ。だから、彼の優しさを素直に受け取ってはいけない。勘違いしてはいけない。わかっているのだけれど、優しくされると勘違いしそうになる。
「ねえアドリーヌ。俺は何も今すぐ結婚しようとか、そういうつもりはないよ。婚約だって、婚約することを前提に考えてほしいとは思うけど、そう重たくとらえなくてもいい。もっと気楽に……そうだな、俺とお試しで付き合ってみるとか、そういうのでもダメなのだろうか?」
「それ、は……」
「お試しもしたくないほど、俺のことが嫌い?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「まずは付き合ってみて、俺のことをよく知ってほしいと思うんだ。だめかな?」
「ええっと……」
出かけにお母様が余計なことを吹き込んだからだろうか。今日はいつにも増してぐいぐいくる。
貴族の結婚は政略結婚が主だ。恋愛結婚をする夫婦がまったくいないというわけではないけれど、割合としては少ない。
お父様とお母様は恋愛結婚らしいから少数派で、昔から仲がよかったから、幼い頃はわたしもそういう結婚がしたいと夢見たこともあった。
だけど現実を知った今、そんな我儘を言うつもりは毛頭ない。
何がいいたいかと言うと、政略結婚が主な貴族社会において、お試しで付き合う、なんて言い出す男性はまれだということだ。
お遊びで付き合う、と言うのならばよく聞く話だが、結婚を視野にお試しで付き合おうなんて……まるで、恋愛しようと誘われているように聞こえるのはわたしだけだろうか。
わたしが黙り込んでいると、フェヴァン様がわたしの頬を撫でる。彼はわたしの頬を撫でるのが好きらしい。よく触られるなと思う。
「そんなに難しい提案をしたつもりはないんだけど……」
フェヴァン様にはそうかもしれないけれど、わたしには充分に難しい提案だった。
……だって、お試しで付き合ってみて、フェヴァン様を好きになっちゃったらどうするの?
その状態でお試し期間が終わって、フェヴァン様がやっぱりわたしなんていらないって思ったら、わたしはどうしたらいいの?
「少し……考えてからお答えしてもいいですか?」
「うん、いいよ。まあ、俺は諦めるつもりなんてないんだけどね」
フェヴァン様がそう言って、すっかり暗くなった空を見上げた。
「月が出てきた。そろそろいい時間かな? ……そういえば君のお父上はどこに行ったのだろう?」
わたしはハッとして、周囲に視線を這わせ、がっくりと肩を落とした。
「きっと、素材採取に夢中になって、ここから離れて行っちゃったんだと思います……」
帰ったらお母様に叱ってもらおうと心に決めて、わたしはお父様を探すべく、探索の魔術を発動させた。
マンドラゴラも、音を封じる結界で閉じ込めて討伐したのでそれほど苦労もなく素材を手に入れることができた。小さな魔石も手に入ったのでこれはお母様のお土産にする。
川の近くの開けた場所に簡易テントを張って、その周りに念のために結界を張る。
持って来ていたパンと、フェヴァン様が川で捕って来た魚で食事をとったあと、だんだんと宵闇に包まれつつある空を見ながら、わたしとフェヴァン様は休憩を取った。
ちなみにお父様は、休憩前にわたしが素材を邸の玄関に転送すると、革袋があいたからと言ってこの近くでまた素材採取をはじめている。
「そういえばフェヴァン様は、いつまで我が家に滞在なさるんですか?」
もうかれこれ二週間である。ルヴェシウス侯爵家の嫡男である彼が、いつまでもこんなところで油を売っていていいはずがないだろう。社交もあれば仕事もあるはずだ。
「三週間ほど休みをもらったからあと一週間は大丈夫だよ」
「王太子殿下権限ですか?」
「そう。俺、殿下付きだから」
つまり、王太子殿下の側近と言うことだ。留学から戻って来たばかりの側近が、早々にまとまった休みを取ってもいいのだろうか。
……まあ、殿下もあの噂を早急に何とかしたいんでしょうけど、でもねえ。
いくら父親が宰相でも、あまり自由にしていたら周囲の目も厳しいものになるだろう。
ちょっと心配になったけれど、だったらさっさと婚約しろと言われたら困るので黙っておく。
……それにしても、いつになったら諦めるのかしら?
はじまりは最悪だったが、わたしはフェヴァン様が嫌いなわけではない。好きだ嫌いだと判断できるほど彼を知らないこともあるが、誠実でいい方だとは思う。頓珍漢ではあったが、振る相手に批判が行かないように、自分が泥をかぶろうとする優しさもある。まあ、それで「男が好きだ」という発言をするあたり意味はわからないが。
もし彼が、宰相家ではなく、どこかの伯爵家とか、それ以下の身分であれば、わたしも求婚を受け入れていたかもしれない。
わたしは容姿にまったく自信はないけれど、魔術の才能と伯爵令嬢という身分がある。大貴族相手でなければ、求婚者が現れるなんて運がよかったなと素直に嫁いだだろう。
でも、わたしにはルヴェシウス侯爵家に嫁げる器量はない。
フェヴァン様がいい方だからこそ、早々にわたしに見切りをつけて去ってほしかった。わたしが彼に惹かれる前に。
「寒くない?」
空を見上げてぼーっとしていると、肩にふわりと温かいものが掛けられた。それはフェヴァン様の上着だった。
驚いて彼に視線を映せば、優しい微笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。でも、フェヴァン様が寒くないですか?」
「俺は暑がりだから気にしないで。可愛いアドリーヌが風邪を引いたら大変だからね」
「またそんなことを……」
わたしのことを可愛いなんて言うのは、家族以外でフェヴァン様だけだ。
フェヴァン様からすれば、わたしなんて毛色の違う猫のようなものなのだと思う。普通の令嬢とちょっと違うから……珍しいから興味を持っているだけで、きっとそのうち飽きるはずだ。だから、彼の優しさを素直に受け取ってはいけない。勘違いしてはいけない。わかっているのだけれど、優しくされると勘違いしそうになる。
「ねえアドリーヌ。俺は何も今すぐ結婚しようとか、そういうつもりはないよ。婚約だって、婚約することを前提に考えてほしいとは思うけど、そう重たくとらえなくてもいい。もっと気楽に……そうだな、俺とお試しで付き合ってみるとか、そういうのでもダメなのだろうか?」
「それ、は……」
「お試しもしたくないほど、俺のことが嫌い?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「まずは付き合ってみて、俺のことをよく知ってほしいと思うんだ。だめかな?」
「ええっと……」
出かけにお母様が余計なことを吹き込んだからだろうか。今日はいつにも増してぐいぐいくる。
貴族の結婚は政略結婚が主だ。恋愛結婚をする夫婦がまったくいないというわけではないけれど、割合としては少ない。
お父様とお母様は恋愛結婚らしいから少数派で、昔から仲がよかったから、幼い頃はわたしもそういう結婚がしたいと夢見たこともあった。
だけど現実を知った今、そんな我儘を言うつもりは毛頭ない。
何がいいたいかと言うと、政略結婚が主な貴族社会において、お試しで付き合う、なんて言い出す男性はまれだということだ。
お遊びで付き合う、と言うのならばよく聞く話だが、結婚を視野にお試しで付き合おうなんて……まるで、恋愛しようと誘われているように聞こえるのはわたしだけだろうか。
わたしが黙り込んでいると、フェヴァン様がわたしの頬を撫でる。彼はわたしの頬を撫でるのが好きらしい。よく触られるなと思う。
「そんなに難しい提案をしたつもりはないんだけど……」
フェヴァン様にはそうかもしれないけれど、わたしには充分に難しい提案だった。
……だって、お試しで付き合ってみて、フェヴァン様を好きになっちゃったらどうするの?
その状態でお試し期間が終わって、フェヴァン様がやっぱりわたしなんていらないって思ったら、わたしはどうしたらいいの?
「少し……考えてからお答えしてもいいですか?」
「うん、いいよ。まあ、俺は諦めるつもりなんてないんだけどね」
フェヴァン様がそう言って、すっかり暗くなった空を見上げた。
「月が出てきた。そろそろいい時間かな? ……そういえば君のお父上はどこに行ったのだろう?」
わたしはハッとして、周囲に視線を這わせ、がっくりと肩を落とした。
「きっと、素材採取に夢中になって、ここから離れて行っちゃったんだと思います……」
帰ったらお母様に叱ってもらおうと心に決めて、わたしはお父様を探すべく、探索の魔術を発動させた。
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