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第10章 異国の大決戦編

27.ワニアの戦い(19)

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志太幕府本陣において祐永が雷神を用いた事で周辺の天候は一気に崩れ始める。
雷神によって形勢された雨雲は急速に発達し、やがて大規模な積乱雲へと姿を変えていた。

ほどなくしてヘルト城周辺では雨が降り始める。
雨脚は次第に強まっていき、滝のような豪雨となっていた。

祐永
「ふむ、この天候はまだしばらく続いてくれそうじゃな。さすれば…」

激しく降り続ける雨の中で祐永はそう呟いていた。
そして引き締まった表情に切り替わり、兵たちに対して声を上げ始める。

祐永
「全軍に告ぐ!直ちに軍勢を我ら本陣にまで帰還させよ!」

先程に自身の命によって後退させた軍勢らを今度は本陣の軍勢との合流をさせようと命じていた。
これを受けたセビカ軍の長継は口を開き始める。

長継
「確かに、この雨の中では流石に敵とは戦えぬな…それ故に帰還の命が下ったということであろう。」

現在のヘルト城付近は激しい豪雨に見舞われている。
それは、周囲の様子が掴みづらいほどであったという。
このままの状態で敵軍と戦うは困難である事に間違いは無かろう。
それ故に軍勢を安全な場所にまで避難させようとしているのであろう。
長継は祐永の下した命の意味をそのように理解している様子であった。

それに対してドヴェルクが答え始める。

ドヴェルク
「えぇ、恐らくはこの場に留まっていては危険ということでしょう。」

この豪雨で見通しの悪い中での籠城戦は、城内に構えるヘルト軍が有利であろう。
それ故に、ここは一旦退くが得策。
どうやら彼もまた、長継と考えをほぼ同じくしている様子であった。

そして、宗重ら率いる連合軍では宗重が深く頷いた後に声を上げ始める。

宗重
「ははっ、雷を避ける故のご判断にございますな。承知いたしました!」

雷神を使用する事でヘルト城付近の至る所では間もなく落雷が発生する。
その際に自軍勢が散らばっていれば落雷の被害を受ける危険性は必然的に増える。
そうした事もあった故の今回の判断なのであろうと宗重は考えているようであった。

すると政武は苦い表情を浮かべながら声を漏らし始める。

政武
「それにしても、ここまで凄まじい雨は爺さんらと初めて会うた時以来じゃな…」

それは、彼が束ねていた亀去島海賊衆の領海に侵入した幕府の船に対して戦闘状態となった時の話である。
海上での行動に長けている海賊衆という事もあってか、幕府側との海戦では自勢力が優勢状態であった。
だが、その周辺を嵐が襲いかかった事によって自身の船は大破。
実にあっけない結果で亀去島海賊衆は戦いに敗北する事となった。
現在の天候の荒れ模様は、この時に受けた嵐に匹敵するほどのものであると政武は言っていた。

そんな政武を急かすようにして崇房が声を上げ始める。

崇房
「とにかく、今は我ら軍勢を無事に本陣まで帰還させるが先決。急ぎましょうぞ!」

崇房のその声により、宗重らの軍勢は足を進め始めるのであった。
祐永の構える本陣へと向かいながら宗重が呟き始める。

宗重
「しかし、これで真に上手く事が運ぶのでござろうか…」

どうやら宗重は、今回の祐永の策によって自軍が有利な状態となるのであろうか疑問を抱いていた。

祐永
「雨よ、もうしばらく降り続けてくれ…さすれば我ら連合軍は一気に優勢となろうぞ。頼む、頼むぞ…」

祐永は、厚い雨雲に覆われている空を眺めながらそう言っていた。
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